透過する電波の方向を動的に制御できることが特長である透過型液晶メタサーフェス※1を、従来の1/10以下となる世界最薄の液晶層で実現し、サブテラヘルツ帯(115GHz)の電波の伝搬方向や集まる位置などを任意に変化させられることを実証しました。
NTTが開発した独自の構造は幅広い周波数帯で適用することができ、かつ液晶ディスプレイの液晶層と同等の液晶厚みで製造できるため大面積化や高速な応答性に有利です。
窓ガラスなどに本技術を適用することで透過する電波を制御し、通常では電波が届きにくい場所の電波環境を改善するなど、高周波無線サービスエリア拡大の低コスト・低消費電力での実現が期待されます。
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、無線環境に設置することで電波伝搬を制御する、世界最薄の液晶層を有する透過型メタサーフェスデバイスを実現し、透過電波の方向や集光位置の可変制御を実証しました。本デバイスはNTT独自のメタサーフェス構造を採用しており、マイクロ波からサブテラヘルツ波帯までの幅広い周波数帯において、液晶ディスプレイと同等の液晶厚み(3.5µm)での製造が可能です。これにより、メタサーフェスデバイスの大面積化が容易になるとともに、将来的には薄膜化の利点である応答速度の高速化を活かし、移動する端末を追従するように電波を制御することも可能となります。本デバイスを窓ガラス等に設置することにより、6Gの無線サービスエリアを低コスト・低消費電力で形成することが期待されます。
本研究成果は、2026年3月9日に英国科学誌 Communications Engineering に掲載されました。
1.背景
6Gにおける多様なユースケースを支える超高速無線通信の実現に向け、広帯域を利用可能なFR3帯(7GHz~24GHz)やサブテラヘルツ帯(100GHz~300GHz)※2の電波利用が議論されています。一般的に、周波数が高くなるほど電波の伝搬は光に近い振る舞いとなり、回り込みが弱く、遮蔽物の影響を受けやすくなります。特に屋外-屋内間は伝搬経路が窓等に限られるため、電波の届かない不感地帯が形成されやすいという問題があります。そこで、薄型の面状デバイスであるメタサーフェスデバイスを用い、大面積の面で電波を必要な場所に誘導するRIS※3技術への期待が高まっており、例えばメタサーフェスデバイスを窓ガラスに設置することにより、屋内の電波環境を改善できることが実証されています※4。このメタサーフェスデバイスを透過する電波の方向などを可変制御できるようになれば、移動する端末を追従するように電波を制御することも可能となります。メタサーフェスデバイスを動的に制御する方法として、メタサーフェス構造と半導体材料を組み合わせる方式や、機械的な機構を取り入れる方式など、さまざまな手法が検討されています。
NTTは、基地局から電波が直接届かない場所に対して、空間に設置した大面積メタサーフェスデバイスにより移動端末を追従するように電波を可変制御する技術の確立に向け、液晶方式による新たな透過型メタサーフェスデバイスの研究開発に取り組んできました。本成果では、FR3帯やサブテラヘルツ帯の周波数の高い電波帯(以後、電波帯と呼ぶ)においても薄い液晶層を実現するNTT独自の液晶メタサーフェス構造を実現し、透過型メタサーフェスの波長に対する液晶層の厚さとしては、従来の1/10以下となる世界最薄の液晶層を達成しました(図1)。
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図1 透過型液晶メタサーフェスが制御する電波の周波数と液晶厚のトレンド.これまでは液晶厚みが最も薄いものでも0.02l※5(lは電波の波長)であったのに対して、本成果では0.002l以下と従来の1/10以下の液晶厚みを実現.
