このたび、株式会社NTTデータ経営研究所(所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹 以下、当社)は、東京科学大学(所在地:東京都目黒区、理事長:大竹 尚登)の 笹原 和俊教授をアドバイザーに迎え、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさと関連する5つのテーマについて、メディア利用傾向と人間の認知特性の特定を目的とした実験を実施しました。
その結果、以下の点が明らかになりました。
①メディアの利用傾向は、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに小程度(8~19%程度)の影響を及ぼす。
②雑誌の利用傾向が高いほど、偽情報・ナラティブを信じやすく、共有しやすい(共通的なリスク特性)。一方、noteの利用傾向が高いほど、偽情報・ナラティブを信じにくく、共有しにくい。
③認知特性は、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに中程度(27~42%程度)の影響を及ぼす。
④認知的熟慮性、陰謀論への信奉傾向、リアリティ・モニタリング・エラー、政治や社会等に対する不満、ハーディング効果、経験への開放性、ISOQ依存的ポジティブ感情、不注意傾向が高い傾向にある人ほど、偽情報・ナラティブを信じやすい(共通的なリスク特性)。
⑤偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有のしやすさに関連するメディア利用特性、認知特性は、偽情報・ナラティブのテーマによって異なる(テーマ依存的なリスク特性)。
なお、本結果は、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさにメディア利用傾向だけでなく、人間の認知特性が強く寄与していることを示しており、人間の認知特性に応じた偽情報・ナラティブ対策の必要性を裏付けています。一方で、本調査では自己選択バイアスや交絡因子の影響の検証不足などの課題も残されています。今後、更なる実証研究を推進し、知見の精緻化を進めるとともに、人間の認知特性をターゲットとした次世代の偽情報・ナラティブ対策研究を推進してまいります。
背景
偽情報やナラティブは私たちの認知や意思決定に作用することで、社会の分断、政治への影響、経済的混乱等の様々な影響を及ぼします。
人々はなぜ偽情報やナラティブを信じてしまうのでしょうか。その要因の一つとして人間の認知の歪み・偏り(認知特性)が寄与していると考えられています。
本研究では当社が保有する人間情報データベース®※モニターを活用することで、偽情報やナラティブの信じやすさ・共有しやすさに関連する認知特性を網羅的に評価・検証し、これらに関連する認知特性を明らかにすることを目的として、実験を実施しました。
実験方法(概要)
実験期間:
2025年9月12日~2025年9月19日
実験参加者:
15歳~79歳の男女の人間情報データベース® モニター計 3,438名
実験準備:
日本において偽情報やナラティブが流布されやすいテーマとして、「外交・安全保障」「原発」「外国人(移民)」「災害」「金融詐欺」の5テーマを選定した。
その後、テーマごとにニュースの見出しを想定した刺激情報を作成した(各テーマにて、偽情報・ナラティブ:10~12問、正情報:4~5問)。
実験の流れ:
①アンケート調査:実験参加者に対し、メディアの利用傾向や認知特性を問うアンケートを実施した。
②真偽判定・共有意向調査:刺激情報を実験参加者に1問ずつランダムな順で提示し、各刺激情報について、偽情報・ナラティブの信じやすさ(提示された情報は正確だと思うか)、偽情報・ナラティブの共有しやすさ(提示された情報を他者に共有したいと思うか)などを回答させた。
③デブリーフィング: 実験終了後、実験参加者に対して、刺激情報には偽情報・ナラティブが含まれることを説明し、実験刺激による誤った知識や信念が形成されないよう配慮した。
解析方法:
重回帰分析により、以下のモデルを構築し、目的変数に対し説明変数が与える影響の有無・程度を評価。
①メディアの利用傾向が偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに与える影響を評価するモデル
②認知特性が偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに与える影響を評価するモデル
結果(概要)
① SNSなどを中心としたメディアの利用傾向は、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに小程度(8~19%程度)の影響を及ぼす。
メディアの利用傾向は偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさを8~19%程度説明できることが示されました。この結果は、説明力としては小さいものの、対象とする現象(偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさ)の複雑さを考慮すれば、無視できない有意義な結果であると考えられます。
② 雑誌の利用傾向が高いほど、偽情報・ナラティブを信じやすく、共有しやすい(共通的なリスク特性)。一方、noteの利用傾向が高いほど、偽情報・ナラティブを信じにくく、共有しにくい。
