特定健診、通称メタボ健診の季節が間近だ。ベルトの穴に一喜一憂する同僚を尻目に余裕を見せていた普通体型のUさん、42歳。
男性85センチメートル、女性90センチメートル以上というへそ周りの寸法だけが一人歩きし「肥満=メタボリックシンドローム」と思われがちだが、腹囲だけにこだわると普通~小太り体型のメタボグループを見逃してしまう危険性が指摘されるようになった。
そもそもメタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を背景にインスリンの効き目が悪くなり、脂質異常症や糖尿病の前段階など悪条件が重なっている人をあぶり出すためにつくられた概念。腹囲は真実に至るための「方便」であり、基準以下だから健康、というわけではない。
脂肪組織は蓄積される場所によって皮下脂肪と内臓脂肪に大別される。脂肪細胞そのものは長らくエネルギーの貯蔵庫くらいに思われていたが、 1990年代に研究が進み、脂肪細胞から生体に影響を及ぼす物質が分泌されることがわかってきた。代表的なのは食欲を抑えるレプチンや抗糖尿病に働くアディポネクチン、逆に全身性の炎症を引き起こし、糖尿病発症の原因ともなるTNF‐αなどである。内臓脂肪が蓄積されると分泌物質のバランスが崩れて毒性を生じることから、内臓脂肪の危険性が認識されるようになった。
また最近の研究から第3の脂肪ともいうべき「異所性脂肪」の存在が注目されている。異所性脂肪とは、本来あるべきではない場所、たとえば筋肉細胞の中や膵臓の細胞に沈着した脂肪のこと。余剰エネルギーが皮下脂肪―内臓脂肪にたまった後もエネルギー過剰状態が続くと、適正な場所から脂肪組織が溢れ出し、異所性脂肪になると考えられている。
そもそも日本人は皮下脂肪をためる容量が欧米人よりも小さく、少し太っただけで異所性脂肪が蓄積する可能性が高い。
困ったことに中高年では皮下脂肪よりも、むしろ内臓脂肪や異所性脂肪が増加する傾向がある。細胞毒から内臓を守るにはせっせと身体を動かし、高脂肪食を制限すること。肥満であろうがなかろうが、健康は1日にして成らず、なのだ。