<論文概要>
マウスのかたちの認識はヒトとは異なる - 補助線による図形の認識のしやすさの比較 -
渡邉さんは、人間心理学科の後藤和宏准教授とともに、マウスのかたちの認識に関する研究に取り組み、マウスとヒトではかたちの認識が異なることを発見しました。
本成果は、2021 年10月8日にアメリカ心理学会の国際学術誌「Journal of Experimental Psychology: Animal Learning and Cognition」(実験心理学雑誌:動物学習認知領域)に掲載されました。
<研究内容について>
1.背景
私たちヒトは、複数のものを法則に基づいて一つの意味のある「まとまり」として認識します。このまとまりをゲシュタルトといいます。ゲシュタルトについて、色や形などの特徴が似ているもの同士、閉じたもの同士がまとまるという法則が知られています。この法則を利用すると、たとえば斜線だけが提示されるよりも、補助線を加えることで開いた図形や閉じた図形ができることで斜線の向きが簡単に区別できるようになります(図1)。しかし、補助線は引きかたが肝心で、引きかたがよくないと斜線の向きの区別が難しくなります。
ヒトにとってよい補助線とは、他の動物にとってもよい補助線なのでしょうか。これまでの研究で、チンパンジーはヒト同様、よい補助線により斜線の向きの区別が簡単になることが明らかになっています。これに対して、ハトやカラスのような鳥類では、補助線の良し悪しにかかわらず図形の認識が難しくなると報告されています。これらの結果は、霊長類とは異なり、鳥類がゲシュタルトを認識しないことを示唆しています。霊長類と鳥類では、脳構造や脳内の視覚情報経路、目の配置など、かたちの認識に影響すると思われる要因が複数考えられるため、ゲシュタルトの認識が異なる進化的要因を明らかにするためには、様々な分類群の動物を比較する必要があります。今回は、霊長類と同じ哺乳類のマウスでかたちの認識について調べました。
2.研究手法・成果
実験は、オペラント箱という装置を用いて行いました(図2)。
3.今後の波及効果
本研究によって、霊長類と脳の基本構造が同じ哺乳類であっても、動物によって図形の認識の仕方が異なることが示されました。哺乳類では、視覚情報は、外側膝状体を経て後頭葉の視覚皮質へと伝えられますが、ヒトではゲシュタルトの認識はより高次の視覚処理段階で生じるものだと考えられています。本研究では、マウスでは高次の視覚処理がヒトとは異なる可能性が示しましたが、動物の分類群により、脳内の視覚情報経路、顔のどこに目が配置されているかなど、かたちの認識と関連する要因は複数考えられます。補助線の引き方によってかたちの認識が簡単になったり、難しくなったりする現象は、動物がヒトと同じ「まとまり」を認識するかを調べる有効なパラダイムです。今後、「まとまり」を認識する能力が進化した要因を検討するとともに、実験動物として広く使われているマウスにおける視覚処理のしくみを明らかにする取り組みを進める予定です。
■実験の動画
https://www.youtube.com/watch?v=Z7b6MFRvCEA
■書誌情報
[DOI] https://doi.org/10.1037/xan0000291
Goto, K., & Watanabe, H. (2021). Mice (Mus musculus) do not perceive emergent Gestalt. Journal of Experimental Psychology: Animal Learning and Cognition, 47(3), 274-280.
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
相模女子大学 人間社会学部人間心理学科
准教授 後藤 和宏
TEL:075-742-1775
E-mail:goto_kazuhiro@isc.sagami-wu.ac.jp
<報道に関すること>
学校法人相模女子大学 学園事務部総務課
TEL:042-749-2304
E-mail:y-kuroi@star.sagami-wu.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先
学園事務部総務課
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住所:神奈川県相模原市南区文京2-1-1
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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/