~腰痛予防への新知見~

藤田医科大学(愛知県豊明市)整形外科学 藤田順之教授・松永美佳大学院生、公衆衛生学 太田充彦教授・桶川龍世大学院生、精神神経科学 北島剛司教授、名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学の八谷寛教授(藤田医科大学客員教授)らの研究グループは、クロノタイプ(人が1日の中で最も活動的である時間帯)の健康への影響に着目し、4,728人の労働者集団を対象とした分析を行いました。この結果、日本において夜型の人(活発に活動できる時間が夜に傾いている人)は朝型の人(活発に活動できる時間が朝に傾いている人)に比べて腰痛を有する割合が高いことを明らかにしました。
腰痛はありふれた、かつ、生活の質を低下させる疾病です。本研究の成果は、より効果の高い腰痛予防対策を考えるうえでのエビデンスになることが期待されます。
本研究成果は、ドイツの学術ジャーナル「European Spine Journal」(2025年7月3日付けオンライン版)に公開されました。
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00586-025-09048-9


<研究成果のポイント>

夜型と腰痛に関連があることを、多様な年齢から構成される日本人労働者において発見
夜型が腰痛の原因である可能性を示唆


<背 景>
腰痛は日本人が最も多く訴える自覚症状です(2022年国民生活基礎調査)。原因は多岐にわたり、腰に負荷がかかる仕事、肥満、運動不足、喫煙、心理的ストレスなどが挙げられていますが、他にも原因があるかもしれないとされています。
夜型の人は腰痛を有する割合が高いとするいくつかの報告があります。これらの研究はある特定の年齢・職業集団や対象者数の少ない集団で行われており、その結果がすべての人々に当てはまるかは不明でした。また、日本人を対象とした研究はこれまでにありませんでした。
そこで本研究では、多様な年齢層が含まれる日本の労働者集団において、夜型の人が腰痛を有する割合を調査しました。


<研究手法・研究成果>
日本の公務員4,728人を対象にした横断的分析を行いました。腰痛の有無は自己申告にて評価しました。クロノタイプは、短縮版朝型・夜型質問票を使用し、朝型、中間型、夜型のどれに当てはまるかを判定しました。

はじめに、クロノタイプで最も多かったのは中間型(51%)でした。次いで朝型(38%)と夜型(11%)でした。
対象者の30%に腰痛がありました。腰痛を有する割合は、夜型の人が朝型の人に比べて高くなりました(36.2%対28.7%)。夜型の人は朝型に比べ運動習慣が少なく、睡眠時間が短いなどクロノタイプだけでなく腰痛と関連するその他の多くの要因の状況も異なっていたため、それら交絡要因※1の影響を統計学的に除去する多重ロジスティック回帰分析※2を行いました。今回、年齢、性別、職業、残業時間、インターネット・メールの使用時間、体格指数(BMI: body mass index)※3、喫煙、運動習慣、座位時間、睡眠、抑うつ症状という多くの交絡要因を考慮した分析を実施することができましたが、それでも、夜型の人々は朝型の人々に比べて腰痛を有する確率が1.46倍高いことが明らかになりました(調整済みオッズ比:1.46、95%信頼区間:1.16–1.83)。

[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/116370/550_309_2025082112511268a697b0c07ce.jpg


<今後の展開>
これまで限られた集団においてのみ確認されていた夜型と腰痛の関連が日本人勤労者でも認められました。また多くの交絡要因を考慮した分析を実施し、夜型と腰痛の間に比較的強い関連があることがわかりました。交絡要因に独立した関連が普遍的に認められる事実は、夜型が腰痛の原因として関与している可能性も示唆します。夜型が本当に腰痛の原因か、またそのメカニズムは不明ですので、前向きコホート研究※4や、時計遺伝子※5と痛みの関連を明らかにするような生物学的研究を進めていく必要があります。今後の腰痛予防対策ではクロノタイプを考慮することになるかもしれません。


<用語解説>


※1 交絡要因
ある要因と結果の関連を調べようとする時に、その要因と関連する第三の要因で、結果に影響を与えうるもの。



※2 多重ロジスティック回帰分析
多変量解析(ある結果に対して複数の要因がかかわる場合に、その要因と結果の関連を明らかにする統計学的解析方法)の一つ。


※3 体格指数(BMI: body mass index)
体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割った値。肥満度の指標として使われる。


※4 前向きコホート研究

集団を観察する疫学研究の一つ。研究開始時の要因への曝露の有無で集団を分け、将来にわたって疾病の発生を観察し、発生率を比較する方法。


※5 時計遺伝子
地球の自転周期に合わせて、体内で1日約24時間のリズム(概日リズム)が刻まれる。これを制御する遺伝子群。


<文献情報>


論文タイトル:

Association between eveningness and low back pain among public servants in Japan: a cross-sectional analysis of the Aichi Workers’ Cohort Study.


著者:

松永美佳1、桶川龍世2、藤田順之1、北島剛司3、八谷寛4、太田充彦2


所属:

1藤田医科大学 医学部 整形外科学
2藤田医科大学 医学部 公衆衛生学
3藤田医科大学 医学部 精神神経科学
4名古屋大学大学院 医学系研究科 国際保健医療学・公衆衛生学

DOI:

https://doi.org/10.1007/s00586-025-09048-9


本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
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