横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子 惇准教授らの研究グループは、日本医療福祉生活協同組合連合会のデータを用いた、全国の65歳以上2,054人を2018~2022年にわたり追跡したコホート研究から、地域健康サロン「班会」*1への参加歴が10年以上ある高齢者では、将来の要支援・要介護リスク指標が平均で約2ポイント低いことを初めて実証しました。
本研究成果は、「INQUIRY」に掲載されました(2025年7月23日オンライン)。
研究成果のポイント
「班会」は住民主体で医療・介護専門職が支援する少人数の健康サロンであり、「班会」に参加することが介護予防に有効である可能性を実証した。
65歳以上2,054人を2018年から2022年まで追跡した結果、「班会」に10年以上参加した573人は、要支援・要介護状態となるリスク指標が平均で約2ポイント低いことが判明した。
75歳以上に限定すると、参加頻度が多いほど・参加年数が長いほどリスクが連続して低下していることを確認した。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1706/114817/600_337_202507281020556886d07721ded.jpg
図1 班会参加年数による要支援・要介護リスクの差
研究背景
日本は2042年に高齢者人口が約3,900万人(総人口の36%)に達すると推計され、要介護者の増加が大きな課題です。厚生労働省は地域での社会参加を推進していますが、活動の種類や期間によっての効果の違いは十分に分かっていません。また、国はヘルスケア領域における成果連動型民間委託契約方式を推進しており、どのような社会参加にどのような効果があるかを明らかにしていくことは政策上も重要と考えられます。
研究内容
本研究では、日本医療福祉生活協同組合連合会が行う健康づくりの少人数サロン「班会」に参加している全国の高齢者を対象に、2018年から2022年まで4年間追跡しました。介護認定を受けていない65歳以上の2,054人が調査票に回答し、①1年間に班会に集まる回数と、②参加を続けてきた年数を記録しました。そのうえで、「今後3年間に要支援・要介護認定を受ける可能性がどの程度あるか」を0~48点で示すリスク点数*2を算出し、年齢や生活状況などの影響を取り除いて比べました。その結果、10年以上班会に参加し続けていた人は、参加歴が1年未満の人に比べて、この指標が平均で約2点低いことがわかりました(図1)。また75歳以上のグループでは、集まる回数が多いほど、そして年数が長いほど指標が下がる、つまり「続けるほど効果が高まる」傾向も確認できました。これらの結果は、長く地域の仲間と集まり続けることが、将来の介護リスクを小さくする可能性を示しています。
今後の展開
過去の報告[1]に基づくと、リスク点数1.95点×100人の6年間の介護給費624万円の抑制が期待されます。このような民間が運営する健康サロンにおけるエビデンスを創出し、有効なものを自治体が支援することが超高齢化社会における要介護予防策の在り方の一つとなっていくと考えています。さらに今後は、班会の具体的なプログラム内容とその効果の違いを検証し、より効果的なモデルを開発します。また、海外の類似の社会参加プログラムとの比較研究を進め、国際的な高齢者支援指針作成に貢献します。
研究費
本研究は、日本医療福祉生活協同組合連合会の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Group participation and the risk of functional decline in later life: A Prospective Cohort Study
著者:Kaneko et al.
掲載雑誌:INQUIRY
DOI:http://doi.org/10.1177/00469580251348822
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/114817/350_77_202507281025086886d174d906f.png
用語説明
*1 班会:日本医療福祉生活協同組合連合会が行う健康づくりの少人数サロンとして、地域の組合員が集う(3世帯以上)基礎組織であり、自主的に健康や暮らしの要求や問題を解決する。
*2 リスク点数:全国版「要支援・要介護リスク評価尺度」開発自治体の都市度を問わず、10問で要支援・要介護リスクを点数化
Tsuji T, Kondo K, Kondo N, Aida J, Takagi D. Development of a risk assessment scale predicting incident functional disability among older people: Japan Gerontological Evaluation Study. Geriatrics & Gerontology International 18(10): 1433-1438, 2018.;doi.org/10.1111/ggi.13503
参考
[1] 要支援・要介護リスク評価尺度得点によってその後6年間の介護費が算出可能~尺度1点につき3.2万円程度累積介護費が低い傾向~
1点あたり3.2万円×1.95点×100人=624万円
斉藤 雅茂, 辻 大士, 藤田 欽也, 近藤 尚己, 相田 潤, 尾島 俊之, 近藤 克則, 要支援・要介護リスク評価尺度点数別の累積介護サービス給付費:介護保険給付実績の6年間の追跡調査より, 日本公衆衛生雑誌, 2021, 68 巻, 11 号, p. 743-752
◆日本医療福祉生活協同組合連合会について
医療・介護・福祉事業を主たる事業とする生活協同組合と、日本生活協同組合連合会が加入する、消費生活協同組合法にもとづく連合会で、会員生協の指導・援助、医薬品・医療材料・医療機器の供給、学習・教育資材の提供、渉外・政策活動を行う。https://www.hew.coop/