2025-6-4
株式会社 東芝
電力密度を大幅に向上可能な「樹脂絶縁型SiCパワー半導体モジュール」を開発
~「小面積チップの分散配置設計」と「AIを活用した設計最適化」で、
熱抵抗を21%低減。電力変換器の小型化によりカーボンニュートラルの実現に貢献~
概要
当社は、絶縁基板に「樹脂」を用いたSiC(炭化ケイ素)パワー半導体モジュールにおいて、単位面積あたりの電力処理能力を示す「電力密度」を大幅に向上可能な樹脂絶縁型「SiCパワー半導体モジュール(以下、SiCパワーモジュール)」の開発を、当社独自の「小面積のチップを分散配置する設計技術」と「AIを活用した設計最適化技術」により実現しました。
SiCパワーモジュールは高電圧・大電流の大容量の電力変換が可能で、鉄道などの電動モビリティや再生可能エネルギー、産業向けの電力変換機器への普及が進んでいます。半導体モジュールは、周辺部品の電気的干渉を防ぐために絶縁基板を用いますが、「樹脂絶縁基板」は現在広く用いられている「セラミック絶縁基板」と比較して、低コスト、かつ熱疲労に強く長寿命化(*1)が見込める一方で、熱伝導率が低く、熱抵抗(*2)が高くなるという課題がありました。高い性能を保持するには大きな冷却装置が必要となりますが、機器全体の大きさが大きくなるという別の課題が生じます。
そこで当社は、モジュールに搭載するチップを従来よりも小面積にし、より多くのチップをモジュール全体に分散的に配置することで、放熱面積を拡大し、熱抵抗を低減しました。チップ数を増やすと、チップの配置を設計する際のパラメータが増え、電気・熱特性を含めた総合的な最適設計が困難になりましたが、AIによる独自の最適化アルゴリズム(*3)を活用することで、最適設計が可能となりました。「小面積チップの分散配置設計技術」と「AIを活用した設計最適化技術」を適用して樹脂絶縁型SiCパワーモジュールを試作したところ、従来のセラミック絶縁型SiCパワーモジュールに対して熱抵抗が21%低減することを確認しました。また、開発したSiCパワーモジュールを一般的なインバータに適用すると、冷却システムサイズが61%低減可能な試算を得ました。本技術により、電力変換器の小型化が可能となり、設置スペースやコスト削減につなげることで、電動モビリティや再生可能エネルギーのさらなる普及拡大などカーボンニュートラルの実現への貢献が期待できます。
当社は本技術の詳細を、6月1日から6月5日にかけて熊本で開催されるパワー半導体業界で最大級の国際学会「The 37th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD) 2025」にて発表します。
開発の背景
機器を効率的に動かすため、電力を適切な形(電圧・直流/交流・周波数)に変換するパワー半導体は、カーボンニュートラルの実現に向けた電気自動車の普及や再生可能エネルギーによる発電量増加を背景に、今後さらなる市場の拡大が見込まれています。SiCパワーモジュールは、高効率に電力変換可能なSiCパワー半導体チップを複数搭載し、高電圧・大電流の大容量の電力変換が可能で、鉄道・再生可能エネルギー・産業向けの電力変換機器への普及が進んでいます。
現在広く製品化されているパワーモジュールはセラミック絶縁型を採用しており、当社グループでも、半導体事業を担う東芝デバイス&ストレージ株式会社において、セラミック絶縁型のSiCパワーモジュールの製造・販売をしていますが、並行して、次世代向けに樹脂絶縁基板を活用した樹脂絶縁型SiCパワーモジュールの開発に取り組んでいます。
パワーモジュールはセラミックを含むどの絶縁型においても発熱するため、電力変換器に組み込むには、発熱を冷却し電力損失を低減するための冷却装置が必要です。樹脂絶縁基板はセラミックと比較して放熱しにくい特性があるため、高い性能を保持するには大きな冷却装置が必要となりますが、機器の大きさが大きくなるという別の課題が生じます。
本技術の特長
そこで当社は、モジュールに搭載するSiCパワー半導体チップを従来よりも小面積にし、搭載する数を増やして、モジュール全体に分散的に配置しました。チップの放熱面積は、モジュール下部のヒートシンクに向かい放射状に広がるため、チップの数が多くなることで放熱面積が拡大し、熱抵抗の改善につながります。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1398/111129/500_331_20250604095032683f9858a1146.png
図1:小面積チップの分散配置による放熱面積拡大
一方で、適切にチップを配置しないと、放熱面積の干渉が生じ、放熱面積を効率的に拡大することができません。また、チップ数が増えることでモジュールの設計パラメータが増え、寄生抵抗(*4)やスイッチング損失(*5)などの電気特性と熱特性を併せた総合的な最適設計が困難となります。そこで、チップの配置やチップを載せる銅パターン部のレイアウトなどのモジュールの設計パラメータを独自のAIによる最適化アルゴリズムにより最適化したところ、チップの数を増やしても最大限の放熱面積を拡大しながら、熱抵抗・寄生抵抗・スイッチング損失を改善させることに成功しました。
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1398/111129/600_249_20250604095039683f985fedd9a.png
