【概要】
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)、細胞生理学分野 横山詩子主任教授、特別研究学生 野口貴史(横浜市立大学大学院医学研究科医科学専攻 博士課程)、横浜市立大学(学長:石川義弘/横浜市金沢区)、医学部産婦人科学教室 宮城悦子主任教授らの研究グループは、早産児の動脈管開存症(PDA)の治療に用いられているインドメタシンなどのシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬について、出生後早期に投与した場合、かえって動脈管の閉鎖を妨げる可能性があることを明らかにしました。
胎児期に大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管は、出生後の環境変化に適応するため速やかに閉鎖します。しかし早産児では閉鎖が不十分となることがあり、動脈管開存症を発症すると生命予後に影響を及ぼします。COX阻害薬は動脈管を収縮させる作用を持つことから、世界的に標準治療として広く使用されていますが、約30~40%では十分な閉鎖が得られないことが知られています。また、最適な投与時期については各国の診療ガイドラインでも統一した見解がなく、明確な科学的根拠が不足していました。
本研究では、出生後3~20時間のマウス動脈管においてシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)が一過性に強く発現することを示しました。さらに、COX-2が産生するプロスタグランジンE₂が受容体EP4を介してオーファン核内受容体Nr4a1を誘導し、血管平滑筋細胞の増殖を促進することで、動脈管の「解剖学的閉鎖」を推進する重要な役割を担うことを明らかにしました。一方で、出生後早期にCOX-2活性を阻害したマウスでは、半数以上が動脈管開存症を呈しました。これは、出生後早期のCOX-2活性が生理的な血管リモデリングに必要である可能性を示唆するものです。
本研究成果は、COX阻害薬投与のタイミングを再検討する必要性を示す科学的基盤となる重要な知見です。
本研究成果は、2026年2月23日、国際学術誌「American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology」に掲載されました。
【本研究のポイント】
シングルセルRNAシークエンス解析により、出生後の動脈管では血管平滑筋細胞が特異的かつダイナミックな遺伝子発現変動を示すことを発見
酸化ストレスおよび血小板由来トロンボキサンA₂がCOX-2発現を誘導
COX-2由来プロスタグランジンE₂がEP4受容体を介してNr4a1を誘導し、血管平滑筋細胞の増殖を促進
出生後早期にCOX-2活性を阻害すると、半数以上のマウスで解剖学的閉鎖が障害
COX阻害薬の投与時期が動脈管閉鎖の成否に影響する可能性を示唆
【研究の背景】
動脈管閉鎖は、出生直後の血管収縮による「機能的閉鎖」と平滑筋細胞増殖や内膜肥厚を伴う「解剖学的閉鎖」という二段階を経て完結します。
COX阻害薬は主に血管収縮作用を利用して治療に用いられてきましたが、出生後の解剖学的閉鎖に対する影響は十分に解明されていませんでした。
米国(AAP:American Academy of Pediatrics)や英国(NICE:National Institute for Health and Care Excellence)では無症候性動脈管開存症に対する予防的投与に慎重な姿勢を示す一方、日本では出生後48時間以内の予防的投与が行われることもあり、治療方針には地域差があります。「いつ投与するのが最適か」は依然として重要な臨床課題です。
【本研究で得られた結果・知見】
シングルセルRNAシークエンス解析により、出生後の動脈管平滑筋細胞は胎児期とは明確に異なる転写プロファイルを示すことが明らかとなりました。bulk RNAシークエンス解析では、出生後に顕著に誘導される遺伝子群を同定しました。
COX-2の発現は、過酸化水素による酸化ストレスや血小板由来トロンボキサンA₂刺激によって増強され、COX-2はプロスタグランジンE₂を産生し、EP4受容体を介してNr4a1を誘導しました。さらに、選択的COX-2阻害薬SC-236を母体投与したマウスでは出生後の動脈管閉鎖が阻害されました。Nr4a1を抑制すると平滑筋細胞増殖は有意に低下したことから、これらの結果は、COX-2―プロスタグランジンE₂―EP4―Nr4a1経路が出生後の動脈管閉鎖に重要な役割を果たす可能性を示唆しています。
【今後の研究展開および波及効果】
本研究は、COX阻害薬を「血管収縮薬」としてのみ捉える従来の理解を拡張するものです。出生後早期の動脈管の解剖学的閉鎖におけるCOX-2の役割を踏まえることで、動脈管開存症の治療における投与タイミングの最適化につながる可能性があります。
【論文情報】
タイトル:Postnatal upregulation of cyclooxygenase-2 (COX-2) drives anatomical closure of the ductus arteriosus
著 者:Takashi Noguchi, Yuko Hidaka, Sayuki Oka, Takahiro Kemmotsu, Yuna Takeuchi, Toshihiro Nakayama, Kenji Yoshida, Takashi Nakamura, Keiko Uchida, Etsuko Miyagi, Utako Yokoyama*(*:責任著者)
掲載誌名:American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology
DOI:https://doi.org/10.1152/ajpheart.00647.2025
【主な競争的研究資金】
JSPS KAKENHI (UY, JP24K02427, JP23K18320; TK, JP21K15884).
【細胞生理学分野ホームページ】
https://tokyo-med-physiology.jimdofree.com
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/