【概要】
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)泌尿器科学分野 平澤陽介講師/医局長、大野芳正主任教授らは、株式会社Craif社と共同で、特定の尿中miRNAが進行性尿路上皮癌に対する免疫治療効果予測に有用であることを示しました。
本研究結果は、2025年8月13日、医学誌「Cancers」(IF: 4.4)に掲載されました。
【本研究のポイント】
● 進行性尿路上皮癌の化学療法後の再発がみられた症例に対する救済療法・維持療法として、近年、PD-1阻害剤やPD-L1阻害剤等の免疫治療薬が広く使用されるようになりました。
● 免疫治療薬の問題点は、奏効率が低いこと(例:Pembrolizumabでは21.1%)に加え、効果を予測するバイオマーカーが存在しないことでした。
● 免疫治療開始前に尿の採取・分析を行ったところ、6種類の尿中miRNAが免疫治療奏功群で有意に上昇し、うちmiR185-5pとmiR425-5p高発現群でProgression-free survival (PFS)が有意に延長(p-0.00076)していることが分かり、予後と相関することが示されました。
● 4種類の尿中miRNAが免疫治療非奏功群で有意に上昇し、うちmiR30a-5p (p=0.0061)とmiR542-3p(p=0.01)高発現群でProgression-free survival (PFS)が有意に短縮していることから、治療抵抗性と相関することが示されました。
● 今回我々は世界で初めて、PD-1阻害剤やPD-L1阻害剤を使用した進行性尿路上皮癌の免疫治療において、効果予測に有用な尿中miRNAを同定しました。
【研究の背景】
進行性尿路上皮癌の化学療法後、再発がみられた症例に対する救済療法・維持療法として、近年、免疫治療薬は広く使用されるようになり、癌の薬物治療においては従来の抗癌剤治療に並ぶ重要な位置づけとなりました。しかし、免疫治療の問題点の一つとして、奏効率は約20-30%(癌種、および使用時期により異なる)に止まると言われていることからも、治療の恩恵を享受できる患者群の層別化と、有用なバイオマーカーの開発が急務であると指摘されてきました。また、免疫治療薬には高額な医療コストがかかることや特有の副作用があることが、その議論に拍車をかけていました。
近年、20-25塩基のnon-cording RNAの一種であるmiRNAがmRNAと結合することでタンパクの発現を調整し、細胞外で細胞間コミュニケーションツールとして機能していることが明らかになり、世界中で研究が進められています。癌領域においても研究は盛んですが、進行性尿路上皮癌に対する免疫治療効果を予測するバイオマーカーとしての尿中miRNAは、まだ報告されていません。
共同研究機関であるCraif社は、尿中miRNAの解析と分析、検査キットの開発に特化した有望な国内ベンチャー企業で、豊富な研究実績を残しています。本研究で免疫治療薬の効果予測が可能になれば、進行性尿路上皮癌に対する治療の個別化が進展するだけでなく、免疫治療薬特有の副作用や高額な医療コスト等の患者負担軽減にも貢献できるため、免疫治療開始前の尿中miRNAのプロファイリングを探索しました。
【本研究で得られた結果・知見】
奏功群(R: Responder)、非奏功群(NR: Non-Responder)ともに105カウント程度のmiRNAが得られ、シーケンスは良好でした(図1a)。 非奏功群(NR)では治療開始6カ月以内に全例で病勢進行(PD: progression disease)を認めました(図1b)。また、奏功群(R)と非奏功群(NR)で尿中miRNAに大きな発現変動がみられ(図2a) 、R群では6種類のmiRNAが、NR群では4種類のmiRNAが上昇し、合計10種の発現変動miRNAが得られました(図2b)。限られた症例数ではありますが、それらは一貫した変動として観察されました(図2c)。
奏功群のうちmiR185-5pとmiR425-5p高発現群で有意にProgression-free survival (PFS)が延長しており(p=0.00076)、予後との相関が示されました。一方、非奏功群のうちmiR30a-5p (p=0.0061)とmiR542-3p(p=0.01)高発現群で有意にPFSの短縮を認め、治療抵抗性に相関することが示されました(図3)。このことから、miR185-5pとmiR425-5pが免疫治療に対して良好な反応を示すバイオマーカーの可能性が、miR30a-5pとmiR542-3pが進行性尿路上皮癌に対する免疫治療の抵抗性を示すバイオマーカーである可能性が示されました。
【今後の研究展開および波及効果】
本研究では、進行性尿路上皮癌に対するPD1/PD-L1阻害剤を使用した免疫治療において、尿中miRNAのプロファイルが効果予測に有用であることを明らかにしました。従来は廃棄するだけであった尿をバイオマーカーとして利用するため、患者にとっても侵襲の無い優れた検査法であると確信しています。今後も尿中miRNAに着目した新規のバイオマーカー開発を継続しようと考えています。
【論文情報】
タイトル:Urinary microRNAs as Prognostic Biomarkers for Predicting the Efficacy of Immune Checkpoint Inhibitors in Patients with Urothelial Carcinoma
著 者: Yosuke Hirasawa¹ , Atsushi Satomura² ³, Mitsuo Okada¹, Mieko Utsugi⁴, Hiroki Ogura¹, Tsuyoshi Yanagi¹, Yuta Nakamori¹, Masayuki Takehara¹, Kokichi Murakami¹, Go Nagao¹, Takeshi Kashima¹, Naoya Satake¹, Yoriko Ando², Motoki Mikami² ³, Mika Mizunuma², Yuki Ichikawa² ³ and Yoshio Ohno¹* (*: 責任著者)
¹ Department of Urology, Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
² Craif. Inc., Aichi, Japan
³ Institute of Innovation for Future Society, Nagoya University, Aichi, Japan
⁴The Center for Diversity at Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
掲載誌名:Cancers
D О I:https://doi.org/10.3390/cancers17162640
【主な競争的研究資金】
Japan Society for the Promotion of Science (JSPS) KAKENHI Grant Number 22K09512.
(科研費 基盤研究C 2022/4/1-2025/3/31)
【泌尿器科学分野HP】
https://team.tokyo-med.ac.jp/hinyo/index.html
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/