【概 要】
 この度、日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野の神津悠助教、丸岡秀一郎准教授、權寧博教授 らは、シンバイオシス・ソリューションズ株式会社との共同研究により、日本人成人気管支喘息(以下、成人BA)患者の腸内細菌叢※1 を解析し、健常対照者と比較して腸内細菌叢の構成に異常(dysbiosis)が認められること、ならびにその異常の特徴に性差が存在することを明らかにしました。
 本研究成果は、国際学術誌「Biomedicines」(2026年1月8日付)に掲載されました。

Sex-Specific Differences in Gut Microbiota Composition in Adult Patients with Bronchial Asthma.
Chihiro Hirano, Yutaka Kozu, Yusuke Jinno, Yusuke Kurosawa, Shiho Yamada, Kouta Hatayama, Kanako Kono, Kenji Mizumura, Motoyasu Iikura, Shuichiro Maruoka, Hiroaki Masuyama, Yasuhiro Gon. Biomedicines 2026, 14(1), 125.
doi: 10.3390/biomedicines14010125
https://www.mdpi.com/2227-9059/14/1/125


■研究の要旨とポイント
・これまで、腸内細菌叢の異常と小児喘息との関連を示す研究は多数報告されてきましたが、日本人成人における気管支喘息と腸内細菌叢との関連については、十分に明らかにされていませんでした。
・本研究では、日本人成人気管支喘息患者群(以下、成人BA群)と健常対照者群(以下、対照群)の腸内細菌叢を比較解析し、成人BA群に特徴的な腸内細菌叢の構成変化を明らかにしました。
・その結果、成人BA群では、対照群と比較して呼吸器疾患との関連が報告されている分類群が多く、短鎖脂肪酸産生菌を含む分類群が少ない傾向が認められ、腸内細菌叢の構成に異常が生じている可能性が示唆されました。
・さらに、成人BAに関連する腸内細菌の分類群の多くは、男女で異なっており、腸内細菌叢の異常の特徴に性差が存在することが明らかとなりました。
・本研究の成果は、成人BAの病因や病態形成における腸内細菌叢の関与を示唆するものであり、今後の病態理解の深化や、新たな予防・管理戦略を検討するうえで重要な知見を提供すると考えられます。

【研究内容】
■背景
 気管支喘息(bronchial asthma:BA)は、慢性的な呼吸器疾患の一つであり、世界中で約3億人が罹患しています。気管支平滑筋の収縮により、気管支が狭窄し気流制限が生じるため、喘鳴や咳、呼吸困難などの症状を示します。日本での気管支喘息有病率は小児で約7%、成人では約4%と推察されており、厚生労働省の2020年患者調査によると推計総患者数は約918,000人と報告されています。また、成人BAの有病率は、男性よりも女性の方が高いことが世界的に知られています。
 近年、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が小児喘息の発症と関連していることが多数報告されています。小児喘息では、腸内細菌の代謝産物の産生異常が免疫応答に影響を及ぼします。腸内細菌によって産生される酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸は、気道炎症に対する保護効果が示されており、便サンプル中の短鎖脂肪酸濃度の低下は、小児喘息リスクの増加と関連しています。
腸内細菌叢は成人のBA発症と重症度にも関連している可能性があり、海外の研究では、成人喘息患者において腸内細菌叢の異常が生じていること、短鎖脂肪酸産生菌のレベルが低いことが報告されていますが、日本人を対象とした研究はありませんでした。腸内細菌叢の構成は国や地域によって異なり、日本人は特有の腸内細菌叢を有していることから、他国での研究結果が日本人にも当てはまるとは限りません。さらに、成人BAの有病率と腸内細菌叢の構成のそれぞれには性差があることが分かっていますが、これまでの研究では性差が考慮されていません。
 そこで本研究では、 性差に焦点を当てつつ、日本人の成人BA患者において腸内細菌叢の異常が生じているかどうかを調査しました。

■研究手法と成果 
 研究チームは、日本人20~70代の成人BA群(男性48名、女性90名)と対照群(男性60名、女性120名)の腸内細菌叢を、次世代シーケンサー※2を用いた16S rRNA遺伝子配列解析※3により男女別に比較しました。

 腸内細菌叢の多様性を比較するにあたり、β多様性※4をBray–Curtis指数に基づく非計量多次元尺度法(NMDS)※5のプロットにより可視化し、PERMANOVA※6の検定を実施したところ、男女ともにβ多様性に有意差が認められました(図1)。これは、成人BA群と対照群では腸内細菌叢の構成に違いがあることを示しています。

図1:成人BA群と対照群の腸内細菌叢の非計量多次元尺度法(NMDS)プロット
(A) 男性(PERMANOVA p < 0.001)、(B)女性(PERMANOVA p = 0.003)。NMDSプロットの楕円は95%信頼区間を示す。NMDSプロットの赤色はBA群、緑色は対照群のサンプルを示す。

