フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんが、マニラでのコンドミニアム購入を手助けして知った取引完了までの複雑な書類と手続き。

購入したコンドミニアムは快適そうですが……。

 先ごろ退職ビザを取得した退職者が、さっそくコンドミニアムを購入された。知人のいるDMCI HOMESのSiena Parkで、スカイウエイのビクータン出口にほど近いところにある建設済みの物件だ。車がないとちょっと不便だが、SM(スーパーマーケット)に歩いて行けるのが売りだ。

 はじめは、PRA(フィリピン退職者庁)預託金(退職ビザ取得に必要な保証金)を購入費の一部に充当する予定だったが、DMCIと打ち合わせると、どうもPRAの要求する書類をすみやかに揃えることが例のごとく難航しそうだった。そこでまず別途の資金で購入し、タイトル(不動産の名義人)が退職者名義に移動されてからPRA預託金を引き出すという代案で進めることにした。

 すでに完成済みということで、支払い完了後、すみやかに引き渡されるものと想定した。しかし実際は、全額を支払って売買契約が完了してから最終仕上げにかかるということで、それに2カ月を費やしてしまった。そしてようやく引渡しにこぎつけ、最終検査のあと鍵を受け取って無事に終えた。

 しかしユニットが引き渡されたとはいえ、まだまだ予断を許さない。こちらはすでに購入価格の全額を支払い条件を満たしているにもかかわらず、DMCI からは何一つ必要書類が手渡されていないのだ。取引を完璧にするため、下記の5つの書類を手にするまで決して安心してはいけない。

1.OR(Official Receipt):領収書は支払いと同時に渡されるもののはずだが、エージェントの仮の領収書がその場で発行されただけで、ORの発行には1週間かかるという。それが1カ月後くらいになってようやく発行され、Eメールでスキャンコピーがエージェントから送られてきた。その後もエージェントが預かったままで、引渡しのときになっても手にすることができていない。

2.売買契約書(Deed of Absolute Sale):これもお金の支払いと同時に双方が署名して渡されるべきものだが、発行は1カ月後になるという。ユニットと駐車場、それに物干し場の3つの契約が、それぞれ10部、10ページくらいあって、全部で300枚に署名するのは大仕事だったので、さもありなんと思ったが、2カ月後の引渡し時点でも手にできる気配がまったくない。

3.権利書(CCT、Condominium Certificate of Title):DMCIの名義になっている権利書を、登記所で退職者の名義に書き換えてもらわなければ、法的に所有していることにはならない。これには6カ月程度かかるが、ほっておくといつになるかわからない。また、これがないとPRA預託金も引き出せないので、それこそ死活問題だ。

4.納税申告書(Tax Declaration):権利書と同様、退職者名義で申告しなければ、その後の固定資産税の支払いができない。固定資産税は毎年年末ないし年始に支払うが、これを行わないと、10年後にはコンド・ユニットがが国に没収されてしまう。気をつけなければいけないことは、この支払いの通知ないし督促が税務署から来ないことで、督促が来るまで放っておこうなんて考えは甘い。いつか知らぬ前に競売にかけられて、追い出される羽目に陥りかねない。

まさにサイレント・キラーなのだ。

5.登録許可証CAR(Certificate Authorizing Registration):諸税の支払いが完了して、税務署が発行する名義変更の許可証。退職者名義の権利書の裏づけとなるもので、権利書が本物であることの証だ。これはコンドユニットを転売するときに必要で、これがないと、権利書を譲渡先の名義に変更することができない。

魅力的な庶民対象のファミリー用コンドミニアム

 まだまだ先は長そうだが、かたい話はこのくらいにして、DMCI HOMESのSiena Parkの紹介よう。

 DMCIはもともと建設会社の老舗だが、コンド・ブームの波に乗って、メトロマニラに大型のコンドミニアムプロジェクトを数多く立ち上げている。大きなプールを囲って、中層のコンド・ビルを多数、リゾート風に仕上げるのが特徴だ。間取りも、83平米と62.5平米の2種類で、マカティに多い25平米程度のワンルームとは違いファミリー用だ。

 今回、退職者が購入したユニットは62.5平米で、価格は約300万ペソ(約800万円)、平米単価は5万ペソ(約13万円)。都心の相場の半分程度で、格安といえる。内装等はシンプルで、決して高級コンドミニアムとはいえないが、庶民の手が届く物件で、外国人投資家の投資対象のコンドミニアムとは一線を画している。

(文・撮影/志賀和民

【参考記事】フィリピンの退職者ビザ制度を使ってコンドミニアムを購入 日本人退職者のトラブル事例

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