昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)の池谷怜講師(大学院薬学研究科 薬剤疫学分野)らは、高齢者が「かかりつけ薬剤師」をもつ有益性について、全国規模の医療情報データベースを用いて検証しました。その結果、入院と死亡を合わせたリスクに差は認められませんでしたが、死亡のみを対象とした分析では、かかりつけ薬剤師をもつ人で死亡リスクが低い傾向が示されました。
この結果は現時点で仮説生成段階に留まりますが、かかりつけ薬剤師制度の有益性について、今後さらに検証を進めるうえで重要な示唆を与える結果といえます。
本研究成果は国際誌『JAMA Network Open』に掲載されました。


■研究の背景

 日本では、2016年4月からいわゆる「かかりつけ薬剤師制度」が始まりました。これは、保険薬局を利用する方に対し、特定の薬剤師がかかりつけの役割を担うことで、継続的かつ一貫した薬学的サポートを行い、疾病の治療をより良い形で進めていくことを目的としています。この制度により、薬物治療の適正化や医療サービスの充実が期待されていますが、その分利用者は従来よりも多くの医療費を負担する必要があり*、それに見合った実際の有益性があるのか明らかにすることが求められていました。

 そこで、昭和医科大学の池谷講師らは、全国規模の医療情報データベースの一種である「DeSC保険者データベース」を用いて、かかりつけ薬剤師をもつことの有益性を評価しました。

*2026年6月以降は、単にかかりつけ薬剤師をもつだけでは追加費用は発生せず、余っている薬の調整やその後のフォローアップが実施された場合などに追加費用が発生する仕組みに変更される見込みです。

■研究の方法と成果

 本研究は、75歳以上で、高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、狭心症、心不全、不整脈の治療のため保険薬局を利用している約4.5万人を対象に行われました。入院や死亡といった健康に関わる重大事象を指標として、かかりつけ薬剤師の有無でリスクが異なるかを分析しました。

 結果として、入院と死亡を合わせたリスクでは、かかりつけ薬剤師の有無による差は認められず、この点で有益性は示されませんでした。一方、死亡のみを対象とした分析では、かかりつけ薬剤師をもつ高齢者は、もたない人よりわずかに死亡リスクが低い傾向が認められました。特に心不全の治療を受けている方で顕著であり、制度の有益性が集団によって異なる可能性が示されました。


 ただし、これらの結果は因果関係を証明するものではなく、仮説生成段階にあるため、今後さらなる検証が必要です。特に、この研究では生活習慣や学歴、経済状況といった社会的背景は考慮できていないため、かかりつけ薬剤師を希望する人がもともと健康状態や社会的条件に恵まれていた場合、かかりつけの有無で公平な比較ができていない可能性があります。

 この研究結果は慎重に解釈する必要がありますが、薬剤師による継続的な医療サービスが高齢者の健康に寄与する可能性を示す、重要な知見であると考えられます。

■今後の展開

 今回の研究では、かかりつけ薬剤師をもつことの有益性のみを評価しており、費用とのバランスは評価できていません。費用に見合った価値があるのか検証していくことは、利用者の納得感や薬剤師の業務負荷に対する理解を得ていくために重要です。

 また本研究の対象は、慢性の循環器疾患、内分泌疾患を治療している高齢者に限定されており、実際にかかりつけ薬剤師をもっている人全体での有益性は分かっていません。がんや呼吸器疾患といった他の疾患や若年層での有益性を検証していくことも今後の課題です。

 「かかりつけ薬剤師制度」は今後その仕組みが大幅に変更される見込みです。これまでの知見を踏まえ、利用者や薬剤師、行政にとってもより良い制度となるよう、今後も科学的な検証を継続していくことが求められます。

■論文掲載情報

・掲載雑誌:JAMA Network Open(2025年インパクトファクター:9.7)
・タイトル:Family pharmacist system for patients with chronic cardiovascular or endocrine disease
・著者:池谷 怜, 今井 志乃ぶ
・掲載日:2026年2月23日
・DOI:10.1001/jamanetworkopen.2025.6039
・URL:https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2845335

▼研究内容に関する問い合わせ先
 昭和医科大学大学院 薬学研究科 薬剤疫学分野 講師
 池谷 怜(いけたに りょう)
 お問い合わせ:以下のフォームからご連絡ください。
 https://forms.gle/Gb1K8pUz7ohJXycY6
 (googleフォーム)

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
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 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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