東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川豊)大学院 バイオ・情報メディア研究科のノピアハナ(博士課程学生)、木村 将大助教、栗本 大輔(博士課程修了生)、佐藤 淳教授らの研究グループは、ヒトラクトフェリン(以下、hLF、注1)とヒト血清アルブミン(以下、HSA)との融合タンパク質(hLF-HSA)が、ゴルジ体(注2)に発現するNa+/H+交換輸送体7(NHE7)(注3)の発現促進を介したそのア...


 東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川豊)大学院 バイオ・情報メディア研究科のノピアハナ(博士課程学生)、木村 将大助教、栗本 大輔(博士課程修了生)、佐藤 淳教授らの研究グループは、ヒトラクトフェリン(以下、hLF、注1)とヒト血清アルブミン(以下、HSA)との融合タンパク質(hLF-HSA)が、ゴルジ体(注2)に発現するNa+/H+交換輸送体7(NHE7)(注3)の発現促進を介したそのアルカリ化と、細胞内取り込みシグナルであるカベオリン依存性エンドサイトーシスシグナルをもたらすことで、がん細胞の転移に密接に関係する遊走(細胞移動)を強力に阻害することを発見しました。この知見は、新たな創薬戦略の開発につながるものと期待されます。
本研究成果は、欧州生化学会連合(FEBS)の国際科学雑誌「FEBS Open Bio」に2026年3月24日付けで掲載されました。
 hLFを用いたバイオ医薬品の開発は、バイオベンチャー企業である株式会社S&Kバイオファーマ(注4)において進められています。

【研究背景】
 がんの転移は、患者の予後を左右する重大な臨床課題で、がん細胞の遊走(細胞移動)は、転移での重要なステップとなります。マトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP1)は細胞外マトリックスを分解する酵素であり、がん細胞の遊走に重要な役割を果たします。同グループの先行研究では、hLF-HSA処理が、ヒト肺腺がん細胞株PC-14でのMMP1発現を低下させ、その結果、遊走を抑制することが報告されています(文献1)。本研究では、hLF-HSA処理によるMMP1発現低下は、細胞内小器官(ゴルジ体)で発現するNHE7の発現促進を介したゴルジ体のpH恒常性破綻(機能阻害)と、hLF-HSAの細胞内取り込みの際に活性化されるカベオリン依存性エンドサイトーシスシグナルによることが明らかとなりました。

【社会的・学術的なポイント】
 ゴルジ体は細胞遊走に極めて重要な働きをすることから、ゴルジ体のpH恒常性破綻によるその機能不全は、がん細胞の遊走阻害に有効であると期待されます。本研究では、hLF-HSAは、ゴルジ体で発現するNHE7の発現促進を介してゴルジ体のpH恒常性を破綻させ、その機能阻害を引き起こしました。その機能阻害は、がん細胞の遊走に重要な役割をするMMP1の発現を低下させ、遊走を阻害しました。さらに、hLF-HSAの細胞内取り込みの際に活性化されるカベオリン依存性エンドサイトーシスシグナルは、上記NHE7への影響とは独立にMMP1の発現低下をもたらすことが明らかとなりました。この2つのメカニズムにより、hLF-HSAはがん細胞の遊走を強力に阻害します。
 正常細胞でのゴルジ体の機能を考えた場合、hLF-HSAは正常細胞へ副作用をもたらす可能性が考えられます。
しかし、hLF-HSAはがん細胞の増殖阻害を選択的に引き起こすのに対し、正常細胞の増殖には影響しないことが明らかとなっております(文献2)。したがって、本研究のhLF-HSAは、ゴルジ体の機能阻害を主作用とするがん細胞遊走阻害薬の開発コンセプトの有効性を示す研究例として注目されます。


【論文情報】
論文名:Suppression of lung adenocarcinoma migration through organelle alkalization by human lactoferrin – albumin fusion
著者:Hana Nopia, Masahiro Kimura, Daisuke Kurimoto & Atsushi Sato
掲載誌:FEBS Open Bio
発表日:2026年3月24日
https://doi.org/10.1002/2211-5463.70237

【用語解説】
(注1)hLF:自然免疫で機能する抗腫瘍、抗炎症、抗酸化、神経再生作用など多くの生理活性を有するタンパク質
(注2)ゴルジ体:小胞体から送られてきたタンパク質や脂質を修飾し、仕分けして、細胞内外の目的地へ輸送する細胞小器官。細胞の遊走制御に関わる。
(注3)NHE7:肺腺がん細胞では、細胞内小器官(ゴルジ体)からH+を放出することで、細胞内小器官の弱酸性 (pH恒常性)を保っている
(注4)株式会社S&Kバイオファーマ (本社:神奈川県川崎市、代表:加賀谷伸治):ヒトラクトフェリンを用いた脊髄損傷、敗血症、急速進行性糸球体腎炎、がんなどの治療薬を開発https://skagayasandk.wixsite.com/website

【参考文献】
(文献1) Hana Nopia ら Albumin fusion with human lactoferrin shows enhanced inhibition of cancer cell migration, Biometals (2023)
(文献2) Uedaら Albumin fusion at the N-terminus or C-terminus of human lactoferrin leads to improved pharmacokinetics and anti-proliferative effects on cancer cell lines. Eur J Pharm Sci. (2020)

■東京工科大学 大学院 バイオ・情報メディア研究科 佐藤 淳・木村将大(⽣物創薬)研究室
遺伝子組換え、生化学、細胞培養技術を基盤とした生物創薬に関する研究を行っている。特に自然免疫で機能するタンパク質であるラクトフェリンの機能解析、バイオ医薬品としての開発、ラクトフェリンの活性を模倣するペプチドの創製を推進している。
【主な研究テーマ】
1. 自然免疫で機能するラクトフェリンの機能解析(特に抗腫瘍作用、神経再生作用)
2. 体内安定性を高めた新規ラクトフェリン製剤の開発とバイオ医薬品としての応用
3. 疾患に関連する糖鎖を標的とするバイオ医薬品の開発
4. ラクトフェリン模倣ペプチドの創製
[研究室ウェブサイトURL]https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=5

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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