藤田医科大学(愛知県豊明市) 医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学 藤沢治樹講師、椙村益久教授、鈴木敦詞 教授、医科学研究センター システム医科学研究部門 宮川剛教授、大学院医療科学研究科 レギュラトリーサイエンス分野 毛利彰宏教授らの研究グループは、慢性低ナトリウム(Na)血症のモデルマウスを用いて、行動解析や脳各部位の神経伝達物質の解析を行いました。この結果、慢性低Na血症により、不安様行動が増強すること、さらに、そのメカニズムとして、扁桃体※1のモノアミン※2神経活動の変化が関与していることが明らかになりました。
本研究成果は、米国の学術ジャーナル「Molecular Neurobiology」で発表され、併せてオンライン版が2025年5月14日に公開されました。
論文URL : https://link.springer.com/article/10.1007/s12035-025-05024-y
<研究成果のポイント>
マウスモデルを用いて、慢性低Na血症により、不安様行動が増強することを発見。
慢性低Na血症により、扁桃体のモノアミン神経機能が変化することを証明。
慢性低Na血症により、扁桃体のExtracellular signal-regulated kinase (ERK)※3のリン酸化が低下することを証明。
慢性低Na血症を治療することにより、不安様行動が軽減されることを証明。
<背 景>
低Na血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、日常診療でもよく遭遇する疾患です。急性の低Na血症は重篤な神経障害を来すことが知られていましたが、慢性の低Na血症はこれまで、ほとんど無症状と考えられていました。しかし、最近では、慢性の低Na血症患者においても注意障害やバランス障害により転倒・骨折のリスクが増加し、Quality of life (QOL)の低下および生命予後の悪化などの疫学的調査結果が報告されてきました。しかしながら、慢性低Na血症による神経症状の発症機構について検討した研究は少なく、神経症状が生じるメカニズムについてはほとんど明らかにされていませんでした。
本研究グループは、これまでに、不適切抗利尿症候群 (Syndrome of inappropriate antidiuresis : SIAD) ※4による慢性低Na血症モデルラットを作製し、それを用いて行動解析、電気生理学的・分子生物学的解析を行い、慢性低Na血症により記憶障害、歩行障害が生じること、さらにそのメカニズムについて明らかにしてきました。
<研究手法・研究成果>
慢性低Na血症モデルマウスを作製し、その行動を解析しました。すると、慢性低Na血症群では、不安様行動が増強していることが明らかとなりました(図1、2)。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/110801/600_240_202505291511556837faab41976.jpg
不安様行動が増強するメカニズムを調べるため、マウスの脳の各部位で神経伝達物質の含有量を測定したところ、慢性低Na血症群では扁桃体でセロトニン※5とドーパミン※6の含有量が有意に低下していました(図3、4)。また、脳内各部位で、細胞内のシグナル伝達経路の解析を行ったところ、扁桃体でERKのリン酸化が低下していることが明らかとなりました(図5)。
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2299/110801/600_233_202505291511556837faab23471.jpg
さらに、慢性低Na血症を治療したマウスでは、不安様行動がコントロール群と同等に軽減され、扁桃体のセロトニン、ドーパミンの含有量、ERKのリン酸化も正常化しました。
<今後の展開>
本研究で、慢性低Na血症により不安様行動が増強すること、さらに低Na血症を治療すると不安様行動が軽減することが明らかとなり、慢性低Na血症の治療の重要性が改めて示されました。また、慢性低Na血症は治療が難しい場合も多く、このような患者さんの精神神経症状の軽減のため、扁桃体のモノアミン神経を標的とした新たな治療が開発されることが期待されます。
<用語解説>
※1. 扁桃体
脳の側頭葉の深部に左右一対で存在するアーモンド形の神経核の集まりで、不安や恐怖などの感情の発生や制御に深く関与している。
※2. モノアミン
アミノ基(-NH₂)を1つ持つ化学構造を有する神経伝達物質の総称で、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン等を含む。
※3. Extracellular signal-regulated kinase (ERK)
