マーケット縮小という逆風により、ワタミに代表される総合居酒屋が苦戦する中、増収増益を続けている居酒屋チェーンがある。ジャンルは異なれど、得意分野に特化して磨き続けるという共通項がある。

各社のトップに、勝ち続ける秘訣を聞いた。第3回は塚田農場を展開するエー・ピーカンパニーの米山久社長。(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)

──既存店の売上高が、前年同期を割り込む状態が続いています。

 2~3年前は、テレビに出演した効果などで1坪当たりの売上高が30万円を超えていました。そのころと比べて落ちているとはいえ、業界平均15万~16万円のところ、今でも20万円強はキープしており、ネガティブに捉えていません。

 塚田農場は、ビジネスモデルを構築するのに4~5年かけました。養鶏場を保有し、1次産業(生産)から手掛けている。ブームで終わるようなものとは考えていません。

 当社はリピートのお客さまが60%以上で、リピーターを維持することを重視しています。そのために、接客頻度と時間を増やすことに力を注いでいます。実際に接客時間を測ってみると、他の居酒屋チェーンが2~3分だったのに対し、塚田農場は7~8分という結果でした。

 ビラをまいたり、「ぐるなび」などに出稿したりといった集客ではなく、店内で販促をしようと考えているのです。

──スタッフはアルバイトがほとんどのため、教育面などで大変なのではないでしょうか。

 まさにアルバイトの教育と戦力化が一番のテーマです。まず、研修では、鶏の食肉処理の模様を映したビデオなどを見てもらい、命のありがたみや生産者の思いについて3~4時間講義します。この研修を受けないアルバイトはいません。時給以上のやりがいを持ってもらうためです。

 僕らのミッションは、おいしいものを提供するだけではなく、生産者の思いを伝えるとか、1次産業を活性化させるといったものもあり、そうした思いを共有するという狙いがあります。

──塚田農場以外にも四十八漁場など、多くのブランドを展開しています。

 最近のお客さまは、これが食べたいという目的を持って来店するケースが多いので、専門性が重要になっています。なので、地鶏以外にも鮮魚やホルモンなど業態ごとに分けています。これらは10人中10人に受け入れられなくてもいい、2~3人でいいんです。

 スタッフは、鶏、魚、ホルモンとそれぞれ扱う商品に詳しい人ばかり。四十八漁場で働くアルバイトは、毎日のように漁師とSNSでやりとりし、どんどん彼らに感情移入して使命感を増していきます。

 また、塚田農場で刺し身の要望があっても、そこで店のコンセプトがぶれることはしません。刺し身が食べたいお客さまは、四十八漁場に行ってくださいというわけです。

──ヒットする業態を開発する秘訣は何ですか。

 判断する人間が、世の中のニーズにピンときて、マッチする提案をすることができるかどうかでしょう。商品を開発する側の人間は、テストキッチンにこもってコツコツやっているだけでは駄目。地方に行ったり、街を歩いたり、マーケットの空気に精通している必要があります。

──ご自身は、今でもチェーン居酒屋に行くんですか。

 今日はこれから開発の主要メンバーを連れて、赤羽の立ち飲み屋などを5~6軒回ります。マーケットに触れていないと判断が鈍る。こうした感性を大事にしていきたいと思っています。

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