もし「寝落ちもしもし」を知らなければ、今すぐツイッターの検索窓などにこの言葉を入力してみてほしい。「寝落ちもしもし」をする相手を探す若者のツイートが見つかるはずだ。

昔から深夜の長電話は若者文化のひとつであるが、文字のやり取りが主流となった現代において、寝る間際まで電話する行為に名前がつけられたのは注目に値する。若者たちは、「寝落ちもしもし」に何を求めているのか。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)

もはや話していなくてもいい
ポイントは“通話がつながっていること”?

“寝落ちもしもし”という言葉を聞いたことがあるだろうか。筆者の観測によれば数年前から、若者たちの間でひそやかに流行している言葉である。“寝落ち通話”“寝落ちもちもち”といった呼び名もある。

 どのような内容かは字面からおおかた予想がつくかもしれないが一応説明しておくと、「どちらかが眠気に抗(あらが)えなくなって眠りに落ちてしまう(寝落ちする)まで通話をつなげておく」というものである。

 若者が寝る直前まで長電話する文化は今に始まったことではないが、この行為に名前がつけられたことはもしかしたら初めてかもしれない。おそらく、通話料金を気にしなくてもいいツールが登場したことと無関係ではないのだろう。

 携帯電話の“かけ放題”プランなどもあるにはあるが、近年ではネット環境さえあればSkypeやLINEなどのアプリで通話し放題。広く利用されているのはこちらだろう。現代の若者はLINEなどでのメッセージや絵文字、スタンプのやり取りがメインと考えられがちだが、案外通話でのコミュニケーションも続いているのである。

 楽しいおしゃべりがメインとなる長電話は通話を終える際、両者の間で「今日はここでおしまいにしよう。

ではまた」という簡単な挨拶が取り交わされる。

 一方、寝落ち通話は「両方寝落ちしたら」そこがおしまいである。相手が寝息を立てただけではまだおしまいとするには足らない場合がある。「こちらも眠りに落ちるまで相手の寝息を聞いていたい」とする人も少なくないからである。

 また寝落ち通話ではメインとなるものが必ずしも「おしゃべり」ではない。大事なのは「通話をつなげていること」であり、数十分~数時間にわたってお互いが無言で、あるいはお互いが独り言をつぶやいて別々のことをしていても問題はないらしい。

 この寝落ち通話なるものとは一体どのようなものなのか。日常的にこれを楽しむ若者たちの話を紹介したい。

アラフォー男性2人
寝落ち通話に挑戦

 まず、寝落ち通話について取材するにあたって、筆者は実際に自分でやってみることにした。相手は日ごろ仲良くしている同世代の友人Aさん(男性)を選定し、付き合ってもらうことにした。ともにアラフォーであり、Aさんは筆者の2~3歳上の先輩である。

 前提として筆者は電話が好きではなくむしろ嫌いで、スマホが振動して誰かからの着信を告げていると知ると暗黒の気分になり、通話が短ければ短いほど喜びを感じるクチである。

しかし対人関係において時として長電話の必要に迫られる場面もあり、スイッチを入れれば楽しんで長電話をこなす自信がある。一方、Aさんは長電話がそれなりに好きだが、寝落ち通話の経験はない。

 深夜1時から通話が始まった。「では、本日は『寝落ちもしもし』ということで、よろしくお願いします」と改まった挨拶に、おそらく本家若者が行う作法にはないであろうぎこちなさがうかがわれた。

 Aさんはいつもの長電話をするテンションであれやこれやと話し始め、滑り出しは順調であった。この調子で過ごしていってやがて2人が寝落ちすれば完璧である。

 1時間半経ち世間話が一巡した。話題が尽きたこともそうだがお互いやや疲れも出てきていた。願わくばすぐにでも通話を切って布団にもぐりこみたい。その思いはAさんも同じらしく「もう話すことがないから切ってもいいか」と言い出した。しかしそれでは寝落ち通話の取材にならない。「切ってはいけません。

その代わり通話さえつなげていれば会話なくても何していてもいいですよ」と伝えると、「じゃあネットでもやることにする」とAさんは言い、2人で無言となった。

 それから思い思いの時間を過ごす運びとなったがどうにも落ち着かない。電話の向こうから確実にAさんがいる気配が伝わってきて心からのびのびとすることができない。向こうも同様らしく、せき払いひとつするのにもどこか気を使っている様子である。

 率直に「気持ち悪いから切っていいか」「恋人でもないのになぜこんな気持ち悪いことをしなければならないのか」と不満をぶつけてきた。「『寝落ちもしもし』の取材なのでご協力を」となだめてからしばらくすると、おそらくこの状況に飽きてきたのであろう、Aさんが意味をなさない奇声を発し始めた。

 深夜のどうしようもない時間帯に突入したようで、くだらないことが無性におかしい。ひとしきりゲラゲラ笑うと、これも通例で、その後強い倦怠感を伴う沈黙が訪れた。Aさんは大きいあくびを連発している。

「さすがにもう切って寝てもいいか」

「いけません。このまま寝て寝息を聞かせてください」

「その気持ち悪さは一線を越えている。取材で済まされるレベルではない」

 といったやり取りがあり、ここらが限界と筆者も判断し、礼を言って通話を終了した。

時刻は4時過ぎで、約3時間に及ぶ通話となった。

 体験調査は完遂できず、「長めの長電話」くらいの通話時間ではあったものの、大きな収穫を得ることができた。何より重要な発見は、我々が「寝落ち通話をやりきることができなかった」という点である。

 2人とも異性愛者であり、既婚で、長い付き合いになるがもうアラフォーであり、そのような相手と今さら殊更に仲むつまじくする必要はなく、一言でいって気持ち悪い。

 筆者もAさんも寝落ち通話に対して構えている部分があり、そこがのめり込めなかった最大の要因ではなかろうか。恋愛と一緒で、はたから見れば常軌を逸した行動・言動でも渦中の人は真剣であり、そこには相応の熱意が宿っている。その渦の中に飛び込んでさえいけば、寝落ち通話も楽しいものなのかもしれない。

 筆者とAさんは少なくとも、そこに飛び込んでいくだけの若さや情熱を持ち合わせてはいなかったのであろう。

>>(下)に続く

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