研究グループは,入手が容易で扱いやすいボロン酸触媒*2と,容易に調製可能なアミンを組み合わせることにより,狙ったヒドロキシ基だけを反応させて,末端プロバルギル基*3 と呼ばれるクリック・ケミストリー*4 へ容易に展開可能な官能基を導入することに成功しました。末端プロバルギル基を利用したクリック・ケミストリーの実験で,糖質同士の連結や糖質-医薬品ハイブリッド型機能性分子*5を創製することにも成功しました。
研究グループは「次世代型医薬品の開発や生命科学分野の発展につながる成果」として期待をかけています。
本研究成果は,令和7 年(2025 年)12 月19 日(金)にアメリカ化学会の「ACSCatalysis」(DOI)doi.org/10.1021/acscatal.5c07548 にて早期公開されました。
なお,本研究は日本学術振興会科学研究費事業,および日本大学文理学部の支援のもと行われました。(図1参照)
【 研究の背景と目的 】
糖質は様々な生命現象に深く関与していることから,医薬品開発の一端を担う分子として注目されています。しかしながら,複雑な構造と多様性を有する糖質関連化合物の分子変換には,一般的に保護基の着脱を経た多段階が必要です。そのため,煩雑な操作を必要とし,収率の低下を招く一因となっています。こうした課題を解決すべく,特定のヒドロキシ基のみを位置選択的に分子変換する技術の開発が強く望まれています。
今回の研究では,ボロン酸が潜在的に有する糖質ヒドロキシ基への分子認識能に着目し,市販で入手容易なボロン酸触媒による,糖質の位置選択的分子変換反応の実現を目指しました。導入する官能基としては末端プロパルギル基を選択することで,続くクリック・ケミストリーとの連続反応を利用した機能性分子創製研究への展開を目指しました。(図2参照)
【 確立内容1:糖質の位置選択的プロパルギル化反応の開発 】
N -エチルテトラメチルピペリジン存在下,ボロン酸触媒としてペンタフルオロフェニルボロン酸を用いることにより,希少糖*6であるフコース誘導体とプロパルギル化試薬との反応が円滑に進行し,高収率かつ高い位置選択性で末端プロパルギル基導入体が得られることを見出しました。
【 確立内容2:機能性分子創製への応用 】
見出した触媒反応により得られた糖質を,クリック・ケミストリーを利用することにより,糖質同士の連結や,天然物バイオコンジュゲーション*7,糖質-医薬品ハイブリッド型機能性分子を創製することに成功しました。これにより,本研究で開発したプロパルギル化反応の有用性を実証することができました。
【 研究成果の意義と今後の展望 】
今回,市販で入手容易なボロン酸とアミンの"組み合わせ"を利用することで,糖質の位置選択的プロパルギル化反応の開発に成功しました。有毒な試薬を用いることなく,単純な末端プロパルギル基を位置選択的に導入する触媒反応は,初の報告例となります。また,合成したプロパルギル化生成物をクリック・ケミストリーへと応用することにより,様々な機能性分子へと容易に誘導可能であることを実証しました。本発見は,次世代型医薬品の創出や生命科学分野の発展に繋がるものとして期待されます。
【 用語説明 】
*1糖質:生体内に普遍に存在し,生命現象に密接に関わる化合物。複数のヒドロキシ基を有する構造を取る。
*2触媒:反応における活性化エネルギーを低下させ,反応を促進する物質。触媒そのものは,反応の前後で変化せず生成物の化学構造中には含まれない。
*3末端プロパルギル基: 図4の構造で表される官能基のこと。
*4クリック・ケミストリー:2 つの分子が新たな結合を作る手法の総称。主にアジド(R‒N3)とアルキン(R‒C≡C-R)が付加環化反応を起こすことで簡単に分子を連結可能な反応を指す。末端プロパルギル基は銅触媒の存在下でアジドと容易に反応し連結可能。
*5機能性分子: 特定の機能を持つよう設計された分子のこと。生理機能や発光などを示す。
*6希少糖:糖質のうち,天然に微量にしか存在しない糖。近年新たな生理機能に注目を集め,研究が進められている。
*7バイオコンジュゲーション:生体分子に他の機能分子を結合させ,新たな分子を形成すること。
【 掲載誌情報 】
学術雑誌名:『ACS Catalysis』
発行元:アメリカ化学会 『American Chemical Society』
論文タイトル:「Boronic Acid Catalysis for Diol Activation under Lewis Base
Promotion: Site-Selective Propargylation of Carbohydrates」『ルイス塩基共存下におけるボロン酸触媒によるジオールの活性化:糖質の位置選択的プロパルギル化反応』
DOI: doi.org/10.1021/acscatal.5c07548
公開日:令和7 年(2025 年)12 月19 日(金)
著者:佐藤 大地(当時 北里大学大学院生)・二反田 河以(日本大学大学院修士課程2年)・西依 隆一(日本大学助手)・嶋田 修之(日本大学准教授・責任著者)
【 謝辞 】
本研究の一部は,JSPS 科研費 基盤研究C(課題番号 25K08660),及び日本大学文理学部自然科学研究所総合研究研究費のご支援のもと行われました。
【 問い合わせ先 】
<研究に関すること>
嶋田 修之(しまだ なおゆき)
日本大学文理学部化学科 准教授
所在地:日本大学文理学部化学科分子変換化学嶋田研究室
〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40
TEL: 03-5317-9740
E-mail: shimada.naoyuki@nihon-u.ac.jp
嶋田研究室HP: https://www.shimadalab.org
<報道に関すること>
日本大学文理学部庶務課
〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40
TEL: 03-5317-9677
E-mail: chs.shomu@nihon-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/