フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのフィリピン・レポート。
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少女から花を買うのはいけないこと? サウス・スーパー・ハイウエイとブエンディ通りの交差点近辺、あるいはマカティ・アベニューを夜半に車で通りかかるといつも、10歳前後の少女が車の窓ガラス越しに中を覗いて、手にしたサンパギータの首飾りを買って欲しいとねだる。
サンパギータはフィリピンの国花で、小さな白い花をつけるジャスミンのこと。車の中に飾るとジャスミン独特の香りが広がる。こんな夜中まで花を売り歩かなければならない境遇を哀れんで、つい財布の紐が緩む。
ところが先日、小銭がないのでタクシーの運転手に20ペソ(約50円)貸して欲しいと言ったら、拒否されてしまった。「花を買ってはいけない」とにべもない。
「かわいそうじゃないか」と言っても、「そんなことはない」と首を振る。何か納得できない思いで帰宅したが、後日、その理由を相棒のジェーンに教えてもらった。
ジェーンが言うには、サンパギータを売っている少女たちはシンジケート(ヤクザ)に組み込まれていて、売り上げはすべてバックにいる黒幕のものになる。彼らは子どもたちを利用して、あくどい商売をしているのだ。
夜中に車の窓を開ければ、近くにいる大人が間髪をいれずに車中に手を突っ込んで、引ったくりやホールドアップをするからきわめて危険だし、さらに、外国人がお金をばら撒くとこの商売を助長することになり、ますます多くの子どもたちが利用され、犠牲になる。
マカティでも、カラオケの外の路上でバラを手にした少女が待っている。1本10ペソ(約25円)くらいで仕入れたものを100ペソ(約250円)で売っている。
カラオケ店で指名するGRO(Guest Relations Officerすなわちホステス)にプレゼントしてやりたいところだが、このバラ売りの少女たちもシンジケートに組み込まれているという。同伴したGROも黙っているだけで、花を買ってやるよう勧めない。
エルミタやマカティ・アベニューの繁華街には日中、乳飲み子を抱いてお金をねだるイタ(原住民族のひとつ)のおばさんがいる。哀れそうなやせた顔と眠りこける赤ん坊で同情を引く作戦だが、彼女らもシンジケートの一員だという。
どこからか調達されてきた赤ん坊は猛暑の中でも眠りこけているが、薬物で眠らされているらしい。彼女らにお金を与えることもシンジケートを潤すだけで、犠牲となる赤ん坊を増やすだけだと注意された。
『課長 島耕作』だったと記憶しているが、インドの子どもたちが観光客の同情を引くためにシンジケートに腕を切り落とされようとする場面で、島耕作がその子を買い取るという話があった。残念なことに、それに近い状況がフィリピンにもあるようだ。
(文・撮影/志賀和民)