~藤田医科大、睡眠薬の影響を網羅的に解析~

「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に伴う不眠症状に、どの睡眠薬を使うべきか?」
この長年の課題に対し、藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部精神神経科学講座の岸太郎教授、北島剛司教授、岩田仲生教授、佐久間健二講師、ミシシッピ大学(米国ミシシッピ州)コミュニケーション障害科の生田敏一准教授、藤田医科大学医学部薬物治療情報学の波多野正和准教授、きし耳鼻いんこう科(愛知県一宮市)の岸龍彦医師は、OSA患者さんに対する睡眠薬の影響を、ネットワークメタ解析※1を用いて網羅的に検討しました。
多くのOSA患者さんは不眠症状を併発していますが、一部の睡眠薬には呼吸機能を悪化させるリスクが懸念されてきました。
本研究では、睡眠薬の種類によって「睡眠の質」や「呼吸機能」へ及ぼす影響が異なることを科学的に解明しました。この成果により、一人ひとりの症状に合わせ、呼吸へのリスクを考慮したより安全で効果的な薬剤選択が可能になると期待されます。なお、本研究では患者さん自身による主観的な症状評価データは含まれていないため、臨床適用にあたっては一定の留意が必要ですが、今後のOSA治療における重要な指針となる成果です。
本研究成果は、日本精神神経学会の学術ジャーナル「Psychiatry and Clinical Neurosciences」(2026 in press)で発表され、併せてオンライン版が2026年2月10日に公開されました。
論文URL : https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pcn.70036


<研究成果のポイント>

OSAに伴う不眠治療の課題を解明

多くのOSA患者さんが抱える不眠症状(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)に対し、これまで睡眠薬の有効性と安全性を包括的・網羅的に比較した研究は不足していました。


最新の手法を用いた網羅的解析

系統的レビューとネットワークメタ解析を用い、各種睡眠薬がOSA患者さんの「睡眠の質」と「呼吸機能」に及ぼす影響を科学的に検証しました。


薬剤ごとの特性が明らかに

解析の結果、睡眠薬の種類によって睡眠の質を改善する効果や、呼吸機能へ与える影響がそれぞれ異なることが判明しました。


一人ひとりに合わせた「個別化医療」への期待

本研究の成果により、患者さんそれぞれの不眠症状や呼吸状態に合わせた、より安全で最適な睡眠薬の選択が可能になると期待されます。


臨床適用における留意点

本解析には患者さん自身による主観的な症状評価データが含まれていないため、実際の臨床現場への適用にあたっては、医師による慎重な判断と一定の留意が必要です。また、国際的な診断基準に基づき、厳密に「不眠症」と診断されたOSA患者さんのみを対象とした試験は、現時点ではまだ限られていました。

【閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の主な症状】


[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/128724/500_281_2026021910443969966b07ce405.jpg


<背景および研究手法>
不眠症を抱える患者さんの約50%が、OSAを合併しているという報告があります。OSAは睡眠中に上気道が閉塞し、無呼吸や低呼吸を繰り返す疾患です。
呼吸が止まるたびに脳が覚醒反応を起こすため、睡眠が分断されて質が低下し、日中の強い眠気や活動性の低下を招きます。さらに、放置するとうつ病などの精神疾患や、虚血性心疾患をはじめとする深刻な身体疾患のリスクを高めることも指摘されています。OSAの治療には、一般的に持続陽圧呼吸療法(CPAP)や口腔内装具が用いられますが、多くの患者さんが不眠症状を併発しているのが現状です。これらの治療を行っても不眠が改善しない場合には睡眠薬を検討しますが、「一部の睡眠薬が呼吸機能を抑制し、OSAを悪化させる可能性がある」という懸念が長年指摘されてきました。このリスクへの慎重な判断が求められるあまり、患者さん一人ひとりの不眠症状に合わせた適切な薬物治療の選択肢が、これまで十分に示されてこなかったのが現状です。
こうした課題を解決するため、私たちは、OSA患者さんの「睡眠の質」と「呼吸機能」に対する睡眠薬の影響をネットワークメタ解析を用いて科学的に検証しました。これにより各睡眠薬が、OSA患者さんの呼吸状態や睡眠の質にどのような違いをもたらすのかを包括的かつ網羅的に検討しました。