 成人BA群と対照群で異なる腸内細菌の分類群(属レベル)を解析したところ、男性の成人BA群では対照群と比較してStreptococcus、Blautia、Veillonella、Unclassified(属レベルの分類が定まらなかった細菌)、Adlercreutzia、Clostridium_IVおよびSchaaliaがより多く、一方で、Butyricimonas、Clostridium_XlVb、MegamonasおよびClostridium_XVIIIは少ない傾向がみられました(図2A)。女性の成人BA群では、Flavonifractor、Streptococcus、Eggerthella、Enterocloster、Ruthenibacterium、Dysosmobacter、Sellimonas、Erysipelatoclostridium、Blautia、Clostridium_XlVa、FusobacteriumおよびAnaerotignumが多く、Coprobacter、Oscillibacter、Agathobacter、Ruminococcus、CoprococcusおよびOdoribacterは少ない傾向がみられました(図2B)。
女性の成人BA群で存在量に違いがみられた19分類群中8分類群では、対照群との間に有意差が認められました(ウィルコクソンの順位和検定※7 p < 0.05)。成人BA群では男女ともにStreptococcusとBlautiaが多い特徴が観察されましたが、その他の分類群は男女で異なっていました。

 成人BA群の特徴としてみられた分類群の多くが男女で異なっていましたが、BA群で存在量が多い分類群の多くは呼吸器疾患に関連することがこれまでに報告されており、存在量が少ない分類群の多くは短鎖脂肪酸産生菌に該当する傾向がみられました。

図2:成人BA群と対照群の間で異なる腸内細菌の分類群(属レベル)
効果量※8が正の値(図の赤色バー)は対照群と比較して成人BA群で相対存在量が多い分類群、負の値(図の緑色バー)は少ない分類群を示す。アスタリスクは成人BA群と対照群で有意差が認められた分類群を示す。


 これらの結果から、日本人の成人BA患者において腸内細菌叢の異常が生じていること、ならびにその特徴に性差が存在することが明らかとなりました。
 本研究は、成人BAの病因や病態形成における腸内細菌叢の関与を示唆するものであり、今後の病態理解の深化や、新たな管理・予防戦略を検討するうえで基盤となる知見を提供すると考えられます。

【今後の展開】
 本研究で明らかとなった成人BAと腸内細菌叢の関連性は、腸内細菌叢を介した成人BAの今後の病態解明や治療戦略の検討に資することが期待されます。

【 用語解説 】
※1 腸内細菌叢
 ヒトの腸内には1,000種以上、10~100兆個程度の腸内細菌が共生しており、重さにして約1.5 kgと考えられている。腸内細菌はそれぞれテリトリーをもって生息しており、その全体を「腸内細菌叢」と呼んでいる。
※2 次世代シーケンサー
 一度に大量の塩基配列を決定することができる次世代型の塩基配列決定機器。旧世代型に比べ、同時処理可能なDNA断片数が桁違いに向上し、目的サンプルの大量塩基配列データを得ることができる。

※3 16S rRNA遺伝子配列解析
 16S rRNA遺伝子配列は、細菌の進化の道筋(系統関係)によって異なっており、配列を調べることで細菌が属する分類群(属や種など)を明らかにすることができる。そのため、細菌の系統マーカー遺伝子として利用される。
※4 β多様性
 2つのサンプル間の多様性の相違度を表す。
※5 非計量多次元尺度法(NMDS)
 高次元(次元 >= 4)の散布図を低次元(2次元または3次元)へ、元の次元における点間の位置関係を保ったまま投影する手法の一種である。
※6 PERMANOVA
 2群間におけるβ多様性の違いが、有意なものであるかを検定するための、統計学的手法の一種である。
※7 ウィルコクソンの順位和検定
 ノンパラメトリック検定のひとつで、マン-ホイットニーのU検定とも呼ばれ、得られた2つのデータ間の中央値に差があるかどうかを検定する。ウィルコクソンの符号順位検定はパラメトリック検定における対応のあるt検定に相当するものである。
※8 効果量
 ある現象に対して、着目している変数がどの程度の影響力を持っているのかを指標化した量のこと。

【問合せ先 】
丸岡 秀一郎(まるおか しゅういちろう)
日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野
所在地:〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1
TEL: 03-3972-8111 内線2402
E-mail: maruoka.shuichiro@nihon-u.ac.jp

※取材にお越しいただく際は,あらかじめ上記連絡先までご一報願います。

▼本件に関する問い合わせ先
日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野
丸岡 秀一郎(まるおか しゅういちろう)
住所:〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1
TEL:03-3972-8111
メール:maruoka.shuichiro@nihon-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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