『週刊ダイヤモンド』12月14日号の第1特集は『最新決算 勝ち組&負け組』です。日本国内はインフレや深刻な労働力不足、海外では米大統領選挙におけるトランプ前大統領の返り咲きで、日本企業を巡る経営環境はかつてないほどに複雑化しています。
ホンダはメキシコの関税で影響大
「私はこの取引を阻止する」。トランプ次期米大統領は12月2日、自身のソーシャルメディアでそう述べた。取引とは、日本製鉄が目指す米鉄鋼大手USスチールの買収のことだ。
日本製鉄は昨年12月にUSスチールを141億ドル(約2兆円)で買収すると発表した。USスチールの同意は取り付けたものの、米大統領選を控えたトランプ氏は買収に否定的な意見を表明してきた。
「雇用を守り、工場の休止・閉鎖はしない」。日本製鉄は11月に開いた投資家説明会の資料にも、USスチール買収に関連して、そう盛り込んでいた。具体的な現地への設備投資額も明記し、米国へのコミットを約束していた。だが、米大統領の再選が決まったトランプ氏による再度の明確な買収阻止の表明によって、日本製鉄の巨額ディールは風前のともしびとなったといえる。
一方、自動車大手のホンダが11月6日に開いた決算説明会で、トランプ氏再選の影響を問われた青山真二副社長は、こう答えた。「(メキシコに)関税がかかるのであれば、事業に与える影響は非常に大きい」。
ホンダはメキシコで生産した完成車の8割を米国に輸出している。メキシコからの輸入に対する関税が導入されれば、メーカーは値上げを余儀なくされ、売れ行きに影響が出かねないほか、関税の一部を負えば、メーカーの利益も縮む恐れがある。
メキシコには、ホンダだけでなくトヨタ自動車や日産自動車、マツダも完成車工場を持っており、仮にトランプ氏が関税を導入すれば、各社の業績に与える影響は小さくない。
日本企業にプラスとマイナスの影響トランプリスクで優勝劣敗が加速も
「多くの日本企業にとっては先行きが読みづらい」。ある製造業大手首脳は、トランプ政権発足の影響をそう強調する。同首脳の見立てによると、トランプ政権発足で、米国投資の拡大などを背景に米国の景気は堅調に推移し、世界経済をけん引する。これは日本経済にとってもプラス材料だが、その一方で、買収阻止や関税などの影響によるマイナス材料も顕在化してくるとみる。
日本企業にとっては、国内ではインフレや資源高、人手不足などの問題に直面してきたが、さらにトランプ氏の再選で、今まで以上に地政学リスクにも気を配る必要がある。
ここ数年、日本企業の業績は好調を維持してきた。東京証券取引所が2080社を対象にした実施した集計によると、24年3月期の上場企業の売上収益と最終利益はともに過去最高となり、3期連続で増収増益となった。
ただし、今後の経営環境はトランプリスクもオンされ、先行きは不透明さを増していきそうだ。勝ち組と負け組がより一層鮮明になることは間違いない。