思い切って、泌尿器科の外来を受診した。最近、男性としての機能に自信が持てないからだ。
診察室に入ると、事前に記入した問診票を見ながら、先生が穏やかに質問を始める。
「どんなお仕事でしたっけ。最近は忙しいですか?」
「イライラするとか、眠れないとか、ストレスを感じることは多いですか?」
「お酒は週にどのぐらい飲む?」
もちろん勃起や陰茎の状態についても聞かれた。
「朝勃ちはありますか?」
「中折れしてしまう?」
「いつ頃からか覚えてます?」
さらに、病歴や服用薬について問われ、10分程度で終わった。ズボンを下げる必要もなく、ほっとした。無事ED(勃起不全)薬を手に入れ、あとは効果を期待するのみ……。
男性にとって、EDで病院に行くことのハードルは高い。状況を詳細に聞かれるからだ。女性の看護師がいたら、恥ずかしくもある。だが、実際に受診してみると、前述のようなやりとりに加え、場合によっては血液検査や心電図などの検査が行なわれるものの、「意外とあっけなかった」と拍子抜けする人が多い。それでも、踏み切れぬ人がおおかたであろう。
日本では40歳以上の約半数がEDになっていると見られ、潜在的な患者数は1130万人と推計されている。
原因はさまざまだ。加齢や多量の飲酒、喫煙、高血圧などの生活習慣病などはよくある。糖尿病患者なら、約3割がEDを発症する。若者には心因性も多い。30代以下で、自慰やパートナーが変わった場合には十分な勃起が得られる、といったケースだ。
「勃起障害の発現状況、罹患期間、性歴などを問診で聞けば、原因のかなりの部分を的確に推定できる」(丸茂健・東京歯科大学市川総合病院教授)
通常のEDなら、三種ある治療薬のいずれかが処方される。(1)「バイアグラ」(ファイザー)、(2)「レビトラ」(バイエル薬品)、(3)「シアリス」(日本新薬)である。簡単に特徴を述べよう。(1)と(2)は大きな違いがなく、内服して約1時間後に効き始める。維持時間は8時間程度。(1)は満腹状態で飲むと、効くまでに時間がかかるのが注意点だ。
一方、(3)は“ウイークエンド・ピル”の言葉どおり、36時間持続する。
価格は自由診療なので医療機関によって異なるが、1錠1200~2000円が相場といわれる。服用者の8割以上が機能を回復したとされ、薬効は高い。EDの解消で、性交や夫婦関係の改善以外にも、自信を取り戻すことができ、気持ちが明るくなったと効果を喜ぶ声は多い。
しかし、やはり処方してもらうために病院に行くのが億劫な人も多いのだろう。近年は、インターネットを通じたニセ薬が大量に流通している。一見、真正品と見分けがつかないぐらい精巧にできている(写真)。
ED治療薬を製造・販売している4社合同の調査(2009年12月発表)によれば、ネットで入手したED治療薬の約6割が偽造品だった。有効成分含有量が承認容量より超過か不足、またはまったく含まれないものもあった。
最後に付け加えれば、EDの原因には、冠状動脈の狭窄などが隠れている可能性もある。恥ずかしさは一時のことと腹をくくり、医師の診察を受けるほうが得策だ。