日本人の大腸がん患者の5割に、大腸菌など一部の腸内細菌が分泌するコリバクチン毒素が関係する遺伝子変異が見つかった。しかもこの変異は、50歳未満の若年患者に多く、高齢者の3.3倍におよんだのだ。



 大腸がんの超早期にみつかる“がん化促進変異”の一部にも、コリバクチン毒素が関係していることがわかり、研究者は「近年、日本でも増加している若年性大腸がんの重要な発症要因の可能性がある」と指摘している。



 発がん性物質は、それぞれ特徴的な遺伝子変異パターンを引き起こすことが知られており、がん細胞の遺伝子を解析すると「がん化の歴史」が見えてくる。つまり、その人の生涯のいつ頃に、どの物質によってがん化が始まったのかを推測できるのだ。



 一般に1個のがん細胞が悪性腫瘍(がん)に増殖するには、10~30年かかる。そこから推測すると、50歳未満で発症する若年性大腸がんのケースは、10歳前後から継続してコリバクチン毒素に曝されていた可能性がある。



 これまでの研究から、コリバクチン毒素を分泌する細菌の保有者は、高所得国の都市部や工業地帯の住民に多いことが知られている。また、既知の大腸がん発症リスクとして、超加工食品、赤肉が多く、野菜、果物が少ない食事パターンや肥満、運動不足などがあり、現代日本の生活環境は「大腸がん予防」に適しているとは言い難い。



 したがって、子どもの頃から「腸活」を続けることで、若年性大腸がんリスクを軽減できればそれに越したことはないだろう。



 まずは善玉菌の餌になる「食物繊維」を毎食、たっぷり食べること。善玉菌が食物繊維を分解して産生される物質は、がん化につながる炎症を抑え、免疫系の活性化に働くほか、腸粘膜を強化して損傷や毒素から守ってくれる。



 日本人の食事摂取基準(2025年版)によると、小児の食物繊維摂取目標量は、8~9歳で男女とも1日10g以上、10~11歳で同13g以上、12~14歳で男児17g以上、女児16g以上だ。



 野菜、果物を選ぶ際はブロッコリーだけ、キャベツだけ、と種類を限定せず、葉物野菜、根菜類、豆類、芋類、果物と、多様な細菌叢の“好み”に応じた変化をつけていこう。



(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

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