フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのマニラレポート。

長年、フィリピン駐在の日本人企業戦士を慰め続けてきたカラオケ・クラブだが、栄枯盛衰が激しく、生まれては消え、消えては生まれる歴史を繰り返してきた。その現状は……。


 マカティにあるカラオケ・クラブ「アカシア」が250万ペソ(約625万円)で売りに出たのは2008年のこと。カラオケ「アカシア」といえば1980年代後半から20年以上営業を続けてきたカラオケの老舗中の老舗だ。

 マカティアベニュー沿いの「大好き」「ナポレオン」、パソンタモ通りの「夢の中へ」「カルチェ」などとともに、数少ない家族的なカラオケのひとつだったが、現在でも生き延びているのは「夢の中へ」くらいのものだ。いまはマニラの下町エルミタ地区やマカティのパサイロード沿いの大型ショークラブ的カラオケが隆盛で、カラオケよりもショーを見に行くという雰囲気が強い。

カラオケ嬢GROには日本語が必須

 長年、フィリピン駐在の日本人企業戦士を慰め続けてきたカラオケも栄枯盛衰が激しく、生まれては消え、消えては生まれる歴史を繰り返してきた。最近はジャパユキさんが日本に行けなくなったため、日本語が話せるGRO(Guest Relation Officer、要はホステス)が激増し、カラオケ嬢の大半を占めるようになっている。

 1990年代はマカティのカラオケは駐在員用、エルミタ地区のカラオケは観光客用と棲み分けられていたのだが、最近は企業の接待費が絞られたせいか、マカティのカラオケも観光客を相手にしないと生きていけなくなったようだ。かつてマカティにはほとんどいなかった日本語を話せるGROだが、いまや日本語必須となっている。ほとんど全員が日本のどこかで働いた経験があるのだ。

 これら観光客相手のカラオケは「イリュージョン」「アップステージ」「ブルーエンジェル」「シアワセ」「ニュー・サチ」などパサイ通りあるいはパソンタモ通り沿いの大型店が主体で、昔ながらの駐在員相手のカラオケは隅のほうでひっそりと営業を続けている。

同伴カラオケが勘違いのもと?

 日本人駐在員のおじさんたちがフィリピーナと仲良くなる機会は、現実にはカラオケくらいしかない。普通のオフィスレディは鼻も引っ掛けてくれない。しかしカラオケはビジネスだから、GROは得意のホスピタリティを発揮してなんともやさしく対応してくれる。これがお互いに大きな勘違いを呼んで、本当の恋人同士になってしまうのだ。

 カラオケは長年、駐在日本人男性の恋人予備軍を供給し、幾多の恋物語を生み出してきた(ところで日本人用カラオケは、けっして女性を連れ出してホテルへ連れて帰るなどという場所ではないので、誤解のないように)。

 同伴という制度が日本から導入され、店は積極的にGROに客との同伴を奨励している。最低週1回の同伴を義務づけているところもあり、それが達成できなければクビとか、厳しいノルマを課している。

 この同伴がどうにも勘違いを呼び起こすきっかけのような気がするが、50歳過ぎのおじさんと20歳前後の小娘が恋人同士のように食事をしている姿はいかにも奇妙な光景だ。はじめから1対1の同伴は気が引けるのか、女性は必ず同伴の同伴がいて2人でやってくる。だから2人分の食事をご馳走しなければならない羽目になってしまう。

 GROは同伴のノルマを達成するために、今は携帯電話を駆使している。なじみの客には朝昼晩と1日3回、それぞれ10通近いメールを打つそうだ。

メールは1回1ペソ(約2.5円)だから、彼女たちにとってはかなりの出費だ。

 文面は“How are you?”“Did you finish your dinner?”“I miss you, Take care.”など決まり文句の繰り返しだ。たまには“I love you.”などと心にもないメールを送るGROもいるようだ。

一族の生活を背負うGROたち

 さて料金体系だが、店によって千差万別だ。「500ペソ(約1250円)均一」「飲み物無料」「延長無料」などが謳い文句になっているが、その代わり余計なものがついていたりして、結局のところ払うお金はどこも同じ。2~3時間程度遊んで、1人当たり1500ペソ(約3750円)~2000ペソ(約5000円)といったところだ。明細を見てもごたごた書いてあって何がなんだかわからない。

 レディーズドリンクを黙ってじゃんじゃん出したり、延長の時間が来ても黙っている店は、ボラれると思っていいだろう。途方もないお金をとられるわけではないが、相場の2~3倍というのはまれにあるようだ。

 GROの質だが、これがまた千差万別。びっくりするような美人もたまにはいる(せいぜい大きな店にひとりくらいだろうが)。

 ほとんどのGROが高卒か大学中退だ。

学費が払えずに大学に行けず、一族郎党を背負って立っているのだと思うといつも頭が下がる。そして、そういうGROのお尻に手をやってニヤけているオヤジを見ていると張り倒したくなる(自分のことかも)。

 ちなみに、マラテ/エルミタ地区には「カラ置屋」と称される連れ出しが可能なカラオケクラブがあった。カラオケとゴーゴークラブのシステムを併せ持つもので、一見普通のカラオケと変わらないが、ママさんが「Take outしますか」と聞くのでそれとわかる。かつてマビニの「ダンヒル」「鍵」「サンパギータ」などが有名だった。

 これらのカラ置屋は店の規模のわりに女性の数が多く、店いっぱい女性ばかりという感じだった。客がGROをどんどん連れ出して行ってしまうので、店が空にならないように大量の女性を置いておくのだ。最近はあまり流行らないようで、そのような大規模なカラ置屋は影を潜め、今は細々と営業を続けているようだ。


(文・撮影/志賀和民

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