-男性と女性でも違う!食習慣に合わせたうつ病治療の提案-

藤田医科大学(愛知県豊明市、学長:岩田仲生)医療科学部レギュラトリーサイエンス分野の毛利彰宏教授、坂田昂駿大学院生、國澤和生准教授、鍋島俊隆客員教授、齋藤邦明教授らの研究グループは、松波総合病院 松波英寿理事長、筑波大学 沓村憲樹教授との共同研究により、健康診断受診者2840名の食事調査データ解析から、うつ病リスクと甘味摂取の関係を見出しました。さらに、マウスにおける慢性ストレス負荷下の砂糖摂取は、オスでは攻撃性が抑制されるもののうつ様行動※1は認められ、認知機能が障害される一方で、メスではうつ様行動が治るという性差が認められることを発見しました。
また、オスのうつ様行動変化の機序として、身体と脳の糖代謝※2障害により、ノルアドレナリン※3神経機能障害が惹起されることを明らかにしました。
本成果は、食習慣や糖代謝の状態により、うつ病にサブタイプが存在することを示唆します。砂糖の摂取が多い、糖尿病を併発するうつ病患者の病態にα2アドレナリン受容体※4が関与していることが想定され、同受容体を標的とした治療が有効となる可能性があり、患者の状態に合わせた層別化治療につながることが期待されます。
本研究成果は、英国の学術誌「British Journal of Pharmacology」オンライン版で2025年12月21日に公開されました。
論文URL : https://doi.org/10.1111/bph.70288


<研究成果のポイント>

健康診断データ解析から、うつ病リスクの高い健診者では男性・女性関わらず洋菓子などの摂取が多く、甘味(ショ糖)摂取が増加することを見い出した。
マウスにおける慢性ストレス負荷下のショ糖摂取は、オスでは攻撃性が抑制されるもののうつ様行動は認められ、認知機能が障害される。メスではうつ様行動が治るという性差が認められることを発見した。
その機序として、身体と脳の糖代謝障害により、ノルアドレナリン神経機能障害が惹起されることを見い出した。
食習慣・糖代謝に基づくうつ病サブタイプの存在が示唆され、患者に合わせた個別化医療※5につながる可能性を示した。


<背 景>
うつ病は症状や原因が人によって異なり、同じ診断でも治療の効き方に差があります。一方、ストレスがあると私たちは甘いものを食べたくなることがあるかと思います。しかし、うつ病リスクと甘味摂取の関連や、ストレス下での砂糖摂取がどう脳の働きと糖代謝を変化させ、うつ病態を生じさせるのかは十分に分かっていませんでした。
本研究では、健康診断データの食事調査解析と、慢性ストレス負荷マウスへの砂糖投与実験を組み合わせ、砂糖によるうつ病態変化の解明を目指しました。


<研究手法・研究成果>
本研究ではまず、松波総合病院(岐阜県笠松町)の研究施設「まつなみリサーチパーク」における健康診断受診者2840名の食事調査データを用いて、食習慣とうつ傾向の関連を検討しました。食事内容は質問票(BDHQ)、抑うつ症状は尺度(CES-D)で評価し、CES-Dが一定以上(≧16)の受診者を「抑うつ症状が強い群(うつ病リスク群)」として解析しました。
その結果、抑うつ症状が強い群(n=555)では、対照群(n=2285)に比べて食事内容に偏りがみられ、特にスクロース※6(砂糖)の摂取量が多いことが示されました。
次に、これらの結果を踏まえ、慢性ストレス下での砂糖摂取が行動や体の状態に与える影響をマウスで検証しました。雄・雌のICRマウスに4週間の慢性予測不能軽度ストレス(CUMS)※7を負荷し、飲水としてスクロース溶液(30%)を与えたうえで、活動量試験、社会性行動試験、絶望様行動試験、記憶試験などにより「うつ様行動」を評価しました。
その結果、オスでは、砂糖摂取がストレスによる過活動や攻撃性を一部軽減する一方で、社会性の低下や絶望様行動は改善せず、ストレスと砂糖が重なることで記憶機能が低下することが示されました。一方、メスはオスと異なり、砂糖摂取が社会性低下を軽減するなど、性差が認められました。
こうした差が生じる背景を明らかにするため、脳内の神経機能と糖代謝を解析しました。ストレス下の砂糖摂取により、前頭前皮質(意思決定や感情制御に関わる領域)におけるノルアドレナリン系の変化(代謝回転の変化や受容体発現の変化)が生じることが示されました。加えて、血糖やストレスホルモン(コルチコステロン)などの末梢指標、および前頭前皮質の代謝物解析から、オスでは血糖が十分に低下せず高血糖状態が持続するとともに、脳内の糖代謝が乱れ、酸化ストレスに関連する変化を伴うことが示唆されました。これに対しメスでは、オスで認められた高血糖やα2受容体の増加が認められず、性差の背景として糖代謝異常の有無の違いが関与する可能性が示されました。

