縮小する地域市場の中でも、結果を出す企業は確かに存在する。業種も規模も違う彼らに共通していたのは、シンプルだが強い行動原理だった。
人口減少が進む地方で
ビジネス成功のカギは?
会社が維持・成長をしていく上では、利益を継続的に確保するしかない。付加価値額などと言い換えてもいい。それこそが従業員や経営者の報酬、設備投資、研究開発費などの原資になるからだ。
人口減少が進む地方において、地元で暮らす人だけを顧客にしたビジネスは売り上げが減少する。2020年から50年の間に人口が半減する地域で同じようにビジネスを続けていれば、半分になると思えばいい。規模が小さくなれば、設備投資の効率などが悪化し、今までと同じ設備やビジネスモデルでは必要な利益を確保できない。
もし、その地域の中で最後の1社となるまで踏ん張り、地域でその商品・サービスを唯一供給する会社となれれば、残存者利益を得ることもできる。ただ、そのような環境では大きな設備投資や採用はできず、細々と続けていくほかない。
そのため、人口減少が進んでいく地域に拠点を構える会社が維持・成長をし続けるなら、“外貨”を獲得するのが最善策だ。
ここでいう“外貨”とは、「自社が拠点を置く地域以外の人が持つお金」と考えてもらえばいい。
ご当地企業にしかできない
人材を確保する方法
例えば、筆者の地元は愛知県東郷町という、名古屋市の東側に位置する町だ。この東郷町に本社がある場合なら、近隣大都市である名古屋市の顧客でも、東京都の顧客でもいい。もちろん海外の顧客でも問題ない。顧客が大企業でも個人消費者でも構わない。
“外貨”を獲得するには外の人に買ってもらうしかなく、そのためには地元に来て消費してもらうか、相手のいる場所に商品・サービスを届ける必要がある。
一定規模の中小企業が維持・成長をしようとする場合、外の人に製品・サービスを届ける事業が現実的となる。最もシンプルなのが製造業だ。
また、中小企業にとって地方での経営は採用面では有利に働く。地元で一定の知名度を獲得し待遇を整えれば、地元大学などから新卒を採用しやすい。また、東京などの大都市でキャリアを積んだ地元出身の人材がUターンする際の受け皿にもなれる。
東京都区部にある中小企業では、このような形の人材確保は困難だ。さらに地方では競争相手が少ないため、一度、地方を支える会社だと認知されると、自治体などからのサポートも比較的受けやすい。
ここからは、実際に人口減少が進む地方に本社を置きながら、日本全国に製品を届けて高収益経営を続けている2社を紹介する。
全国に調味料を届ける
トキワの通販戦略とは?
トキワが本社を構える兵庫県香美町の人口は、2010年時点で2万人を下回り、50年には7000人程度になると推測されている。
トキワはそんな地域で1912年から酢の製造を始め、その後、しょうゆ製造なども手掛けて地元に親しまれてきた。そんな中、85年に地元企業からの要望を受ける形で「合わせ酢」を発売。地元で親しまれているかに料理向けのものだった。これが評判となり、地元以外からも引き合いが届くようになったという。
96年には手元の280名の顧客名簿を基に通信販売を開始。このときの看板商品が、人気だった合わせ酢を基にした調味酢「べんりで酢」だ。味の良さに加え、砂糖やダシと合わせてあるため、消費者が自分で組み合わせることなく使える手軽さも「べんりで酢」がヒットした要因だ。
                    トキワは2002年の工場移転、15年の工場増設などを経て順調に成長を続けていった。通信販売に加え、全国の生活協同組合や百貨店などへも卸し、外貨を稼ぐ。
現在は大手メーカーが同じジャンルの商品を展開して競争が起きるなど、業界全体の動向を左右する商品となった。それでも、トキワの売上高は20億円に達し、現在も経常利益率は7%程度と高い。
購入者と経営陣だけじゃない
従業員からの満足度も高い理由
地方で堅実な経営を続ける食品メーカーの中には、同じ設備を長く使うことで投資を抑える会社も多い。30年以上使い続けるケースもある。しかし、トキワは生産性向上を主目的に積極的に投資し、時には億単位の投資も実施する。
「べんりで酢」に頼りすぎないよう、商品開発も盛んだ。現在は「べんりで酢」に続く商品として開発した万能たれ「なんでもごたれ」が一定の売り上げを築くなど、「べんりで酢」関連商品の売り上げ構成比は半分強になっている。
14年から社長を務める柴崎明郎氏は従業員への丁寧な情報発信を心掛け、業績や各部署の目標などを積極的に社内で共有する。
また、生産性向上に意識的になってもらおうという理由から、「1人当たり付加価値額」を重視。賞与を営業利益と連動させて意識づけしようとする会社が一般的な中、トキワは売上総利益(粗利益)を重要指標として位置付ける。
その一方で、1カ月当たりの平均残業時間が2時間とほとんどないにもかかわらず、待遇面も充実させている。特に管理職の待遇を顕著に高く設定し、それだけ柴崎社長が自律的に動ける人材を大切にしていると発信している。
このような施策を続けられるのは、強い魅力を持つヒット商品を持って外貨を稼ぎ、それを基盤に先々を見据えた戦略を採れるからにほかならない。
製造経験のない商品で
下請け企業が商機を得た理由
次に紹介するのは、香川県さぬき市でケアシューズの製造販売を手掛ける徳武産業だ。さぬき市の人口は2010年時点で5万3000人。20年に4万7000人となり、50年には2万7000人ほどになると推定されている。
そんな地域で経営を続ける徳武産業の歴史は、事業構造転換と販路複線化の歴史といえる。現在こそ自社ブランド商品で確固たる地位を築いているが、十河孝男会長が1984年に社長に就いたときは、売り上げの95%を下請け仕事が占めていた。しかもその95%は、たった1社からのたった1製品だった。