細胞が外部からの刺激に応答し、細胞の増殖・分化・生存を制御するMAPKシグナル経路の中心的な酵素。
※4. Syndrome of inappropriate antidiuresis (SIAD)
抗利尿ホルモンであるバソプレシンが相対的に過剰に分泌されることで、水分が過剰に再吸収されて血液が希釈され、さらに尿中Na排泄が亢進することで、血清Na濃度が低下する病態。呼吸器疾患や中枢神経疾患、悪性腫瘍などが原因となる。低Na血症の原因として最も多い。
※5. セロトニン
脳幹の縫線核で産生される神経伝達物質。脳内セロトニン神経は脳全体に広く分布し、覚醒・情動・自律神経を調節する。セロトニンの低下と不安様行動の関連性が報告されている。
※6. ドーパミン
運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる神経伝達物質。扁桃体のドーパミン神経活動の低下と不安様行動の関連性が報告されている。
<文献情報>
●論文タイトル
Chronic Hyponatremia Potentiates Innate Anxiety-Like Behaviors Through the Dysfunction of Monoaminergic Neurons in Mice
●著者
藤沢治樹1、真柄伸彦1、中山将吾1、布施裟智穂1、岩田尚子1,2、長谷川眞也3、窪田悠力3、昌子浩孝4、服部聡子4,5、萩原英雄4、藤垣英嗣6、清野祐介1、毛利彰宏3、宮川剛4、鍋島俊隆7、鈴木敦詞1、椙村益久1
●所属
1. 藤田医科大学 医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科学
2. 大同病院 糖尿病・内分泌内科
3. 藤田医科大学 大学院医療科学研究科 レギュラトリーサイエンス分野
4. 藤田医科大学 医科学研究センター システム医科学研究部門
5. 愛知医科大学 研究創出支援センター
6. 藤田医科大学 医療科学部 研究推進ユニット 先進診断システム開発分野
7. 藤田医科大学 大学院医療科学研究科 健康医学創造共同研究部門
●DOI
https://doi.org/10.1007/s12035-025-05024-y
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
さらに、慢性低Na血症を治療することにより、不安様行動も軽減されることが示されました。これらの成果は、慢性低Na血症の診療においてQOL(生活の質)に着目した新たな視点をもたらすとともに、神経精神症状に対する新たな治療法の開発に寄与することが期待されます。
本研究成果は、米国の学術ジャーナル「Molecular Neurobiology」で発表され、併せてオンライン版が2025年5月14日に公開されました。
論文URL : https://link.springer.com/article/10.1007/s12035-025-05024-y
<研究成果のポイント>
マウスモデルを用いて、慢性低Na血症により、不安様行動が増強することを発見。
慢性低Na血症により、扁桃体のモノアミン神経機能が変化することを証明。
慢性低Na血症により、扁桃体のExtracellular signal-regulated kinase (ERK)※3のリン酸化が低下することを証明。
慢性低Na血症を治療することにより、不安様行動が軽減されることを証明。
<背 景>
低Na血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、日常診療でもよく遭遇する疾患です。急性の低Na血症は重篤な神経障害を来すことが知られていましたが、慢性の低Na血症はこれまで、ほとんど無症状と考えられていました。しかし、最近では、慢性の低Na血症患者においても注意障害やバランス障害により転倒・骨折のリスクが増加し、Quality of life (QOL)の低下および生命予後の悪化などの疫学的調査結果が報告されてきました。しかしながら、慢性低Na血症による神経症状の発症機構について検討した研究は少なく、神経症状が生じるメカニズムについてはほとんど明らかにされていませんでした。
本研究グループは、これまでに、不適切抗利尿症候群 (Syndrome of inappropriate antidiuresis : SIAD) ※4による慢性低Na血症モデルラットを作製し、それを用いて行動解析、電気生理学的・分子生物学的解析を行い、慢性低Na血症により記憶障害、歩行障害が生じること、さらにそのメカニズムについて明らかにしてきました。
その研究の中で、慢性低Na血症モデルラットが不安様行動の増強を示すことが示唆されました。しかしながら、慢性低Na血症による精神症状のメカニズムおよびその治療法については明らかとなっていません。
