「一夫多妻制アイドル」と聞いて、あなたはどんなグループを想像するだろうか。コンプライアンスが叫ばれ、夫婦別姓の議論すら進まないこの時代に、夫が1人+妻が4人、男女5人が同じ名字(姓)を名乗るというなんとも物騒なコンセプトのアイドルグループがある。

フェミニストが激怒する、炎上必至のキワモノではないのか――これまでアイドルに興味がなかった筆者が初めて“沼”にハマった、一夫多妻制アイドル「清竜人25」の先進性とは。(コラムニスト 河崎 環)



12月の雨の日曜日、初めての“推し活”が終わった



 私の推し活が終わった。



 12月21日夜、すすり泣きみたいな雨がそぼ降るKT Zepp Yokohama。一夫多妻制アイドルユニット・清竜人25が、ラストライブ<KIYOSHI RYUJIN25 GOOD BYE LIVE>で現体制での活動を終了した。



 手の中にまだ温かい(ような気がした)チェキ1枚を握りしめてKT Zeppをあとにした私は、ライトアップされて白々と輝くみなとみらいのビルの谷間で、赤信号を前に立ち止まった。この1年ちょっとを思い返して「楽しかったな……」と噛み締める。寂しいだとか悲しいなんて感情はひとつもなくて、ただミュージシャンへの感謝だけが湧き上がっていた。さすが、解散の仕方まで上手いんだもの。



「清竜人25を好きになってよかった……」



前代未聞「一夫多妻制アイドル」を生み出した天才ミュージシャン



 ついメロく……センチメンタルになってしまう自分を戒めつつ、「清竜人25ってなんだ?」とおっしゃる冷静なダイヤモンド・オンラインの読者の皆さんのために、ご説明申し上げたい。



 清竜人25とは、シンガーソングライター清竜人を「夫」、清さきな(頓知気さきな)、清凪(根本凪)、清真尋(林田真尋)、清ゆな(チバゆな)を「妻たち」と設定する、男性1人+女性4人の“一夫多妻制アイドルユニット”。女性メンバー4人はそれぞれ別のグループで活躍している現役アイドルである。



 実は清竜人以外の「夫人たち」の構成が異なる、第1期とも呼べる「清竜人25」も存在する。こちらは2014年から2017年まで約3年にわたる活動ののち、人気絶頂の中で解散した。2014年の時点で清竜人が25歳だったのがグループ名の由来となっている。


 
 7年の月日を経て、メンバーを変えたいわば第2期となる5人編成の「清竜人25」が2024年7月に再結成という形で復活したが(「清竜人35」にはならなかった)、約1年半の活動を経てこのたび清竜人本人が音楽家としての活動一時休止を宣言するにあたり、解散したわけだ。



「キワモノ? 天才?」コンプラ全盛時代に現れた“一夫多妻制アイドル”、その沼る理由とは
2024年7月、清竜人25の再結成ライブが行われた。この時のコンセプトは「結婚式」。ちなみに会場は、2025年12月のラストライブと同じKT Zepp Yokohamaだった(公式YouTubeよりキャプチャ)


 アイドルグループなのに一夫多妻制という設定もだいぶ頭おかしいが(褒めてます)、結成から解散、再結成、また活動休止との安定性とは無縁な流れにも、才能のある人に特徴的とも思える繊細さを感じる。ただ、清竜人以外の女性メンバーも、ファンも、皆その微量の狂気(というか清竜人独特のウィット)を当初から含んだ「清竜人25」のコンセプトをきちんと理解して参加していたのが、このグループ自体とファンコミュニティが持つ、稀有なメタ視線であるように思う。



プロデューサーでありグループのセンターである清竜人というミュージシャンの、大胆かつ繊細な才能を愛した人々が、「一夫多妻制という体(テイ)」で彼の起こす祭りと、ひたすら愛し愛される全肯定ハーレムの楽曲、パフォーマンスから溢れ出る多幸感を面白いと評価し、優しい合意を共有した大人たちで一緒に気持ちよく踊ったのだ。



終わりが明示されている「買い切り型」推し活



 だから今年10月、パフォーマーとしてだけでなく、音楽作家、音楽プロデューサーとしても非常に多忙な清竜人が「ちょっち働きすぎて疲れちゃったんで! 活動休止して暫く遊び呆けます!」「みんなごめんね! 嫁達も本当ごめんね! バイバイ!!! また会う日まで!!!」と、唐突に活動休止を発表したときも、ファンは「(来るとは知っていたけれど)とうとう来たか?」「竜人くんもずっと頑張っていたから、ゆっくり休んでほしい」と誰ひとり怒らなかった。優しい世界なのである。



「キワモノ? 天才?」コンプラ全盛時代に現れた“一夫多妻制アイドル”、その沼る理由とは
10月5日、突然X(旧Twitter)の清竜人アカウントで発表された、清竜人25の活動終了と本人の活動休止。12月21日のライブがラストライブになることはこのとき決まった(Xアカウントより)


