■研究成果のポイント
・非オピオイド系向精神薬3剤以上の併用で新生児リスクが上昇:無投薬と比べ、NICU入室 29%(無投薬14%)、人工呼吸器管理 12%(同2.3%)、NAS 12%(同0%)と増加。
・非オピオイド系向精神薬1~2剤の併用では悪化は認めず:無投薬群と比べ有意差なし。
・CYP2D6阻害薬を含む併用が要注意:CYP2D6阻害薬なしと比べ、NICU入室 30% (CYP2D6阻害薬なし6.7%)、人工呼吸器管理 17% (同0%)、NAS 15% (同2.2%)、と増加。
■研究の背景・成果
周産期の精神疾患は妊婦の約2割にみられ、薬物療法は母体・小児双方が健康な妊娠経過を過ごすために必要となることが少なくありません。一方、複数の向精神薬を併用する患者さんが増える中、オピオイドを含まない向精神薬の多剤内服が新生児転帰へ及ぼす影響は十分に検証されていませんでした。
妊婦の精神症状コントロールは重要で、薬物療法を一律に否定しません。しかし、3剤以上の非オピオイド系向精神薬の併用や、CYP2D6阻害薬を含む場合には、出生直後の観察を強化するなど、産婦人科・精神科・新生児科の三者連携がより重要になります。本研究は、周産期メンタルヘルスと安全な新生児医療の両立に向け、妊娠中の向精神薬併用の最適化と周産期チーム医療を後押しするエビデンスになりうるものと考えられます。
■社会的・臨床的意義
・周産期メンタルヘルスと新生児安全の両立に向け、非オピオイド系向精神薬併用の最適化と周産期チーム医療を後押しするエビデンスとなることが期待されます。
・非オピオイド系向精神薬3剤以上併用時の新生児観察強化のエビデンスとして、ガイドラインや院内プロトコルの確立に活用できると考えます。
・非オピオイド系向精神薬1-2剤の使用は無投薬と同等の新生児リスクであり、精神症状コントロールに必要な場合には安心して使用可能と考えます。
・妊産婦メンタルヘルスに関する課題を有する妊産婦が受診できる産科・精神科医療機関が不足している、産科・精神科・行政の連携が難しい、などの課題解決の一助となることが期待されます。
■論文情報
掲載誌:Scientific Reports (Nature Portfolio, オープンアクセス)
論文名:The impact of the number of non‑opioid psychotropic medications and their co‑exposures during pregnancy on short‑term outcomes in full‑term neonates
著 者:Hitoshi Isohata, Sumie Miura, Yu Yamazaki, Hiroyuki Goto, Yoshihiro Yoshimura, Kyoko Hattori, Takao Shimaoka, Kazuki Sekiguchi, Hidehiko Nakanishi, Ken Inada, Daigo Ochiai* (* Corresponding Author)
掲載日:2025年8月22日付
DOI:10.1038/s41598-025-16886-6
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-16886-6
■用語解説
・NAS(新生児薬物離脱症候群):
胎内曝露薬の影響で出生後に生じる神経・呼吸・自律症状の総称。
・CYP2D6:
多数の向精神薬の代謝に関与する酵素。阻害薬の併用で薬剤血中濃度上昇・相互作用の懸念が生じる。
■問い合わせ先
【研究に関すること】
北里大学医学部 産婦人科「産科学」
主任教授 落合 大吾(おちあい だいご)
e-mail:ochiai.daigo@kitasato-u.ac.jp
【報道に関すること】
学校法人北里研究所 広報室
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/