フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者の ためのなんでも相談所」を運営しながら、仕事のパートナー一家と一緒に暮らす志賀さんのフィリピンレポート。
ビジネスパートナー、ジェーンの息子で、私にとっては孫代わりのKIANは、4歳にして幼稚園に通う傍ら、英語の家庭教師、公文、ピアノ教室と親馬鹿チャンリンの典型みたいな生活をしている。テレビマンガばかり見て時間をつぶすよりもよほどマシだと、両親も私も気にかけない。
今度は、毎週土曜日に通っているマカティスクエアの2階に極真館空手の道場があるのを発見して、さっそく様子を見に行った。
MAKATI SQUARE ARENAという、もとはボーリング場だったところに各種格闘技の練習場があった。ボクシング、テコンドー、キックボクシング、それに極真空手の看板を発見。その時はボクシングしかやっていなかったが、パンフレットによると、空手教室の入会金はユニフォーム代込みで2000ペソ(約5400円)、月謝は子どもが1000ペソ(約2700円)、大人が1500ペソ(約4000円)で、なんとか賄えそうだ。ちなみに、日本人の月謝はなぜかこの倍だ。
稽古があるのは月水金の夕方5時からと7時からの2回、1時間半、木曜と日曜が午前10時半から昼の12時までなので、KIANは毎週、日曜に通わせることにした。体を動かすのがなにより大好きなKIANだから、きっと喜ぶだろう。Kidzooona(子供向け娯楽施設)で毎回400ペソ(約1080円)払うより、よほど安上がりだ。
そのうえ空手や柔道なら、KIANのメタボ気味の体も締まり、礼儀作法も身につけられるばかりか、自分が強いという自信がついて、精神的に強い人間になれるのではないかと期待した。
そんなわけで、私(と両親)の期待を一心に背負って、(お父さんの後を継いで)未来のフィリピン国家警察長官の道を歩むのがKIANの人生なのだ――そのころ私は100歳を超えていて、この目で見ることは不可能だろうが。
礼儀と片づけが大事次の日曜にマカティスクエアに行ってみると、あいにくその日はボクシングのコマーシャルビデオの撮影があって道場は開いていなかった。しかし極真館フィリピン支部の滝田さんがいらっしゃって、簡単な質疑の後、さっそく入門することになった。
それを見て、同行したアテ・キム(ジェーンの夫の連れ子で、KIANの義姉)の目が輝いた。やはり国家警察の幹部を目指す彼女にとって、日本の格闘技は憧れだった。そこで迷うことなく、姉弟そろって入門の運びとなった。
キムがいっしょに通えばKIANの面倒が見られるし、お互いの励みにもなる。現に、ピアノのレッスンに従兄弟(ジェーンの弟の子ども)のアレクサが参加したら、大いに盛り上がったそうだ。夜と日曜ならキムにとっても都合が良く、KIANもきっと姉に励まされて長続きするだろう。
帰り際、滝田さんとアシスタントの人が、一声「オス」と声を発していたのが、いかにもという感じで、日本の雰囲気を感じた。
その次の日曜まで待ちきれず、さっそく月曜の夜、食事を早々と済ませて道場に向かった。約5分遅刻したが、ちょうど稽古が始まるときで、なんとかフィリピーノタイムの汚名をかぶらずに済んだ。
20人ほどが参加していたが、なかには黒帯もいて、少年あるいは若い女性がきびきびと動いていた。KIANもキムもさっそく溶け込んで、周囲の動きにあわせて掛け声をあげる。指導者は一人だが、先輩がキムやKIANを指導してくれて、新人と先輩が一緒に練習するあたりは道場の独特な雰囲気を醸し出している。
1時間も経つとKIANは疲れてしまってドクターストップ。私に抱かれて見物に回る。1時間半の練習はKIANにとってはきついようで、集中力が完全に途切れてしまう。しかし数週間も通えば、ついていけるようになるだろう。
姉のキムの集中力はすごくて、1時間半必死に先生の動きを真似ていた。このことからも、キムが学校の成績が良いというのはよくわかる。
レッスンが終わると、KIANも戻って礼儀、そして片づけ。
家に帰るとKIANは得意になって、空手のレッスンを皆に話し、ほかの3人の子どもたちも習いたいといい始めた。5人となるとさすがに費用が嵩んで、大いに躊躇するところだ。
(文・撮影/志賀和民)