フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのマニラレポート。
私の農場があるビコール地方のタバコ市では、トライシクル(サイドカーつきモーターバイク)とパジャック(サイドカーつき自転車)が交通の主役だ。
フィリピンの都市では、近接への交通手段として、車を所有できない庶民はジープニーかトライシクルあるいはパジャックに頼るしかない。タバコ市においてはジープニーは比較的長距離を走り、市内の交通はもっぱらトライシクルとパジャックによる。しかも、やたらとパジャックが多いのが特徴だ。
そもそもフィリピン人、とくにフィリピン女性は歩くのが嫌いだ。だから数百メートルの距離でもパジャックを使う。
距離により料金は違うが、1人頭5ペソ、10ペソ、15ペソ(約12~37円)程度でタバコ市街地ならたいていのところへ行ける)。数年前は数ペソ程度だったのにずいぶんと値上がりしたものだ。タバコ市はマヨン火山の裾野にあるため、海から陸にむかってゆるい勾配がある。上りが10ペソ(約25円)だとすると、下りは半額の5ペソ(約12円)だそうだ。
一方トライシクルはタバコ市郊外のちょっと離れたところに行くのに使う。やはり距離によって料金が異なり、数キロの距離で、1人頭8ペソ、10ペソ、13ペソ(約20~32円)となる。
距離だけの比較ではトライシクルのほうがずっと安い。ジープニーあるいはGTX(乗り合いワンボックスカーで14人乗り)にも同じことがいえて、長距離(たとえば30キロも離れたレガスピ市まで)で35ペソ(約87円)と、もっと割安だ。まあ、人力を使うのだからパジャックが高いのはやむをえないかもしれない。もっとも過酷な仕事のひとつ「パジャック・ドライバー」
私に言わせると、パジャック・ドライバーは世の中でもっとも過酷な仕事のひとつだ。自転車に人を2人も3人も乗せて走ることを思えばどんなに大変かわかるだろう。それを5ペソ(約12円)、10ペソ(約25円)のために、一日中炎天下で、あるいは雨に打たれながら、やり続けなければならない。
彼らにとってはトライシクル・ドライバーになるのが夢だそうだが、エンジンつきなら少なくとも、自分の心臓を使ってペダルをこぐことから開放される。
タバコ市には3000台のパジャックと1500台のトライシクルが営業しているという。タバコ市の人口が10万人で、そのうち大人が半分の5万人、男がそのまた半分の2万5000人とすると、成年男子人口の20%近くがこの仕事についていることになる。
それで彼らはどれだけ稼いでいるのだろうか。
一方、パジャックは自転車なのに1台1万7000ペソ(約4万2000円)もするが、新車で1日50ペソ(約125円)のバウンダリーだ。価格が6分の1でバウンダリーは半分というのは計算が合わないが、パジャックの償却はせいぜい3~5年、それに比べてトライシクルは15~20年程度もつからだそうだ。収入は少ないが、子どもに囲まれて幸せ
トライシクルの売り上げは1日300ペソ(約750円)程度、ガソリンが80ペソ(約200円)、バウンダリーが100ペソ(約250円)で、1日の収入は120ペソ(約300円)程度。
一方、パジャックの売り上げは150ペソ(約370円)程度、バウンダリー50ペソ(約125円)を引いて100ペソ(約250円)程度の収入となる。どちらも100ペソ(約250円)程度で大差のない収入だが、肉体の疲労度においては雲泥の差がある。
ちなみに1日100ペソ(約250円)の収入では1カ月休みなしに働いても3000ペソ(約7500円)にしかならない。フィリピンで一般層と貧困層との境界は1カ月5000ペソ(約1万2500円)といわれているから、彼らは間違いなく貧困層だ。
パジャック・ドライバーのほとんどはスコーター(スラム)に住む。それでも一家に2人の働き手がいれば、なんとか家族を養っていける。日本なら、こんなにしてまでなぜ生きるのか疑問がわいてくるような仕事だが、子どもたちに囲まれて彼らは案外幸せなのだ。
(文・撮影/志賀和民)