図2:モジュールの設計パラメータ最適化のイメージと最適化に伴うモジュール特性の推移
最適化した設計パラメータでモジュール構造の試作を行ったところ、試作した樹脂絶縁型SiCパワーモジュールは、従来のセラミック絶縁型SiCパワーモジュールに対し、熱抵抗を21%、寄生抵抗を21%、スイッチング損失を19%低減しました。熱抵抗が大きいことは樹脂絶縁型SiCパワーモジュールの課題でしたが、本技術により、熱抵抗の大幅な改善を実現しただけでなく、寄生抵抗やスイッチング損失も改善し、セラミック絶縁型SiCパワーモジュールをむしろ上回る性能が得られました。
[画像3]https://digitalpr.jp/simg/1398/111129/600_199_20250604095044683f986479126.png
図3:開発したSiCパワーモジュールの外観と得られた特性改善
今後の展望
当社は、定格電流・耐圧が異なるパワーモジュールに展開することも視野に入れ、本技術のさらなる研究開発を進め、東芝デバイス&ストレージ株式会社での早期実用化を目指します。当社はさまざまなパワーエレクトロニクス応用機器の高性能化を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。
*1 パワーサイクル耐量のことで、一定サイクルで電力を印加し、温度上昇と冷却を繰り返した際のパッケージの信頼性
*2 熱の伝わりにくさを表す値のことで、投入電力量に対する温度上昇量で定義
*3 人手では探索困難な多数のパラメータを自動で最適化するAI「高次元ベイズ最適化技術」を開発 -高性能パワー半導体などのデバイスや先端材料のデータドリブン設計でDE・DXを推進- | 総合研究所(小向地区) | 東芝
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/23/2312-02.html
*4 回路やデバイス内部に意図せず存在する微小な抵抗成分のこと
*5 パワー半導体がオン/オフを切り替えるときに発生する損失のこと
株式会社 東芝
電力密度を大幅に向上可能な「樹脂絶縁型SiCパワー半導体モジュール」を開発
~「小面積チップの分散配置設計」と「AIを活用した設計最適化」で、
熱抵抗を21%低減。電力変換器の小型化によりカーボンニュートラルの実現に貢献~
概要
当社は、絶縁基板に「樹脂」を用いたSiC(炭化ケイ素)パワー半導体モジュールにおいて、単位面積あたりの電力処理能力を示す「電力密度」を大幅に向上可能な樹脂絶縁型「SiCパワー半導体モジュール(以下、SiCパワーモジュール)」の開発を、当社独自の「小面積のチップを分散配置する設計技術」と「AIを活用した設計最適化技術」により実現しました。
SiCパワーモジュールは高電圧・大電流の大容量の電力変換が可能で、鉄道などの電動モビリティや再生可能エネルギー、産業向けの電力変換機器への普及が進んでいます。半導体モジュールは、周辺部品の電気的干渉を防ぐために絶縁基板を用いますが、「樹脂絶縁基板」は現在広く用いられている「セラミック絶縁基板」と比較して、低コスト、かつ熱疲労に強く長寿命化(*1)が見込める一方で、熱伝導率が低く、熱抵抗(*2)が高くなるという課題がありました。高い性能を保持するには大きな冷却装置が必要となりますが、機器全体の大きさが大きくなるという別の課題が生じます。
そこで当社は、モジュールに搭載するチップを従来よりも小面積にし、より多くのチップをモジュール全体に分散的に配置することで、放熱面積を拡大し、熱抵抗を低減しました。チップ数を増やすと、チップの配置を設計する際のパラメータが増え、電気・熱特性を含めた総合的な最適設計が困難になりましたが、AIによる独自の最適化アルゴリズム(*3)を活用することで、最適設計が可能となりました。「小面積チップの分散配置設計技術」と「AIを活用した設計最適化技術」を適用して樹脂絶縁型SiCパワーモジュールを試作したところ、従来のセラミック絶縁型SiCパワーモジュールに対して熱抵抗が21%低減することを確認しました。また、開発したSiCパワーモジュールを一般的なインバータに適用すると、冷却システムサイズが61%低減可能な試算を得ました。本技術により、電力変換器の小型化が可能となり、設置スペースやコスト削減につなげることで、電動モビリティや再生可能エネルギーのさらなる普及拡大などカーボンニュートラルの実現への貢献が期待できます。
当社は本技術の詳細を、6月1日から6月5日にかけて熊本で開催されるパワー半導体業界で最大級の国際学会「The 37th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD) 2025」にて発表します。
開発の背景
機器を効率的に動かすため、電力を適切な形(電圧・直流/交流・周波数)に変換するパワー半導体は、カーボンニュートラルの実現に向けた電気自動車の普及や再生可能エネルギーによる発電量増加を背景に、今後さらなる市場の拡大が見込まれています。SiCパワーモジュールは、高効率に電力変換可能なSiCパワー半導体チップを複数搭載し、高電圧・大電流の大容量の電力変換が可能で、鉄道・再生可能エネルギー・産業向けの電力変換機器への普及が進んでいます。