雑誌、noteの利用傾向は、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに小程度の影響を共通して及ぼすことが示されました。これらの差異は各メディアの特徴が反映されていると考えられます。また、特筆すべき結果として、外交・安全保障および原発に関する偽情報の場合、X(旧Twitter)の利用傾向が高いほど、偽情報・ナラティブを信じにくく、共有しにくいことが示されました。この結果は通説に反する非常に興味深い現象です。
③ 認知特性は、偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに中程度(27~42%程度)の影響を及ぼす。
認知特性は偽情報・ナラティブの信じやすさを27~42%程度説明できることが明らかになりました。対象とする現象(偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさ)の複雑さを考慮すれば、この結果は偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさに認知特性が大きく寄与していることを示しています。
④ 認知的熟慮性、陰謀論への信奉傾向、リアリティ・モニタリング・エラー、政治や社会等に対する不満、ハーディング効果、経験への開放性、ISOQ依存的ポジティブ感情、不注意傾向は高い傾向にある人ほど、偽情報・ナラティブを信じやすい(共通的なリスク特性)。
認知特性の中でも上記特性は共通的なリスク特性として機能することが明らかになりました。特に、知的好奇心や新しいものへの興味関心の強さを示す経験への開放性は通説に反する興味深い結果です。
⑤ 偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有のしやすさに関連するメディア利用特性、認知特性は、偽情報・ナラティブのテーマによって異なる(テーマ依存的なリスク特性)。
外交・安全保障、原発、外国人(移民)、災害、金融詐欺それぞれのテーマにおいて、前述の共通的なリスク特性の他に、テーマ特異的な認知特性が関与していることが示されました。この結果は、テーマによって偽情報・ナラティブを信じやすい・共有しやすい人物像が異なることを示しており、テーマごとに最適化されたアプローチの必要性・有用性を示唆しています。
今後の取り組みと展望(概要)
本実験結果を踏まえ、今後は脳科学と情報科学の融合研究を推進することで、より効率的・効果的な偽情報・ナラティブ対策が実現できることを期待しています。
①更なる実証研究の推進
本実験により偽情報・ナラティブの信じやすさ・共有しやすさと関連する認知特性とその影響度に関する示唆に富む先駆的な知見を獲得することができました。その一方で、得られた結果の汎用性や、新たなに生じた仮説の妥当性を検証するためには、継続的な実証研究が不可欠です。当社は引き続き実証研究を推進し、知見の蓄積を進めてまいります。
②人間の認知特性に着目した偽情報・ナラティブ影響評価・予測モデルの開発
大量に生成・拡散される偽情報・ナラティブの全てを人間が確認・対応するのは物理的に困難です。そこで、当社は偽情報・ナラティブの影響度を評価・予測するAIモデルの開発を提案します。偽情報・ナラティブを受容・拡散リスクに基づいて分類し、優先順位付けすることで危険性の高い偽情報・ナラティブに焦点を当てた効率的な対応が実現可能になると考えられます。当社では人間情報データベース®において、性格特性・心理状態・認知バイアスなど、人の内面に関わるデータを多数保有しています。今後、これらのデータを活用した偽情報・ナラティブ影響評価・予測モデルを開発することで、次世代の偽情報・ナラティブ対策ソリューションの実現を目指します。
③人間の認知特性に着目した偽情報・ナラティブ対策(対応・介入プログラム)の開発
主な偽情報・ナラティブ対策としては、事後的に偽情報・ナラティブの影響を低減するデバンキング(Debunking)と、事前に偽情報・ナラティブに対する抵抗力を高めるプレバンキング(Prebunking)が挙げられます。
しかし、デバンキング、プレバンキングいずれにおいてもその効果には個人差の存在が示されており、個々の認知特性を考慮した最適化が不可欠と言えます。当社は保有する人間情報データベース®を活用することで、認知特性に応じた最適な偽情報・ナラティブ対策(対応・介入プログラム)の開発を目指します。
④神経科学メカニズムの解明
なぜ人々は偽情報・ナラティブを信じてしまうのか、誤った信念に固執し続けてしまうのか、偽情報・ナラティブを信じやすい人とそうでない人は何が違うのか。これらのメカニズムは殆ど明らかになっていません。脳内メカニズムの理解は、神経科学エビデンスに裏付けられた「脳の防衛策」を構築する上で極めて重要です。当社は国内の脳科学研究者や一般社団法人応用脳科学コンソーシアム等と連携し、偽情報・ナラティブの神経科学メカニズム解明に向けた事業を推進してまいります。
※人間情報データベース®は、弊社が保有する『人間に聞き、人間を知り、人間を満足させる』ための世界でオンリーワンのプラットフォームです。約5万人に対して年齢、性別、職業などの属性情報や趣味などの基礎情報の他に「ディープデータ」として、性格特性・心理状態・認知バイアスなど、人の内面に関わるデータを多数保有しています。心理データおよび認知バイアスの取得にあたっては第一線の研究者と連携し、科学的に信頼性の高い方法論(尺度)に基づいて、代表性と独自性の高いデータ群を取得しています。
詳細はこちら:https://www.nttdata-strategy.com/dcs/about/index.html
本件に関するお問合わせ先
株式会社NTTデータ経営研究所
経営企画本部 コンサルティングサポート部
ブランド推進担当 米倉
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