『週刊ダイヤモンド』11月23日号の第1特集は、「自動車 最終決断」です。日立製作所とホンダによる、傘下の部品子会社4社の統合、アイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュという、2つのアイシンの合併――。

今年度に入り、自動車部品業界では再編の号砲が鳴っています。CASE(ケース。コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化)と呼ばれる4つの技術トレンドは、自動車産業に脅威とビジネスチャンスをもたらすことになりそうです。

自動車産業を壊す
CASEの正体

 日本が世界に誇る自動車産業が「CASE(ケース。コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化)」と呼ばれる4つの技術トレンドの大波にのみ込まれつつある。

 そもそも、CASEという言葉を最初に使ったのは、独ダイムラーのディーター・ツェッチェ社長(当時)だ。2016年9月のパリモーターショーで発表した中長期戦略の中で使用された“造語”である。老舗自動車メーカーの経営者が、ビジネスの土俵を新しい領域に移してもなお、モビリティ産業の主役であり続けると宣言。覚悟の狼煙を上げたのだった。

 伝統的な自動車産業がドラスチックな変容を迫られるぐらいに、CASEが業界に与える破壊力は凄まじい。2030年には、先進国の全ての新車が常時インターネットに接続される「コネクテッドカー」となる見込みだ。情報通信機能が車に搭載され、車の「巨大スマートフォン」化が加速度的に進むことになる。

 日本の製造業には苦い経験がある。10年前、リーマンショック後の日本の電機メーカーは死の淵にあった。スマートフォンや薄型テレビを組み立てる「セットメーカー」だった国内電機メーカーは、韓国・台湾・中国勢にコスト競争力で敗北した。

 そして今回、電機の苦境を横目に見ていた自動車産業に、未曾有の危機が降りかかっている。

 これまで、自動車産業のサプライヤーピラミッドの頂点に君臨してきたトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車は、新領域でも「プラットフォーマー」になれるのか、あるいはハードウエア主軸のビジネスモデルから脱却できずに、「組み立て屋」に甘んじるのか。今が分岐点になっている。

 電機危機のときとは比較にならないくらい、今回のライバル―伝統的な自動車産業を壊す破壊者―は強敵だ。

 米グーグルや米アップルなどの「ITジャイアント」、ソフトバンクグループなどの「サービス・ソリューション・プロバイダ(完成品・基幹部品だけではなく、自動運転などソリューションやシステムも提供する)」、独ボッシュなどの「メガサプライヤー」、そして「中国企業」が破壊者の有力候補である。

 とりわけ、日系自動車メーカー幹部が「最強のゲームチェンジャー」だと恐れているのが、中国企業である。

 伝統的な自動車メーカーとITジャイアント、ベンチャーが共存し、自動車製造からサービスまでの「水平分業」が中国国内で完結している。さらに、技術革新のスピードが早く、「1車種につき5年を要する車の開発期間が1年に短縮する日がやってくる」(自動車メーカー技術者)。これまで日米独が牛耳って来た自動車産業への追随の速さは尋常ではない。

 そして、現時点では、CASE領域で儲けるビジネスモデルを示せた自動車メーカーはない。

 トヨタ、ホンダ 、日産自動車など完成車メーカーは、CASE領域への研究開発費が右肩上がりで激増しており、収益性は低下傾向にある。

 CASE時代には、クルマの価値観は激変する。コネクテッドカーや自動運転においては、究極的には、全車両で交通事故が起きないことを目的とすべきであって、「ウチの会社のクルマは競合メーカーのクルマよりも安全です」と差別化をアピールすることは本来、理想的とは言えない。

 そのため、CASE領域では自動車業界で共通化するところ(協業領域)と、差別化するところ(競争領域)の線引きが非常に重要になる。

 例えば、世界最高峰の自動車レースF1(フォーミュラ・ワン)でも、右肩上がりで高騰する開発費を抑えるために、ECU(電子制御ユニット)を全車両で英マクラーレン製のものに共通化しているのと同じイメージだ。

 ところが、現状の自動車業界では、全自動車メーカーでCASEのどの領域を協業するのか、競争するのかを探り合う「チキンレース」になっている。

 早急に協業・競争領域の線引きをして、各メーカーが何をコアコンピタンスにするのか決めないと、本来差別化をする意味のない技術を開発することで自動車メーカーの体力を消耗させてしまうことにもなりかねない。それでは、家電メーカーと同じ轍を踏むことになってしまう。

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