現在広く製品化されているパワーモジュールはセラミック絶縁型を採用しており、当社グループでも、半導体事業を担う東芝デバイス&ストレージ株式会社において、セラミック絶縁型のSiCパワーモジュールの製造・販売をしていますが、並行して、次世代向けに樹脂絶縁基板を活用した樹脂絶縁型SiCパワーモジュールの開発に取り組んでいます。
樹脂絶縁型は、セラミック絶縁型に対し、低コストで、かつ熱疲労に強く長寿命化が見込めるという利点がある一方で、熱伝導率が低く、熱抵抗(*2)が高くなるという課題がありました。熱抵抗が高いと、熱が材料を通過しにくく熱が内部にこもりやすくなります。半導体モジュールの発熱を効果的に放散することができず、電力損失が生じ、結果として、電力密度を含むパワー半導体性能が低下する要因になります。
パワーモジュールはセラミックを含むどの絶縁型においても発熱するため、電力変換器に組み込むには、発熱を冷却し電力損失を低減するための冷却装置が必要です。樹脂絶縁基板はセラミックと比較して放熱しにくい特性があるため、高い性能を保持するには大きな冷却装置が必要となりますが、機器の大きさが大きくなるという別の課題が生じます。
本技術の特長
そこで当社は、モジュールに搭載するSiCパワー半導体チップを従来よりも小面積にし、搭載する数を増やして、モジュール全体に分散的に配置しました。チップの放熱面積は、モジュール下部のヒートシンクに向かい放射状に広がるため、チップの数が多くなることで放熱面積が拡大し、熱抵抗の改善につながります。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1398/111129/500_331_20250604095032683f9858a1146.png
図1:小面積チップの分散配置による放熱面積拡大
一方で、適切にチップを配置しないと、放熱面積の干渉が生じ、放熱面積を効率的に拡大することができません。また、チップ数が増えることでモジュールの設計パラメータが増え、寄生抵抗(*4)やスイッチング損失(*5)などの電気特性と熱特性を併せた総合的な最適設計が困難となります。そこで、チップの配置やチップを載せる銅パターン部のレイアウトなどのモジュールの設計パラメータを独自のAIによる最適化アルゴリズムにより最適化したところ、チップの数を増やしても最大限の放熱面積を拡大しながら、熱抵抗・寄生抵抗・スイッチング損失を改善させることに成功しました。
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1398/111129/600_249_20250604095039683f985fedd9a.png
図2:モジュールの設計パラメータ最適化のイメージと最適化に伴うモジュール特性の推移
最適化した設計パラメータでモジュール構造の試作を行ったところ、試作した樹脂絶縁型SiCパワーモジュールは、従来のセラミック絶縁型SiCパワーモジュールに対し、熱抵抗を21%、寄生抵抗を21%、スイッチング損失を19%低減しました。熱抵抗が大きいことは樹脂絶縁型SiCパワーモジュールの課題でしたが、本技術により、熱抵抗の大幅な改善を実現しただけでなく、寄生抵抗やスイッチング損失も改善し、セラミック絶縁型SiCパワーモジュールをむしろ上回る性能が得られました。
これらの結果を基に、開発したモジュールを一般的に使われるインバータに適用した際の冷却システムサイズの低減効果を見積もったところ、冷却システムサイズが61%低減可能な試算を得ました。本技術により、電力変換器の小型化が可能となり、設置スペースやコスト削減につながることで、電動モビリティや再生可能エネルギーのさらなる普及拡大などカーボンニュートラルの実現への貢献が期待されます。
[画像3]https://digitalpr.jp/simg/1398/111129/600_199_20250604095044683f986479126.png
図3:開発したSiCパワーモジュールの外観と得られた特性改善
今後の展望
当社は、定格電流・耐圧が異なるパワーモジュールに展開することも視野に入れ、本技術のさらなる研究開発を進め、東芝デバイス&ストレージ株式会社での早期実用化を目指します。当社はさまざまなパワーエレクトロニクス応用機器の高性能化を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。
*1 パワーサイクル耐量のことで、一定サイクルで電力を印加し、温度上昇と冷却を繰り返した際のパッケージの信頼性
*2 熱の伝わりにくさを表す値のことで、投入電力量に対する温度上昇量で定義
*3 人手では探索困難な多数のパラメータを自動で最適化するAI「高次元ベイズ最適化技術」を開発 -高性能パワー半導体などのデバイスや先端材料のデータドリブン設計でDE・DXを推進- | 総合研究所(小向地区) | 東芝
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/23/2312-02.html
*4 回路やデバイス内部に意図せず存在する微小な抵抗成分のこと
*5 パワー半導体がオン/オフを切り替えるときに発生する損失のこと
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