2.技術のポイント
電波帯で世界最薄の液晶層を実現したNTTのメタサーフェスデバイス(図2a)には以下の技術的特徴があります。
① 液晶厚みを周波数設計から切り離す共振器セル構造
これまでの液晶メタサーフェスは、2層の共振器で液晶層を挟む構造となっているため、液晶層を薄くした際に磁気的な共振の閉じ込め効果※6によって共振特性が劣化する課題がありました。そこで、液晶分子の配向変化による透過電波の制御を最大化するため、電気的な共振を用いることで、液晶層に局所電界が集中する新たな共振器構造を創出しました(図2b)。これにより、液晶厚みを周波数と独立して設計することができ、FR3帯からサブテラヘルツ帯までの各周波数帯で世界最薄の液晶層を実現できます。
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図2 (a)NTT独自の液晶メタサーフェス単位セル構造 (b)共振時の表面電流と断面の局所電界分布の電磁界解析結果.液晶層が金属パターン1と金属パターン2に挟まれた層構造となっている。
② 複数導電材料による配線一体型回転対称構造
制御配線を含めたメタサーフェス構造を、これまでのように1種類の導電材料で構成すると、共振器構造と高周波との結合を二次元に張り巡らされた制御配線が邪魔してしまうという課題がありました。そこで、本成果ではメタサーフェス構造を導電率の異なる2種類の導電材料で構成しました。
3.研究の成果
これらの技術的ポイントを採用した世界最薄の液晶層(3.5mm)を有する透過型液晶メタサーフェスをサブテラヘルツ帯(115GHz)で試作しました(図3)。
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図3 試作した透過型液晶メタサーフェス
試作デバイスに対してサブテラヘルツ帯(115GHz)の電波を入射し、目的とする伝搬に応じた制御信号を入力して透過波の信号強度を評価した結果、透過波の方向および集光位置の可変制御を設計通りに実現できることを確認しました(図4)。また本構造は波長の1/8以下にすることを実現しており、これにより、従来のアレーアンテナ※7では難しい複雑なビーム形状を形成することも可能です。今回はサブテラヘルツ帯で試作しましたが、本成果は液晶厚みを周波数設計から切り離した構造であり、例えばFR3帯である10GHz帯においても同様に3.5mm厚の液晶層で液晶メタサーフェスを設計・製造可能です。将来的には図4の利用イメージに示すように、可視光に対して透明に作製することが可能な本液晶メタサーフェスデバイスを、市中の景観に影響を与えずに窓ガラス等に設置し、電波を自在に制御することが期待されます。
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図4 透過波の電界強度分布測定結果、および屋外から屋内に伝搬する電波を例とした
本成果の利用イメージ
4.今後の展開
本技術は、屋外-屋内間の伝搬を可変制御することで、遮蔽物の影響を受けやすいエリア等へ電波を届けることにより、基地局等の追加設置に比べ、低コスト・低消費電力で6G無線エリアの形成が期待されます。今後はNTTグループ内外の連携を一層加速し、実環境・実システムを通した応用検討を進めるとともに、本成果のさらなる高機能化・高性能化およびユースケース拡大をめざします。
5.掲載論文誌情報
掲載誌:Communications Engineering
論文タイトル:Transmissive metasurface with 3.5-mm-thick liquid crystals for subterahertz-wave dynamic beamforming
著者:Daisuke Kitayama, Hibiki Kagami, Adam Pander, Yuto Hama, Hiroyuki Takahashi
DOI:https://doi.org/10.1038/s44172-026-00635-2
URL:https://www.nature.com/articles/s44172-026-00635-2
【用語解説】
※1. 透過型液晶メタサーフェス:
メタサーフェスとは、波長に対して小さい構造を平面上に周期的に多数配置し、所望の電磁応答を得るように設計された人工構造です。透過型液晶メタサーフェスは、液晶への電圧印加により透過する電波の方向を電子的に変更できる特長を持ちます。
※2. FR3帯(7GHz~24GHz)、サブテラヘルツ帯(100GHz~300GHz):
次世代移動通信システム(6G)での利用が期待されている高い周波数の電波帯域。
※3. RIS(Reconfigurable Intelligent Surface):
電波の反射や透過の特性を電気的に制御できるメタサーフェスの総称です。電波の進む方向を環境に応じて変えることで、通信エリアの拡張や品質向上を実現する技術です。
※4. 2021年1月26日「メタサーフェス技術により窓ガラスの電波レンズ化に世界で初めて成功-屋外から屋内へ効率的にミリ波を誘導-」
https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2021/01/26_00.html
※5. Xu, S. -T., et. al., Terahertz resonance switch induced by the polarization conversion of liquid crystal in compound metasurface. Opt. Lett. 44, 2450 (2019).
※6. 磁気的な共振の閉じ込め効果:
従来の液晶メタサーフェス構造では、磁気的共振による磁気双極子が液晶層に形成され、液晶を薄くした際に磁気双極子の液晶層への閉じ込めが強くなり、メタサーフェスを構成する材料の導体/誘電損失の影響を受けやすくなります。本成果では磁気的共振を用いていないため、液晶を薄くしても材料の損失の影響を受けにくくなっています。
※7. アレーアンテナ:
複数のアンテナ素子を並べて配置し、電波の送受信方向を制御できるアンテナ。