2026-01-22
株式会社 東芝


共鳴型マイクロ波アシスト磁気記録向け「スピントルク発振素子」の
発振状態を解明する世界初の評価手法を開発
~次世代大容量ニアラインハードディスクの開発に貢献~

概要
 当社は、ハードディスクドライブ(以下、HDD)のさらなる大容量化を実現する可能性がある次世代技術、共鳴型マイクロ波アシスト磁気記録 (以下、MAS-MAMR)向けに、磁気ヘッド内の「スピントルク発振素子(以下、STO)」の発振状態を詳細に解明できる世界初の評価手法を開発しました。
 膨大なデータを低コストで保存できるHDDは、依然として重要なストレージデバイスであり、さらなる記録密度の向上が求められています。
当社は、次世代記録技術としてMAS-MAMRと熱アシスト磁気記録(以下、HAMR)の両技術を開発しており、特にMAS-MAMRでは、当社独自の双発振型STOにより、記録能力の改善を世界に先駆けて実証しています(*1)。
 MAS-MAMRの実用化には、最適なマイクロ波を得るためにSTOの発振状態を正確に把握し、設計に反映することが求められますが、従来はその詳細解析が困難でした。
 今回、国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下、NIMS)との共同研究により、STOの発振状態を直接評価できる革新的な手法を開発しました。本手法は、双発振型STOをはじめとするSTO動作の理解を深め、MAS-MAMR技術の進化に貢献します。当社は、MAS-MAMRとHAMRの両技術の開発を進め、次世代ニアラインHDDの開発を推進します。
 なお本成果は2026年1月21日付で『Communications Physics』に掲載されました(*2)。同誌はネイチャー・ポートフォリオが発行する物理学分野の学術誌であり、物理科学の各専門分野において、研究に影響を与える新規の実験結果、新技術、または演算手法などの成果を掲載しています。

開発の背景
 社会のデジタル化の進展に加え、生成AIの急激な進化が我々の生活を大きく変えようとしています。情報ストレージのニーズがますます増大しており、HDDは2024年に出荷容量が1ZBを超え、依然として情報ストレージデバイスの中心的役割を担っています。HDD市場は2030年に320億ドルに達すると予測され、特にデータセンター向け大容量ニアラインHDD市場の伸長が見込まれています(*3)。こうした背景からHDDには今後もさらなる大容量化が強く求められています。
 この大容量化を実現する鍵となるのが、新しい記録方式であるエネルギーアシスト磁気記録技術です。
当社は、磁気記録媒体にマイクロ波を照射するMAS-MAMRと、熱を加えるHAMRという二つのエネルギーアシスト技術の開発を進めています。
 MAS-MAMRにおけるマイクロ波源は、磁気ヘッドの先端に形成されるSTOが担っています。当社は、独自の双発振型STOを提案・設計し、MAS-MAMR効果による記録能力の向上を世界に先駆けて実証しました(*1)。双発振型STOでは、内部の2つの磁性層が協調して発振することで、MAS-MAMRに最適なマイクロ波を生成します。MAS-MAMRで記録密度を高めるためには、マイクロ波の安定性・周波数・強度・振動方向といった要素が重要であり、その源となるSTOの発振状態を解析・理解することが、STOの設計改良とHDDのさらなる大容量化に不可欠でした。
 しかし、磁気ヘッドは複雑な構造を持ち、そこに設置されるナノスケールのSTOを直接観察し、発振状態を解析することは極めて困難でした。従来は、シミュレーション結果や記録特性など複数の間接情報を組み合わせて発振状態を推定していましたが、直接解析による理解が、より高度な技術開発の鍵となっていました。

本技術の特長
 そこで当社は、NIMSとの共同研究により、STOの発振状態を詳細に解明できる世界初の評価手法を開発しました。本手法では、評価用のアンテナを新たに導入し、STOに外部からマイクロ波を照射することで、従来困難だった発振状態の直接評価を可能としました(図1)。
 本手法は、STOの発振と評価用のアンテナから照射するマイクロ波の同期現象に着目するものです。同期現象の有無はSTOの発振状態によって異なり、特に、双発振型STOの狙いである双発振状態では、同期現象が現れません。従来の測定では発振信号に差が見られない場合でも、本手法では、双発振状態と非双発振状態を明確に区別し、発振状態を解明できます(図2)。
STOの発振状態によって発振信号が複数ある場合がありますが、周波数レベルで測定が可能なため、MAS-MAMRに最適な発振状態の真の周波数を特定できます。
 磁気ヘッドは複雑な構造を持ちますが、評価用アンテナからのマイクロ波に鋭敏に応答するのはSTOのみであるため、STOに特化した測定が可能です。従来は正確な評価のために複雑な配線を準備する必要がありましたが、本手法ではアンテナを導入するだけで評価が完了します。数10 GHzという高周波で発振するSTOの状態を、磁気ヘッド内部で直接特定できる世界初の手法です。
 さらにSTOは、人間の脳の働きを模倣するコンピューティング手法であるニューロモルフィックコンピューティングや、時系列データ処理に適したリザバーコンピューティングなど、次世代計算システムへの応用が期待されており、本手法は、MAS-MAMRにとどまらず、STO全般に広く適用可能です。


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図1:MAS-MAMR記録動作と本評価手法のイメージ図


[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1398/126701/600_347_20260121105011697030d38d2fc.png
図2:本評価手法による双発振型STOの発振状態の区別


今後の展望
 本手法は、STOの挙動理解を促進し、STOの高度な設計改良とMAS-MAMR技術の進化に貢献します。当社は、MAS-MAMR技術とHAMR技術の両輪で次世代の大容量HDD開発を加速し、急速に拡大するデータセンターや生成AIなど、多様化するストレージニーズに応えるソリューションを提供してまいります。

以 上


*1  (株)東芝、東芝デバイス&ストレージ(株)プレスリリース (2021年12月27日)
「世界で初めて「共鳴型マイクロ波アシスト記録(MAS-MAMR)」による HDDの大幅な記録能力の改善を実証-30TB超の大容量ニアラインHDDの早期の実用化を目指す-」https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/21/2112-04.html
*2  https://www.nature.com/articles/s42005-025-02469-4
*3  出典 株式会社テクノ・システム・リサーチ (2026年1月)
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