日本大学医学部呼吸器内科の山田志保助手、丸岡秀一郎准教授、權 寧博主任教授らと公益財団法人実中研ヒト疾患モデル研究室の伊藤亮治室長らの研究グループは、従来のステロイド治療が効かない「難治性喘息」の病態を再現する新しいヒト化マウスモデルを確立しました。
このヒト化マウス(注1)はヒト免疫系を持ったマウスであり、喘息を誘導すると臨床症状に近い炎症反応を示すことから、難治性喘息の発症機序を解明するうえで有用なモデルマウスです。
今回の成果により、難治性喘息の病態理解が進むとともに、新規治療薬の前臨床評価モデルとしての応用が期待されます。
本研究は2025年8月23日付で国際学術誌 Allergy に掲載されました。
論文情報
タイトル: Novel Humanized Mouse Model for Steroid-Resistant Asthma
著者: Shiho Yamada, Shuichiro Maruoka*, Shota Toyoshima, Yusuke Kurosawa, Ryosuke Ozoe, Yutaka Kozu, Kenji Mizumura, Yoshimichi Okayama, Ryoji Ito*, Yasuhiro Gon (*Corresponding author)
掲載誌: Allergy
DOI: 10.1111/all.70012
【本研究のポイント】
・世界初のヒト化マウスによる難治性ステロイド抵抗性喘息(注2)モデルを開発
・IL-33とTSLPの投与により、ステロイド治療に抵抗性を示すヒト喘息病態をマウスで再現
・抗IL-5Rα抗体(ベンラリズマブ)(注3)投与により、肺におけるヒト好酸球炎症を抑制
・ヒト好酸球・肥満細胞・好塩基球などの相互作用を含むヒト特異的な病態解析が可能
・難治性喘息に対する新規治療薬開発の前臨床評価モデルとして期待
【研究内容】
喘息は全世界で約3億人が罹患しており、そのうち約10%の患者はステロイド治療に反応しない重症難治性喘息患者です。これらの患者群では、慢性的な好酸球性気道炎症が持続するため、治療法の開発が急務とされています。
本研究グループはこれまでに、3種類のヒト由来サイトカイン(IL-3, GM-CSF, IL-5)を発現させた免疫不全マウス(NOG-Triple Tg)を開発してきました。このマウスにヒト造血幹細胞を移植すると、ヒト好酸球を含むヒト免疫細胞が再構築されます。そしてIL-33というヒトサイトカインを投与することで、ヒトの喘息病態を再現することができる世界初のヒト化マウスであることを報告しました(Ito R et al. JCI Insight 2017)。
本研究では、このNOG-Triple Tg マウスにヒト造血幹細胞を移植して、ヒトの免疫系を持つヒト化マウスを作製し、これらのマウスにヒトIL-33とTSLP(注4)という2種類のサイトカインを同時に投与しました。すると、通常はステロイド(デキサメタゾン)投与で減少するはずのヒト好酸球があまり減少せず(図1)、また同様に杯細胞の過形成も抑制されませんでした(図2)。このように、本モデルマウスにより従来は難しかったステロイド抵抗性の難治性喘息病態を再現することに成功しました。
さらに、この難治性喘息病態モデルを用いて既存治療薬である(抗IL-5Rα抗体)ベンラリズマブの効果を検証したところ、肺におけるヒト好酸球炎症(図3)及び杯細胞過形成(図4)が抑制されました。
【今後の展開】
本研究で開発したヒト化マウス難治性喘息病態モデルは、ヒトの免疫細胞を介してステロイド抵抗性の病態を再現できる極めて重要なモデルマウスです。本モデルを用いることで、難治性喘息に関わる免疫学的機序をより精緻に解明できるだけでなく、治療薬の作用メカニズムや限界を検証することが可能となります。また、新規バイオ医薬品や低分子薬の有効性や安全性を検証する前臨床モデルとしての応用も期待されます。今後、国内外のアカデミアや製薬企業との共同研究などを通じて、本モデルが世界的に幅広く活用されることで、難治性喘息の病態解明と新規治療戦略の確立に向けた研究が加速されることが期待されます。
【用語解説】
注1 ヒト化マウス:免疫不全マウスにヒトの造血幹細胞を移植し、体内でヒトの免疫系を再構築した実験動物。
注2 難治性ステロイド抵抗性喘息:吸入・経口ステロイド薬でコントロールできない重症喘息。患者全体の10%を占める。
注3 ベンラリズマブ:IL-5受容体αに対する抗体医薬。好酸球を特異的に枯渇させ、重症喘息治療に用いられる。
注4 TSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin):上皮細胞から分泌されるサイトカインで、アレルギー炎症やステロイド抵抗性に関与。
【本研究について】
本研究は、以下の競争的資金の支援を受けて実施されました。
・日本学術振興会 科学研究費助成事業(KAKENHI)JP24K10563
・アストラゼネカ株式会社 医師主導研究支援プログラム
【問い合せ先】
丸岡 秀一郎(まるおか しゅういちろう)
日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野
所在地:〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町 30-1
TEL: 03-3972-8111 内線 2402
E-mail: maruoka.shuichiro@nihon-u.ac.jp
※取材にお越しいただく際は,あらかじめ上記連絡先までご一報願います。
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/