当面はイオンの持ち分法適用会社とするが、テスコはすでに日本からの撤退を決めているため、いずれはイオンが完全子会社化する方向とみられる。
テスコジャパンは首都圏を中心に食品スーパー「つるかめ」「テスコ」など117店を展開しており、営業収益は550億円に上る(2012年2月期)。
だが、店舗の半数が今も赤字であるため、今後、イオンはプライベートブランド「トップバリュ」の投入や、ITシステムや物流網のインフラ活用などで、経営改善を目指すことになる。
今回、業界関係者を驚かせたのは、1円という譲渡価格だ。テスコは03年7月に旧シートゥーネットワークを買収することで日本に進出。その後も中小スーパーを買収しており、日本への投資額は約300億円に上る。それ故、一時、売却交渉額は200億~300億円ともささやかれていた。
破格なのは譲渡価格だけではない。テスコはテスコジャパンの立て直し費用として約50億円の“お土産”をつける上、テスコジャパンが抱える債務も負担。合計で二百数十億円をテスコが負うことになり、イオンの投資コストはほとんどない模様だ。
なぜテスコジャパンはこれほどに買いたたかれたのか。
そもそもテスコが日本からの撤退を発表したのは昨年8月。それ以来、セブン&アイ・ホールディングス、ウォルマート、ドン・キホーテなどさまざまな名前が挙がったが、売却先探しは難航した。
テスコの前身である旧シートゥーネットワークは、商品の安さが売りのディスカウントストア。出店コストを優先したため、立地や店舗サイズは100平方メートル以下から800平方メートル前後までバラバラである。だが、テスコが売却交渉で最優先したのは、全店舗の引き受けと約1900人に上る従業員の雇用の維持だった。
結局、店舗を一括で引き受けられるのは、多様な業態を抱えるイオンぐらいしかなかった。
一方、イオンにとって、テスコジャパンへの出資の最大の狙いは首都圏における出店用地の確保である。11年度からの3カ年の中期経営計画において、大都市を重点エリアと位置付け、小型店舗を積極出店している。特に東京23区、横浜市、川崎市で展開するミニスーパーの「まいばすけっと」は、今期で150店増の400店とする予定で、来期以降も年間200店ペースの出店を計画している。それ故、「テスコジャパンの買収は時間を買うという点でメリットがある」(イオン関係者)。
テスコジャパンへの出資は、イオンが首都圏において積極攻勢に転じる狼煙となりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)