さらに、うつ病治療(抗うつ薬選択)の層別化を目指すため、ノルアドレナリン受容体を薬剤で調節する実験を行いました。その結果、α2アドレナリン受容体を遮断する薬(ミルタザピン、アチパメゾール)は、ストレス下の砂糖摂取で生じる行動異常を改善しました。 
以上より、本研究は、食習慣や代謝状態の違いに基づく「うつ病のタイプ(サブタイプ)」の存在を示唆するとともに、α2受容体を標的とした層別化治療につながる可能性を示すものです。

[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/127549/600_412_2026020215033169803e33cc3ea.jpg


<今後の展開>


患者ごとの治療(個別化医療)への応用:食習慣や代謝状態に応じた治療選択の最適化、α2アドレナリン受容体を標的とする戦略の検証
評価指標の開発:砂糖摂取量や血糖などの情報を取り入れた、病態理解・治療選択の精度向上
機序と治療標的の確証:より選択性の高い薬や遺伝学的手法を用いた因果関係の強化
性差の解明:オス・メスでの違いを踏まえた病態理解と臨床応用の検討


<用語解説>
※1 うつ様行動
人のうつ病そのものではなく、マウスで観察できる“うつに似た変化”(社会性の低下、意欲の低下、記憶の低下など)を指す研究用語。

※2 糖代謝(糖代謝異常)
体(および脳)が糖をエネルギーとして使う仕組み。

※3 ノルアドレナリン
脳内で働く神経伝達物質の一つで、ストレス反応や注意・覚醒、気分の調節などに関わる。

※4 α2アドレナリン受容体
ノルアドレナリンの放出を抑制する“スイッチ”の一つ。

※5 個別化医療:患者一人ひとりの状態(食習慣や代謝状態など)に合わせて、より適切な治療を選
ぶ考え方。
※6 スクロース(砂糖)
一般に「砂糖」と呼ばれる成分。

※7 慢性予測不能軽度ストレス(CUMS)
弱いストレスを不規則に繰り返し与え、慢性的なストレス状態を再現する動物実験モデル。


<文献情報>
●論文タイトル
Targeting the noradrenergic-metabolic axis: A new strategy for sugar-induced depression subtypes

●著者
坂田昂駿 1, 國澤和生 1 2 3, 長谷川眞也 1 2, 瀬戸優心子 1, 小川蒼生 1, 倉橋仁美 1 2, 山本康子 4, 竹村正男 4 5, 松波英寿 5 6, 須貝智也 7 8, 沓村憲樹 7 8, 齋藤邦明 3 4 9, 鍋島俊隆 2 3 9,毛利彰宏 1 2 3

●所属
1. 藤田医科大学 医療科学部および大学院 医療科学研究科 レギュラトリーサイエンス分野
2. 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター
3. NPO法人 医薬品適正使用推進機構
4. 藤田医科大学大学院 医療科学研究科 先進診断システム開発分野
5. 松波リサーチパーク
6. 松波総合病院
7. 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
8. 筑波大学 数理物質系 化学域
9. 藤田医科大学大学院 医療科学研究科 健康医学創造共同研究部門

●DOI
10.1111/bph.70288 


本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
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