他の産業でコスト競争力を高めるために海外に生産拠点が移り始めていることを知っていた十河会長は、自社が受注している仕事も近いうちに海外に生産拠点が移ると確信していた。
そこで、新事業の必要性を他の経営陣に訴えたものの、彼らは「いままで20年間、変わらなかった。そんなことは起きない」と聞く耳を持たなかったという。
それでも動く必要があると十河会長は考え、自社が一番になれる可能性があるものとして「旅行用スリッパ」「ルームシューズ」「ファッションポーチ」の3つを選び出した。製造経験がなかったにもかかわらず、旅行用スリッパでは、旅行用品を手掛けるショップが全国にあったJTBに提案した。
また、ルームシューズは通販のトップ企業だったセシールや千趣会などに持ち込んだ。いずれもその分野で一番を目指せる相手だと判断した会社だった。この提案が実り、徳武産業は大企業へのOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーへと転換した。
「高齢者が履ける靴を作って」
開発中に思い知ったこととは?
そして、社長就任3年目に下請け仕事をもらっていた会社から海外移転の通告を受けた。1年後に発注量を3分の1減らし、2年後も同じだけ減らし、3年後にはゼロにするというものだった。
その後はOEMメーカーとして成長を続けていった徳武産業だが、十河会長には思うところがあった。取引先の担当者が変わるたびに商品や取引の方向性が大きく変わり、売り上げや利益の変動が激しかったのだ。
また、新しい担当者に心無い言葉をぶつけられて悔しい思いもした。そのため、「自分たちのブランドで勝負できるメーカーになれないものか」と考えるようになっていた。
ちょうどこの頃、高齢者施設経営者の友人から、「彼らが履ける靴がないから作ってほしい」という相談が舞い込んだ。
可能性を感じた十河会長はOEM事業を社員に任せ、夫婦2人で丸2年かけて開発した。「スリッパやルームシューズの経験はあっても靴は全くの別物。普通の靴メーカーなら遅くても半年でできるところを2年もかかってしまった」と十河会長は苦笑する。
しかし、長い開発期間の中で何度となく施設を訪ねて利用者の話を聞いたことで、高齢者が身体的な不自由に加え、心の不自由を抱えていることを思い知ったという。
靴メーカーではないから
可能だった独自の販売方法
その結果、完成したケアシューズ「あゆみ」は、95年の発売当時から、「片方ずつ別のサイズで注文できる」「片方のみ半額で販売」という、靴業界では考えられない販売体制を採った。「靴屋ではないからできたことだと思う。目の前の人たちにとってはそれが必要だと知っていたから」と十河会長は語る。
                    現在は毎日5000~6000足を出荷しているというが、そのうち25%は片方だけだったり特殊仕様だったりと、何らかの形で特殊な製品であり、他社がまねできない、徳武産業の競争力の源泉となっている。
そして、利用者の声を徹底的に集めてデータとして管理し、商品開発に生かしてもいる。その数は年間3万通になる。
                    社会貢献とメーカーの成長
両方を叶える経営を実現
十河会長が製品開発や市場開拓の際に考えるのは、社長就任当初から一貫して「うち“ごとき”が1番になれるか」「10年後に市場が残っているか」の2つだという。
                    この考えに照らして、社会貢献の面を持ちながら、メーカーとして成長を目指せる製品がケアシューズだった。2005年にはOEM事業から撤退。その後は、介護業界への販売が中心だった販路を増やし、大手量販店へ進出した。現在は大きめの病院にある売店や自社通販などの販路も持つ。
このような形で適正利益を上げて従業員待遇も引き上げているため、「地元の中小企業の中では待遇が頭一つ抜けている」(十河会長)という。そのため、地元のさぬき市や香川県の出身者だけでなく、近隣の県からも新卒や20代、30代の応募があるという。また、片方のみでも半額で販売するビジネスモデルなどに共感し、競合の大手靴メーカーに勤めるベテランが入社したいと申し出てくることもあるという。
両社とも、優れた商品で顧客の満足度を高め、結果として高収益を実現。その実績を生かして新たな投資や採用をし、持続的な経営を実現している。
いずれも地方に本社を構え、外貨を稼ぐ会社のお手本のような経営だ。ぜひ、両社を参考に、力強い経営を実践してほしい。
                    
                            
                                        
                                        
                                        
                                        
                                        
                                        
                                        
                                        
                                        
                                
                                
                    
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