対象製品から検出されたセシウムは、国が定めた乳製品の暫定規制値の1キログラム当たり200ベクレル、乳児用ミルクに使う製品の同100ベクレルをも下回る。だが、当該製品はすでに多くが消費されてしまっており、乳児を持つ母親への心理的なダメージは大きい。
問題点は二つある。まず、明治が3月の原発事故以降、自社で設けていた放射性物質検査の網の外で汚染が発見されたこと。明治は、1ヵ月に1回程度、缶封入前の製品の抜き取り検査を行っていた。だが、今回は福島県二本松市のNPOが製品を独自に検査し、通報した結果を受け、明治が該当製造日付近の在庫を調べて汚染が判明した。
野菜や肉などの1次産品以外の加工食品に対する放射性物質検査は、現時点では国による明確な手順が定められていない。多くのメーカーが独自の検査体制を敷いているが、詳細は各社の判断に委ねられているのが実情である。
たとえば、同じ粉ミルクメーカーの和光堂では、3~4日の製造単位ごとに検査を行っている。
もう一つの問題点は、今回の汚染経路が「空気」の可能性があるということだ。
明治によれば、粉ミルクの原料となる脱脂粉乳や乳清などの原料は、震災前に北海道や米国で生産されたものであり、汚染されていた可能性は考えにくい。
問題の製品が生産された時点の空間放射線量は測っていないが、「液体にした原材料に熱した大量の空気を吹き付けることで粉にする工程で、外気の取り込み口にフィルターを付けていたが、放射性物質を除去する仕様にはなっていなかった」(明治)。
詳細な経路の特定は今後も進められる見通しだが、もし本当にそうであれば、事は明治や粉ミルク業界にとどまらない。同様の乾燥工程を持ち、かつ外気の空間放射線量が高かった時期に工場を稼働させたすべての食品工場で、こうした例が出てもおかしくない。
原発事故以降の放射性物質の飛散状況が明確にわかっていないなか、すべての汚染を水際で食い止めることは非常に困難だ。しかし、食品は直接口に入るものである。その安全確保は、食品企業の経営の根幹であるはずだ。森永乳業、雪印メグミルク、和光堂など粉ミルク業界のみならず、食品企業を挙げて、早急に検査体制の一本化および強化を図る必要がある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)