旧甲子園ホテルは戦前、阪神間モダニズムを代表するホテルとして多くのセレブリティをもてなしましたが、戦争のためホテルとしての稼働期間はわずか14年でした。1965年に武庫川学院が国から払い下げを受けて教育施設「甲子園会館」となり、学舎として活用しています。国の登録有形文化財に登録されています。
建築物の設計、施工には、平面図や立面図、断面図等に加え、寸法や素材を詳しく示した詳細図等が欠かせません。甲子園会館は建設前の基本設計図や施工図の一部が断片的に残るものの、変更や改修により現状と合致しない部分も多く、竣工当時の正確な姿を知る手がかりがほとんどありませんでした。竣工から90年を超え、2022年から屋根の葺き替えを含む大規模改修を実施中。日頃は見ることができない棟飾り等も屋根から降ろして解体することから、「この機会に建物の詳細を資料に残そう」と、大学院建築学研究科修士課程の授業(実務経験にカウントされる「建築設計実務」及び「建築保存修復インターンシップ」)で、約30人が取り組みました。
調査は現在の甲子園会館を基準にしました。展示するのは、地階から4階までの平面図、東西南北それぞれの立面図、南北の断面図、窓や天井の寸法、カーペット、ボーダータイル、日華石など材料を示した矩計図。
調査により様々なことがわかってきました。帝国ホテルは「インチ・フィート」を尺度に設計されていますが、甲子園会館をこの尺度で計測するとサイズが合わず、メートル法でも合致しないことから、日本式の「尺貫法」で設計、施工されていたことが明らかになりました。また、装飾には1930年当時、世界的に流行し始めていたアール・デコの影響が色濃くみられます。展示では、アメリカのミッドウェイガーデンや、ライトが日本で手掛けた山邑邸などと比較しつつ、旧甲子園ホテルを日本における数少ないアール・デコ様式の傑作のひとつとして位置づけ、新たな価値を提示します。
圧巻の装飾原寸図は西ホールの天井飾りや窓ガラス、シャンデリア、打出の小づちや水玉を表現した外壁のレリーフなど13種。いずれもパネルの高さが2~5mあり、最も大きいものは5・1m×3・4mの大作です。屋上のレリーフの装飾原寸図を手掛けた修士2年、馬場裕実子さんは「実際に紙を当ててトレースしたり、メジャーで測ったりすることでスケール感をつかむことができ、細かな意匠に気づくことができました。
動画を作成した修士2年、日下雛子さんは「写真や一部残っている平面図、教室として使っている現在の姿から推測しながら忠実に再現しました。当時の客室では、窓からの建物の見え方にも工夫があり、名建築ホテルとしての魅力になっていたのでは、と感じました」と話しています。
・タイトル 「甲子園会館に学ぶ/で学ぶ」
副題 「わたしたちが引き継ぐ F.L.ライトの愛弟子 遠藤新による歴史的名建築」
会期 9月15日(木)~9月27日(火)
時間 10時~18時(最終日のみ15時まで)
場所 兵庫県立美術館 ギャラリー棟3階ギャラリー
休館日 20日(火)、26日(月)
入場 無料
▼本件に関する問い合わせ先
武庫川女子大学広報室
住所:兵庫県西宮市池開町6-46
TEL:0798453533
メール:kohos@mukogawa-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/