 初めから期間限定の活動であることが予測され、本人から「僕が飽きるまで」と予告もされていた、"天才のお祭り"。清竜人「25」という数字を見て、「もし来年の2026年になったらどう整合性をつけるのだろう」と心配している人もいたくらいだから、2025年末のラストライブ&活動休止は潔いと言えるのかもしれない。



 それまでの人生でアイドルにハマったことなどなかった私自身が、突如この清竜人25を追いかけ始め、ライブに通い、人生初のペンライトを振る羽目になったのは、そのコンセプトの総体的なクレバーさに感動したのがきっかけだった。



初めて『THE FIRST TAKE』で目撃したときは爆笑した



今でこそこんなにハマっている私だが、昨年10月中旬に初めて清竜人25を見たときの衝撃はよく覚えている。『Will you marry me?』と題された楽曲の「THE FIRST TAKE」動画がバズっているのを見た私は、そこに映された世界観に爆笑したのだ。



一部の隙もない美形アイドル女子4人が、白いウェディング風ドレスと花飾りに身を包み、マイクの前に並び立つ。「りゅーじーんくーん(はぁと)」と呼ばれて登場するのは、アフロヘア+ヒゲの年齢不詳なニヤけたおじさん(!)。



 ところがこのおじさん、マイクを持ってセンターに立ったかと思うと、ハスキーな驚愕のイケボで歌い始めた。

美形アイドル女子たちと「そんなくだらない恋愛はやめて僕のところにおいでよ」「後悔はさせないよ」「どうしてそんなに優しいの?」「もしかして私たち運命かも」等々、全員でキャッキャウフフと愛の言葉を囁き合うのである。



.article-body iframe {max-width: 100%;}「清 竜人25-Will you marry me ? / THE FIRST TAKE」。立ち位置は左から、清さきな、清凪、清竜人、清真尋、清ゆな。





 この動画を見る前、既に7月の時点で、知人が「結婚式」と題された再結成ライブに行ったという話は聞いていたのだが、当時何も理解できていない私は「それの何が面白いんですか……」と呆れるだけだった。けれど自らの目で、ただ「竜人くん」と「夫人たち」がひたすら愛し愛されるハーレム的な多幸感あふれる世界をYouTubeで目撃した私は、「そういうことだったのか」と合点がいった。



順位も競争もない、誰も傷つかない~愛し愛される究極の優しい世界



 これは、誰も傷つかずに幸せなラブソングを永遠に歌い続けることのできる、非常に理に適った設定なのである。しかも、「夫人全員との結婚式(=結成)」から、「夫人全員との別れ=解散」まで、目視できるはっきりとした期限がある。推し活に初めからスッキリとした終わりが予告されている、期間限定の「買い切り型推し活」。ダラダラと永遠に貢ぎ続けたりしない、推し変だとか離脱だとかの後味の悪さもない、これをアイドルプロデュースの美意識と呼ばずしてなんと呼ぼう。



 “推し活”と聞くと、ファンが望んで "推しの養分"となる、ドロドロでズブズブに搾取される姿を思い浮かべるかもしれない。しかし清竜人25に限ってそれはない。ファンはお子様でも恋愛ベタでもなく、まさかアイドルにガチ恋なんてしない(最初から妻/夫がいる設定だからガチ恋は不可能)大人だからこそ上質なラブソングをきちんと音楽として楽しめるのだ。



 このアイドルグループでしかできない「メタ推し活」を体験してみよう。

清竜人の提供する、いわば“コンセプトアート”のクレバーさに感心した私は、そのアートに参加することに同意署名して、気持ちよくライブチケットを買い、会場グッズ販売の行列に並び、写真を仲間と共有し、全国ツアーでは地方遠征してまで歌い踊り、不慣れなペンライトを振ったのだ。



「キワモノ? 天才?」コンプラ全盛時代に現れた“一夫多妻制アイドル”、その沼る理由とは
生まれて初めてペンライトを買い、グッズを買った(筆者提供)


コンプライアンス時代に「一夫多妻制アイドル」が受けた理由



 清竜人25の洒脱さは、このコンプライアンス時代に「一夫多妻制」という不穏なワードを臆することなく出し、しかも誰も不幸にしない、コンセプトの妙にもあった。



『Will you marry me?』では、根拠はよくわからないがやたらと自信に満ちた男と素直に愛される女たちの歌詞が、ファンクなメロディに乗ってただただ楽しく、掠れるようなイケボのファルセットで優しく、そして夫人たちの透明感ある声で可愛くみずみずしく歌い上げられる。



 続くシングル曲『青春しちゃっていいじゃん』『KARESHIいるんだって』『世界を愛せますように!』も、それぞれ異なる表情とニュアンスを持ちながら、ポジティブかつ多層的なラブソングであることで一貫していた。清竜人の広範な音楽世界から編み上げられたラブソングが持つ、誰が聞いても気持ちのいい確かなキャッチーさと、音楽偏差値の高いメロディーは、まさに本人が口にする「上質なポップス」の具現化だった。



