肝がんの発症原因はウイルス性肝炎とアルコール性肝炎が代表だが、先進国では非アルコール性脂肪肝炎(NASH)からの発症例が急増している。

 NASHは血糖を下げるインスリンに対する感受性が鈍る「インスリン抵抗性」などが原因で起こるメタボリックシンドローム(メタボ)を背景とした肝疾患。
東京都肝臓医療専門機関/麻布医院(東京都港区)の高橋弘院長は「国内のNASH患者数は推計200万人、そのうち2~3割が約10年で肝硬変、肝がんに進行する」と警告する。NASHを直接、治療する薬剤は少ないが、高橋院長は自身の研究と実臨床の経験から「NASHの進行を抑えるには体の“酸化、糖化、鉄化”を防ぐ食事療法が最適」だという。

 まず「酸化」を防ぐ食事。活性酸素による細胞障害に対抗するには、「ファイトケミカル(PC)」が強い味方だ。PCとは植物に含まれる機能性成分でポリフェノールやリコピンが有名。抗酸化作用のほか、発がん物質の抑制作用、免疫増強作用があるとされる。
サプリメントもあるが、単一成分を過剰摂取するより野菜や果物を意識的に食べるほうがいい。ただし野菜は加熱すること。細胞膜にあるPCを吸収するには熱で細胞壁を壊す必要があるからだ。

 次の「糖化」は現代人にとって鬼門の相手。糖質を含む炭水化物を制限する食事療法もあるが、ご飯好きには案外厳しい。その場合は食べる順番で血糖を上げ過ぎない工夫をしよう。
おかずと汁物を先に食べ、ひと息ついてからご飯やパンに手を伸ばすのだ。また、昼食は糖質が少ないそばなどの麺類がおすすめ。そば湯を頼めばPCのルチンも摂れる。

 3番目の「鉄化」を防ぐのは鉄による酸化促進作用を抑えるため。すでにC型肝炎の患者には「鉄制限食」が処方されている。あまり神経質になる必要はないが、すでに肝炎や脂肪肝を指摘されているなら、レバーや赤身肉(魚の血合も)を避けたほうがいい。


 食事療法というと面倒そうだが、これは今日の昼からできそうなことばかり。検診で肝機能に黄色信号が灯った方はぜひ実践してほしい。今のうちにいたわらないと後半生は肝臓のしっぺ返しを食らう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)