<研究成果>
本研究では、32件の無作為化比較試験(計1,871人の患者データ)を統合し、12種類の睡眠薬(ブロチゾラム、ダリドレキサント、エスゾピクロン、フルラゼパム、レンボレキサント、ニトラゼパム、ラメルテオン、テマゼパム、トリアゾラム、ザレプロン、ゾルピデム、ゾピクロン)およびプラセボを対象に、ネットワークメタ解析を行いました。

1. 不眠症状に合わせた薬剤選択の可能性
睡眠の質(総睡眠時間、入眠潜時、中途覚醒時間、レム睡眠時間)を評価した結果、睡眠薬の種類によって、それぞれの不眠症状に対する有効性が異なることが明らかになりました。
「寝付きが悪い」「途中で目が覚める」「朝早く目が覚める」といった、患者さん一人ひとりの異なる不眠症状に対し、より適した薬剤を提案できる可能性が示されました。

2. 呼吸機能への影響と安全性
OSA患者さんが睡眠薬を使用する際、最大の懸念は「睡眠中の無呼吸・低呼吸の悪化」です。今回の解析項目(無呼吸低呼吸指数、血中酸素飽和度など)において、以下の知見が得られました。

全般的な傾向: 解析対象となった睡眠薬の多くにおいて、OSA患者さんの呼吸機能を顕著に悪化させるという結果は認められませんでした。
薬剤ごとの留意点: 一方で、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬であるテマゼパムについては、睡眠中の動脈血中酸素飽和度を低下させることが確認されました。

3. 臨床上の注意
クアゼパムは睡眠時無呼吸症候群の患者に禁忌であり、既存の診療ガイドラインでは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬による呼吸機能への悪影響が指摘されています。本研究の結果は一つの指標ですが、実際の処方にあたっては引き続き慎重な判断が必要です。


<今後の展開>
本研究は、OSA患者さんの不眠治療における薬剤選択の重要な指標となるものです。国際的な診断基準に基づき、厳密に「不眠症」と診断されたOSA患者さんのみを対象とした試験データは少なく、また、実際の臨床適用にあたっては以下の点に留意が必要です。
患者さんの主観的評価に関する課題:今回の解析では、客観的なデータに基づいた評価を主としており、患者さん自身が「どの程度眠れたと感じたか」という主観的な症状評価データまでは含めることができていません。
対象薬剤の範囲:現時点で解析可能なデータが存在する主要な睡眠薬を対象としていますが、すべての睡眠薬について網羅できているわけではありません。
今後は、睡眠日誌などを用いて患者さん自身の不眠症状(主観的な改善度)に対する各睡眠薬の有用性を直接検証する、新たな臨床試験の実施が期待されます。本研究の成果を土台とし、不眠に悩むOSA患者さん一人ひとりに寄り添った、より精度の高い「個別化医療」の確立を目指してまいります。

[引用文献]
1.Comparative effects of hypnotic agents on sleep architecture and respiratory outcomes in obstructive sleep apnea: A systematic review and network meta-analysis. Kishi T, Ikuta T, Sakuma K, Hatano M, Kishi T, Kitajima T, Iwata N. Psychiatry Clin Neurosci. 2026 in press.


<用語解説>
※1 ネットワークメタ解析
複数の研究結果を統合して分析する「メタ解析」をさらに発展させた統計手法です。
直接比較と間接比較の統合: 例えば「薬A vs プラセボ」と「薬B vs プラセボ」の研究データしかない場合でも、共通の比較対象(プラセボ)を介して、直接比較試験が行われていない「薬A vs 薬B」の優劣を科学的に推定できます。

網羅的なランキングが可能: 多種類の薬剤を一度に比較できるため、どの薬が最も効果的か、あるいは安全かといった「ランキング」を高い信頼度で導き出すことができます。

<文献情報>
論文タイトル:
Comparative effects of hypnotic agents on sleep architecture and respiratory outcomes in obstructive sleep apnea: A systematic review and network meta-analysis

著     者:
岸 太郎1, 生田 敏一2, 佐久間 健二1, 波多野 正和3, 岸 龍彦4, 北島 剛司1,岩田 仲生1

所     属:


藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座
ミシシッピ大学 コミュニケーション障害科
藤田医科大学 医学部 薬物治療情報学
きし耳鼻いんこう科


掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences

掲載日:2026年2月10日(オンライン版)

DOI:10.1111/pcn.70036


本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
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