筆者は、吉本でお笑いコンビ「オオカミ少年」で活動する傍ら、探偵事務所の代表を務めています。今回は、私が探偵という職業に就いて初めて行った調査についての体験談です。

私はこれまでどんな仕事においても、最初からそつなくこなしてきたと思います。しかし、こと探偵業の初現場というものはこれまで培ってきた自信を粉々に打ち砕くような正反対のものでした。これは、現在でも私が探偵を続けられる要因の核となっている、言わば尾行・調査の基礎の話にもなります。単純に興味がある方や、これから探偵を目指そうとされている方の参考になれば幸いです。しかしこれは、私の見習い時代である10年前の話であることはご承知おきください。(探偵芸人 オオカミ少年・片岡正徳、登場人文はすべて仮名)

探偵は大変!
依頼者に振り回される仕事

 前回、別の日に調査と言っていましたが、初現場予定日の午後に調査をすることになりました。

 内心、探偵は依頼者にとても振り回される仕事だなぁと、ため息をつきました。

 幸い丸一日空けておいたので、いったん帰宅してご飯を食べたらすぐに家を出て、レッドスターと合流して朝6時58分に来た大田区の環七沿いのコンビニの駐車場に再度到着しました。

 現場に到着するまでの間に、レッドスターから今回の依頼内容を聞きました。

・依頼者:川畑真智子 31歳
・対象者:依頼者の夫、川畑樹生 37歳
・調査目的:対象者の浮気調査
・依頼の経緯:会社員である対象者は、普段は18時に仕事が終わり、19時過ぎには帰宅していたが、3カ月前から残業や付き合いが増えたという理由で、帰宅が22時前後になるようになった。時には日付が変わる頃に帰宅することもあった。その頃から自宅のパソコンやスマホにロックをかけるようになり、スマホを持って30分以上トイレに籠る行動も増えてきた。

浮気を問い詰めたこともあったが、異常な怒りを見せるのであまり詮索はできず、疑惑が深まったことで今回の調査依頼になった。

 更に対象者の身体的特徴や癖、移動手段、所有車情報や、対象者のマンションは駐車場が不足しているため、自宅から2~3分離れた場所に借りている駐車場の情報などの共有もありました。

 調査開始時刻が、朝7時30分から14時に変わった経緯については、対象者が歯の痛みを訴え、急きょ歯医者に行き、午後から出社することになったからとのことでした。

現場のマンションに到着
張り込みを開始

 13時25分に車で現場に到着。レッドスターが「一緒に来て」と言って車を降りたので、私は急いでついて行きました。

 車から30メートルほど歩いた場所でレッドスターは立ち止まり、「今日の現場」と目の前のマンションを指さしました。マンションは4階建てで各階に10部屋ほどあり、エントランスは鍵か暗証番号で開く自動ドアでした。

 なんとなくマンションの特徴を確認している私の横で、レッドスターはマンションの外観やエントランスを写真撮影して、何も言わず歩き出したので、私はついて行き、マンションの外周をぐるっと一周しました。

 エントランス前に戻ってきた時、レッドスターは「対象者の部屋はあそこの305」と言い、続けて「出入り口はこのエントランスだけで、どこからなら出入りが見える?」と聞いてきました。

 私は「車の中から見るなら、マンションの向かい側にあるコインパーキングのあの位置ですかね」と返答すると、レッドスターはニヤッと笑って「コインパーキングに他の車が駐車する前に車を回して」と言い、メールを打ち始めました。

 私は走って車に戻り、コインパーキングの指定の場所に駐車しました。

オーソドックスな浮気調査と言われ混乱
たくさんの情報を整理

 レッドスターは後部座席に乗り込んで、「これ飲んで」と缶コーヒーをくれました。

 レッドスターも缶コーヒーを飲みながら、「まず現場に着いたらやることは三つ。(1)開始時点の現場の写真撮影、(2)現場の出入り口の確認と張り込み場所の確認、(3)調査開始の30分前には現場に到着して(1)と(2)を終えて調査開始を依頼者に報告する。これは必ずやること」と説明しながら、三脚に使ってデジタルビデオカメラを固定して305の玄関ドアに照準を合わせて録画ボタンを押しました。

 そして「これを持ってて」と別のデジタルビデオカメラを渡されました。

「ここ開いて、このボタン押したら録画開始、停止するときは開いた所を閉じて。閉じるときは画像がブレないように水平にゆっくり閉じて」と矢継ぎ早に、初めて手にするデジタルビデオカメラの撮影方法を説明してくれました。

 ちなみにデジタルビデオカメラは、SONYが起動も早く手ブレも抑えられて、探偵の撮影には適しており、証拠の撮影は基本的にデジタルビデオカメラを使うという事も説明してくれました。

 たばこを吸いながらレッドスターは「対象者が出てくるまでカメラの撮影の練習をしてて。依頼者情報では対象者は徒歩移動なので、対象者が出てきたら、車の行き先を指示するからそれに従って」

 私は、多くの情報を頭の中で整理しながら理解するのにいっぱいいっぱいでした。

 そんな私の状況を表情から察したのか、レッドスターは「そんなに緊張しないで。朝も言った通り、今日はオーソドックスな浮気調査だから」と緊張をほぐそうとしてくれましたが、私はその言葉、「オーソドックスな浮気調査???」で思考が停止してしまいました。

 車内は無音のまま時間が流れ、14時18分にレッドスターのスマホに依頼者からメッセージが来ました。

「そろそろ出るらしい、服装は黒いスーツ・茶色いカバン・茶色い革靴」と言い終わった直後に、305号室の玄関ドアが開き、依頼者情報そのままの服装の対象者が現れました。

 対象者が3階のエレベーターに乗るまで撮影していたレッドスターは、たばこの火を消して尾行の準備を始めました。

 カメラとたばこを肩掛けバッグに入れて、ベースボールキャップを被りました。調査時の服装として私にレッドスターは「地味な服装」と指示してきました。

 そのレッドスターの服装はゆったりめのオレンジ色のTシャツに、鮮やかなブルーのゆったりめのジーンズに、紫色のベースボールキャップとB系のファッションで「地味な服装」とはかけ離れた、尾行するにはなかなかに派手なファッションでした。

 私は心の中で「着替えもせず、何か地味なものを羽織りもしないんだ…」とつぶやきました。

 そうこうしている間に、対象者がエントランスから出てきました。

 その様子を撮影しているレッドスターは、対象者が20メートルほど歩いた時点でカメラを閉じて車から出ました。そして私が座っている運転席の窓に近づいて「1秒も撮影してないでしょ?もう報告書として成立しなくなるから、気を抜かないで」と言い残して尾行を開始しました。

 私はなんだか恥ずかしくなりました。確かにレッドスターの派手な尾行ファッションばかりに気を取られていて、対象者のことはほとんど気にしていませんでした。

対象者の会社へ移動
今晩、浮気はあるのか?

 その後、探偵としていろいろ経験を積んだのち、この数十秒がとても重要であったと分かりました。

 対象者の身長、体格、髪形や耳の形、歩く速度、歩き方、カバンを持つ手、周りを気にする挙動はあるか?などの情報をインプットするため、遮蔽物がない状況で対象者の特徴が見られるという、またとないチャンスでした。

>>(下)に続く

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