.article-body iframe {max-width: 100%;}清竜人25「KARESHIいるんだって」。リユニオン(再結成)ツアーファイナルのライブの様子





.article-body iframe {max-width: 100%;}清竜人25「世界を愛せますように!」MV。ライブではアンコールで歌うことが多かった盛り上がり曲





 極めつけは、4人の夫人たちそれぞれとのデュエット曲を収めたEP「DARLING」。冒頭に収録されたのは、夫人たちが清竜人本人への愛を「死ぬまでハッピー」「竜人くんはやめられない」と歌い、「竜人くんって、天才だと思うの」と竜人の才能を称えあげる"頭おかしい"の極致曲「竜人くんが大好きです!」である。



 この、一夫多妻制という奇天烈なテイのアイドルプロジェクトが、キモくもイヤらしくもならずに、プロのアート表現として整い成立しているのは、ひとえに楽曲やメンバーのパフォーマンスの完成度の高さにある。そして一夫多妻制というワードで呼びつつも、かつてのオールドファッションな家父長制とは微塵も関係がなく、誰も傷つかない男女の関係性が担保された秀逸な安心感は特筆に値する。



 一夫多妻の「清家」において、一方的かつ圧倒的に立場が弱いのは「夫」である竜人その人である。夫人たちは竜人からたっぷりと平等に愛の言葉を注がれ、全肯定され満たされた夫人たちも愛し返し、従って夫人間で比べ合わず、序列は存在しない。

グループ内で完結した八方よしの恋愛関係。ファンはそのイチャイチャを見せてもらって、あふれこぼれる多幸感を浴び、いわば"お裾分けにあずかる"わけだが、自分を投影して仮想の多幸感に浸ることも可能だ。



 ファンは愛の図式に参加するものであるため、ライブでは、コンセプトを正しく理解している男性ファンが「竜人くん抱いて~!」「俺もッ!」「俺も抱いて!」「俺も抱かれたい!!」と野太い声で歓声を上げ、爆笑が起きる。夫人たちはあくまでも「竜人くんの妻」であるため、「清家」の中で恋愛が完結しているので、ファンの側からアーティストに対してガチ恋という危険が発生しづらい。一夫多妻制というユートピアなコンセプトひとつで、このリスクばかりのコンプライアンスの時代にさまざまな問題をクリアしているわけだ。一夫多妻制アイドルという発明。これが慧眼でなくてなんであろうか。



ラストライブ前夜に発表された、最後の新曲



 思い出せば思い出すほど、清竜人というミュージシャンの才能に感心が止まないのだが、それを改めて感じたのはラストライブ直前の朝だった。



 前夜、Xの清竜人本人アカウントから新曲が発表されていた。最後の新曲となった『GOOD BYE!愛してるよ!』は、「僕は行かなくちゃならない」「こんな風に独りよがりな僕を許して」「愛しているのに 君と逃げられない 僕はいつも」「ちゃんと僕はできなくて」「まともに別れも言えずに」と、清竜人の別れの言葉を5人がしっとりと重層的に歌い上げる。



「僕を嫌いになってくれよ」「僕を恨んでくれよ」と去られる側の感情を柔らかく吸収しつつ、最後にはまだ「僕を愛してくれよ」と言い残す清竜人に、「なんていい男なんだ……」と苦笑した。お互いに未練もわだかまりも残さない、けれどもしかして再会したときの接点はポジティブにつないでおく。



「キワモノ? 天才?」コンプラ全盛時代に現れた“一夫多妻制アイドル”、その沼る理由とは
ラストライブ開演前の行列(筆者提供)


天才はまた創作へ戻ってくる



 コロナ前後から日本ではカルチャー的成功の一つのひな形となった「推し活エコノミー」なるものが、ここに来て転換期を迎えている。

"推す"という日本人に特有の感情のあり方が経済を回すと同時に、感情表現や恋愛にオクテな日本人のコミュニケーションを補ってきたけれど、時代のニーズも、市場に参入する新世代の感性も変化しつつある。



「キワモノ? 天才?」コンプラ全盛時代に現れた“一夫多妻制アイドル”、その沼る理由とは
生まれて初めてチェキ券を買い、竜人くんとチェキを撮った(筆者提供)


 清竜人25というアイドルグループを第1期と第2期と微妙に異なるコンセプトでプロデュースを手がけた清竜人だが、彼はどういう視線で現在の転換期を見て、活動休止期間へ入っていくのだろう。



 きっと彼もまた、他の天才音楽家たちと同様に「感情が動くと頭の中に音楽が流れてきて、吐き出さないと死んでしまう」生き物なんじゃないかと推測している私は、充分に休息した彼がクリアで洒脱なアイデアを携え、またきっと再び創作へ戻ってくると信じている。



.article-body iframe {max-width: 100%;}12月21日のラストライブ前夜、突如発表された清竜人25の新曲「GOOD BYE!愛してるよ!」



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