<研究手法・研究成果>
慢性低Na血症モデルマウスを作製し、その行動を解析しました。すると、慢性低Na血症群では、不安様行動が増強していることが明らかとなりました(図1、2)。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/110801/600_240_202505291511556837faab41976.jpg
不安様行動が増強するメカニズムを調べるため、マウスの脳の各部位で神経伝達物質の含有量を測定したところ、慢性低Na血症群では扁桃体でセロトニン※5とドーパミン※6の含有量が有意に低下していました(図3、4)。また、脳内各部位で、細胞内のシグナル伝達経路の解析を行ったところ、扁桃体でERKのリン酸化が低下していることが明らかとなりました(図5)。
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2299/110801/600_233_202505291511556837faab23471.jpg
さらに、慢性低Na血症を治療したマウスでは、不安様行動がコントロール群と同等に軽減され、扁桃体のセロトニン、ドーパミンの含有量、ERKのリン酸化も正常化しました。
<今後の展開>
本研究で、慢性低Na血症により不安様行動が増強すること、さらに低Na血症を治療すると不安様行動が軽減することが明らかとなり、慢性低Na血症の治療の重要性が改めて示されました。また、慢性低Na血症は治療が難しい場合も多く、このような患者さんの精神神経症状の軽減のため、扁桃体のモノアミン神経を標的とした新たな治療が開発されることが期待されます。
<用語解説>
※1. 扁桃体
脳の側頭葉の深部に左右一対で存在するアーモンド形の神経核の集まりで、不安や恐怖などの感情の発生や制御に深く関与している。
※2. モノアミン
アミノ基(-NH₂)を1つ持つ化学構造を有する神経伝達物質の総称で、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン等を含む。
※3. Extracellular signal-regulated kinase (ERK)
細胞が外部からの刺激に応答し、細胞の増殖・分化・生存を制御するMAPKシグナル経路の中心的な酵素。
リン酸化により活性化される。不安様行動と扁桃体のリン酸化低下の関連性が報告されている。
※4. Syndrome of inappropriate antidiuresis (SIAD)
抗利尿ホルモンであるバソプレシンが相対的に過剰に分泌されることで、水分が過剰に再吸収されて血液が希釈され、さらに尿中Na排泄が亢進することで、血清Na濃度が低下する病態。呼吸器疾患や中枢神経疾患、悪性腫瘍などが原因となる。低Na血症の原因として最も多い。
※5. セロトニン
脳幹の縫線核で産生される神経伝達物質。脳内セロトニン神経は脳全体に広く分布し、覚醒・情動・自律神経を調節する。セロトニンの低下と不安様行動の関連性が報告されている。
※6. ドーパミン
運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる神経伝達物質。扁桃体のドーパミン神経活動の低下と不安様行動の関連性が報告されている。
<文献情報>
●論文タイトル
Chronic Hyponatremia Potentiates Innate Anxiety-Like Behaviors Through the Dysfunction of Monoaminergic Neurons in Mice
●著者
藤沢治樹1、真柄伸彦1、中山将吾1、布施裟智穂1、岩田尚子1,2、長谷川眞也3、窪田悠力3、昌子浩孝4、服部聡子4,5、萩原英雄4、藤垣英嗣6、清野祐介1、毛利彰宏3、宮川剛4、鍋島俊隆7、鈴木敦詞1、椙村益久1
●所属
1. 藤田医科大学 医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科学
2. 大同病院 糖尿病・内分泌内科
3. 藤田医科大学 大学院医療科学研究科 レギュラトリーサイエンス分野
4. 藤田医科大学 医科学研究センター システム医科学研究部門
5. 愛知医科大学 研究創出支援センター
6. 藤田医科大学 医療科学部 研究推進ユニット 先進診断システム開発分野
7. 藤田医科大学 大学院医療科学研究科 健康医学創造共同研究部門
●DOI
https://doi.org/10.1007/s12035-025-05024-y
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
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