■研究のポイント
処分場の受入れを促進する手段として経済的インセンティブが広く用いられてきたが、その効果は状況によって大きく異なる。
「実際に処分場が建設される可能性が高い」と住民が感じるほど、経済的インセンティブの効果は弱まる。
処分場の受入れに対してもともと反対意識が強い層には、経済的インセンティブの効果は限定的である。
■背景
「核のゴミ」とも呼ばれる高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場の立地は、住民の受入れを得ることが極めて困難な政策課題であり、世界各国で社会的合意形成の難しさが指摘されています。多くの国では、自治体への交付金などの経済的インセンティブを、住民の受容性を高める手段として活用してきました。しかし、「お金による誘導」の効果については議論が続いており、その効果を促進したり阻害したりする条件は、これまで十分に解明されていませんでした。
■研究内容・成果
本研究は、日本を対象とした独自の調査データを用い、以下の二つの要因が経済的インセンティブの効果を左右するかを検証しました。
①処分場が建設される可能性に関する住民の認識
②住民が処分場に対してもともと持っている受容度
分析の結果、住民が「本当に建設されそうだ」と感じるほど、経済的インセンティブの受容促進効果は弱まることが明らかになりました。また、もともと反対意識が強い人々に対しては、経済的インセンティブはほとんど効果を持たないことも確認されました。
これらの結果は、処分場立地政策において金銭的補償などの経済的インセンティブに過度に依存するアプローチには限界があることを示しています。事業が具体化するほど「お金で受入れを促すこと」への抵抗感が強まりうる一方、もともと強い反対意識を持つ人々の態度を経済的インセンティブによって変化させることは極めて困難です。
図:初期受容度による経済的インセンティブの効果の違い
【図の解説】
図:初期受容度による経済的インセンティブの効果の違い
横軸は処分場受入れに対する初期の態度、縦軸は経済的インセンティブが受入態度をどの程度高めるかを示す。初期受容度が低い(反対意識が強い)ほど、経済的インセンティブの効果は小さいことが分かる。
【論文情報】
■雑誌名: Energy Policy
■論文タイトル: When Economic Incentives Become Repugnant: Moderating Roles of Construction Probability and Initial Acceptance in High-Level Radioactive Waste Siting
■著者: Reona Hayashi, Ryutah Kato, Rin Watanabe, Hirofumi Kawaguchi, So Morikawa, and Shunsaku Komatsuzaki
■掲載日: 2025年11月29日
■DOI: 10.1016/j.enpol.2025.114956
■URL: https://doi.org/10.1016/j.enpol.2025.114956
【研究者】
林 嶺那(法政大学法学部 教授、責任著者)
加藤 隆太(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 准教授)
渡辺 凜(キヤノングローバル戦略研究所 研究員)
川口 航史(慶應義塾大学総合政策学部 准教授)
森川 想(東京大学大学院新領域創成科学研究科 講師)
小松崎 俊作(広島大学IDEC国際連携機構 特任准教授)
▼本件に関するお問い合わせ先
【研究内容に関するお問い合わせ先】
法政大学法学部 教授 林 嶺那
E-mail:reona@hosei.ac.jp
【取材に関するお問い合わせ先】
法政大学総長室広報課
TEL:03-3264-9240
E-Mail:pr@adm.hosei.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/