〇発表のポイント
熱電材料の高性能化には電子散乱の利用が有効であることが知られていたものの、これまでは実験的に電子散乱の情報を検出することは難しかった。
今回、角度分解光電子分光という手法を用いることで、電子散乱のエネルギー依存性を検出することに成功した。これにより近藤効果(*3)に起因する異常熱電特性が電子散乱の効果によって説明できることを初めて実験的に明らかにした。
本手法をあらゆる材料に応用することにより、電子散乱を起源とした高性能熱電材料の開発が活性化し、熱電変換技術の社会実装が促進されることが期待される。
〇研究概要
捨てられている熱から電気を得ることができる熱電変換技術は有力な省エネルギー技術ですが、社会や産業を支える基幹技術となるためには構成材料のさらなる高性能化が必要です。これまで熱電材料の性質は状態密度(*4)のエネルギー依存性に基づいて理解されてきました。一方で近年の研究から、いくつかの高性能な熱電材料においては、状態密度の点だけではその性質を理解することが難しく、従来は無視されてきた電子散乱のエネルギー依存性を考慮することの重要性が認識されるようになってきました。つまり電子散乱に注目した材料開発を進めることで、熱電材料の飛躍的な高性能化を実現できる可能性が高まります。しかしながら、現在までに熱電材料における電子散乱のエネルギー依存性が実際に観測された例はなく、あくまで理論上の予測にとどまっていました。
今回、研究グループは角度分解光電子分光という手法(図1)を用いて、近藤効果によって異常な熱電特性を示すYbCu₂Si₂という物質の中の電子の性質を詳しく調査し、状態密度に加えて電子散乱の情報を抽出することに成功しました。図2(a)は今回の実験で得られた状態密度とエネルギーの関係であり、図2(b)は電子散乱を特徴づける緩和時間とエネルギーの関係を表したグラフです。
本研究では電子のダイナミックさが熱電材料の高性能化の重要な鍵となり得ることを初めて実験的に裏付けたものです。この研究成果をきっかけに次世代の熱電材料となり得る物質における電子散乱の影響が実験的に解明され、それを制御することで高性能化が進み、熱電変換技術の社会実装が促進されることが期待されます。
〇用語説明
*1 角度分解光電子分光 ・・・固体に紫外線やX線を照射して、飛び出てくる電子(光電効果)のエネルギーと角度を観測することにより、固体内電子の束縛エネルギーと運動量(電子の動く方向と速さ)を調べる実験手法を指します。
*2 熱電材料 ・・・導体に温度勾配をつけた場合に電圧(熱起電力)が生じる現象をゼーベック効果といいます。ゼーベック効果が大きく、電気抵抗が小さい材料を用いると、温度差から発電することができます。これを熱電発電と呼び、熱電発電を行う素子に用いられる材料が熱電材料です。
*3 近藤効果 ・・・通常の金属は冷却とともに電気抵抗が減少しますが、僅かな磁性不純物を含む金属の場合には、電気抵抗がある温度で増加に転じるという異常を示します。1964年に故・近藤淳 博士は、この異常が不純物の局在スピンと伝導電子との多体相互作用に起因するということを理論的に解明しました。
*4 状態密度 ・・・単位エネルギー当たりの電子状態の数のことを状態密度といいます。つまりあるエネルギーに電子がどれだけ存在しやすいかを表します。
*5 フェルミエネルギー ・・・金属において絶対零度で電子が存在できる最高のエネルギーのことをフェルミエネルギー(フェルミ準位)といいます。図1の場合は縦軸が、図2の場合は横軸がゼロのところに対応します。
〇論文の詳細情報
タイトル:Evidence for energy-dependent scattering dominating thermoelectricity in heavy fermion systems(重い電子系の熱電現象を支配するエネルギー依存散乱の証拠)
著者名:Daiki Goto, Kentaro Kuga, Kiyohisa Tanaka, Tsunehiro Takeuchi, Masaharu Matsunami
雑誌:Applied Physics Letters
DOI:10.1063/5.0291138
URL:https://doi.org/10.1063/5.0291138
※本研究は JSPS科研費23K23051の支援を受けて行われたものです。
〇お問い合わせ先
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電話:052-809-1706 Mail:matunami@toyota-ti.ac.jp
自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設
准教授 田中 清尚
電話:0564-55-7202 Mail:k-tanaka@ims.ac.jp
報道に関するお問い合わせ
豊田工業大学 広報・入試室渉外広報グループ
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メール:s-koho@toyota-ti.ac.jp
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