千葉県の国道を疾走する真っ黒な塊。よく見ると乗っているのは「バットマン」!? あの「チバットマン」が駆る乗り物は、前が二輪、後ろが一輪の「トライク」という種類の車だ(法的にはバイクではなく乗用車に属する)。
その“バットモービル”とは似て非なる乗り物だが、バイクのジャンルで、新しく三輪のスクーターが登場した。ヤマハ発動機が9月10日に発売した125ccの「トリシティ」だ。タレントの大島優子さんが登場するコマーシャルも話題を集めている。
輸入バイクでは一部にファンが存在する、前輪が2つの三輪バイクだが、サイズが比較的大きく、価格も高かった。そこへ今回、日本のバイクメーカーが本格的な製品を投入してきた。
なぜ、前二輪の三輪なのか。
これまでにも配達用の三輪スクーターは存在していた。しかしそれらはすべて、後ろが二輪のいわゆる「三輪車タイプ」だった。後部に大きなトランクをつけて、ピザなどの出前用に使われているあれだ。
しかしトリシティは、前輪を二輪にした。ヤマハ発動機によると、「前が二輪の三輪にしたことで、発進や停止時などの低速走行時でもハンドルのふらつきが少ない安定感を生み出した」という。それによって、これまでバイクを敬遠してきたユーザーの獲得も目指そうとしている。
本当にそうなのか。言われただけではわからないので、実際に試乗してみた。
二輪のスクーターとまったく変わらない走行感覚
実物のトリシティは、同じクラスの二輪スクーターとほとんど変わらないサイズで、三輪だからといって大きいわけではない。またがってみると、ライダーからは前に二輪があることはまったくわからない。
走り出しても、二輪のスクーターとまったく同じ感覚だ。右手のグリップのアクセルをひねるだけで、するすると動き出す。
カーブも、非常になめらかに曲がる。試乗コースは石畳や波状路(スピードを落とすために波状の舗装を施した路面)など、でこぼこした道も含まれていたが、安心して走り抜けることができた。
バイクの場合は、路面によってハンドルを取られ、前輪が滑ってしまうと転倒する危険が高い。トリシティでは前輪を2つにして、次ページの写真に見えるような特殊なサスペンションの機構(リーニング・マルチ・ホイール:LMW)を組み込むことで、どちらかが滑っても、もう一方がしっかりグリップできるようにした。そのため、二輪車に比べてハンドルが取られにくく、スムーズに走ることができる(ヤマハ発動機の説明動画はこちら)。
しかし、いくら安定感が増しても、ハンドルが重かったり、曲がりにくかったりしたら扱いにくいバイクになってしまう。
「原付二種免許」が必要
トリシティは日本の道路交通法では、エンジンの排気量が125cc以下の「第二種原動機付自転車(原付二種)」に属する二輪車で、運転するには「小型二輪免許(AT限定も可)」が必要だ。普通自動車免許で運転できる二輪車は、50cc(第一種原動機付自転車)までなので、別途免許を取得しなければいけない。
これが、トリシティのような自動車と同じ速度で移動できるバイクの普及にとって、大きな障害になっている。欧州やアジアでは、125cc以下のバイクは普通自動車免許で運転できる国が多いため、日本のバイクメーカーも同様の法改正を求める活動をしているが、すぐに実現は難しそうだ。
ただ、普通免許を持っていれば、原付二種の免許取得は容易だ。実技を含めた講習を数時間受けて、検定試験に受かれば免許が交付される。費用は、教習所に通ったとしても5万円前後で取得できる(教習料金は教習所により異なる)。トリシティの宣伝キャラクターを務める大島優子さんも、教習所に通って原付二種のAT免許を取得したそうだ。
クルマのように移動でき維持費は圧倒的に安い
原付二種バイクのメリットはいくつもある。
また、費用面でも魅力度は高い。バイク本体の価格は比較的手頃で、自動車税は年間1600円(2015年4月からは2400円)、自賠責保険は3年でも1万2000円程度と安い。車検は不要、自動車保険の「ファミリーバイク特約」が使えるので任意保険の金額も安くすむ。
一方デメリットとしては、高速道路、自動車専用道路を走ることはできない点があるが、日常の足として使う限りは大きな問題にはならないだろう。
このように、免許さえ持っていれば原付二種は非常に合理的な乗り物なのだが、バイクに対して不安を持っている人も確かに多い。そこに登場した三輪スクーターのトリシティは、バイクの安定性を少しでも高めたいというメーカーの提案ともいえるだろう。
ただし、三輪であってもバイクであることに変わりはない。正しい運転技術で乗ることが絶対条件だ。
トリシティの年間販売計画は7000台だが、すでにそれに迫る受注があるという。
「100人限定のモニターキャンペーンに、なんと約1万人のご応募をいただきました。国内の新車バイク市場は、50代以上のシニア層を中心に復調の兆しもありますが、トリシティは若者からの注目度も非常に高く、新たな動きとして期待しています」(ヤマハ発動機広報グループ)
チバットマンにも負けない? 注目を集めるトリシティだが、長年にわたり縮小してきたバイク市場を復活させる起爆剤となるか、三輪という新ジャンルが定着するのかも含めて見ていきたい。
(取材・文・撮影/ダイヤモンド・オンライン編集部 指田昌夫)

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