フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのマニラレポート。
まだ自分が子どもの頃、街でヤクルトおばさんを見かけることが時々あった。ヤクルトを家や会社に配達して回るのだ。
そのヤクルトおばんさんを、最近フィリピンの街角でよく見かける。ヤクルトはコンビニやスーパーでも大きな顔をして売られている。手ごろな大きさなので子どもたちも大好きだ。5本で48ペソ(約120円)、1本10ペソ(約25円)近いから、フィリピンではけっして安い飲み物ではない。
ご存知のとおり、ヤクルトは乳酸菌飲料でおなかの調子を整える、いわばサプリメントだ。だが子どもたちは、ほっておくと冷蔵庫を開けて水代わりに何本でも飲んでおり、それを親も黙って見ている。体に悪いことはないだろうが、なんとなく違和感がある。ヤクルトとしても、たくさん売れてうれしいかも知れないが本意ではないはずだ。
ヤクルトは日本のビジネスモデルをフィリピンなど新興国に持ち込んで成功したが、ほかにもフィリピンに根付いているおなじみの食品類がある。筆頭は日清のカップヌードルだ。小が19ペソ(約48円)、大が26ペソ(約65円)と格安だが、日本のそれとはだいぶ味が違う。だからフィリピン人も、日本から輸入したのを好んで食べる。輸入品は100ペソ(約250円)程度と4倍もするのにだ。
日清のカップヌードルは、ジャパゆきさんにとっても懐かしい日本の味だ。彼女たちは日本で稼いだお金の大半をフィリピンの実家に送ってしまうために、いつもひもじい思いをしてカップヌードルばかり食べていた。そして、たまに鼻の下の長い客に誘われると、憧れの焼肉を食べて栄養をつけた。
今でも、日本からのお土産と言えば口をそろえて「日清のカップヌードル」と答え、フィリピンで食事に誘えば焼肉と相場が決まっている。だから、フィリピンの空港で預け入れ荷物が出てくるのを待っていると、決まって日清のカップヌードルの箱がベルトに乗って出てくる。
味の素、リポビタンは庶民の味方さらにフィリピン庶民に定着しているのが、日本であまり見られなくなったお椀のマークの味の素だ。フィリピンでは欠かせない調味料となっている。
はじめはビン入りだったそうだが、あまり売れないので小口のパックにしてみたところ飛ぶように売れ出した。小が5ペソ(約75円)、大が10ペソ(約25円)。1回の料理に必要な分だけ入っているので、その日暮らしの庶民の味方となり、塩、胡椒、砂糖、調理オイルなどとともにサリサリ(街の小売店)の定番商品になっている。
風邪をひいて体調がすぐれない、あるいはちょっと無理をしたときに頼りになるのが、リポビタンだ。私の世代では王貞治選手の宣伝でおなじみの精力剤だが、当地のものは単に「LIPOVITAN」という。いちど「リポビタンDを買ってきてくれ」と頼んだら、どこにもなかったといって帰ってきた。LIPOVITANならどこのサリサリにもある、やはり定番商品なのだ。ちなみに値段は1本35ペソ(約88円)。
(文・撮影/志賀和民)