■車両型式を「RZ34」とした本当の理由

新型フェアレディZのジャーナリスト向け試乗会が実施された。さまざまなメディアを通して、その模様をすでにご覧になった方も多いと思う。
筆者も試乗したが、スポーツカーとして素晴らしい出来だった。試乗中、こみ上げるものがあって涙が出そうになったぐらい。

でも、引っ掛かりもある。はたして「新型」と呼んでいいのか。実際、車両型式は先代の「Z34」から「RZ34」に改められてはいる。でも、「Z35」ではないのだ。

【画像】何色が好き?新型Zのボディカラー

この、「RZ34」という型式について、GT-RとZのブランドアンバサダーを務める田村宏志氏に直撃した。日産スポーツカーのことなら「この人に聞け」という人物である。

「その話は、川口から…」とは田村氏。「川口」とは、田村氏の後を継ぐ、つまりこれからの日産スポーツカーの開発を牽引していく川口隆志氏のことである。

「型式を変えなければ、車外騒音規制などをクリアしなくてもいい、だから今回のZは『Z34』を継承するんだ、なんて話も見聞きしましたが」と川口氏に向けると、

「型式を変える変えない、にはあまり重きをおいていませんでした、正直なところ。型式を変えたらさまざまな規制を新たにクリアしなければならない、とか言われますが、国によっては型式を変えなくても規制をクリアしなければならないところもある。
また、今年9月から日本でも始まる車外騒音規制にも当然、適合していますので、『車外騒音規制をクリアしたくなかったからZ34を引き継いだ』ということはありません」。

※スカイラインのハイブリッドモデル、フーガ、シーマなどは9月から始まる車外騒音規制に適合させず生産終了を迎える

川口氏は続けて、「Z34を継承する流れを最初に作ったのは、じつは社内的な要因が大きいです。なんとしても新しいZを世の中に出したい、なんとしてもこのクルマを開発したい。そのために、このクルマの企画をマイナーチェンジイベントとしてスタートさせました。企画が通らなくなることだけは避けたかった、という経緯があります。ですので、法規から逃げようとしたわけではありません」

「ただ、そのまま『Z34』にしてしまうと、モデルネームが一緒になってしまうので、今回は『RZ34』という型式を付けたのです」(以上、川口氏)

ちなみに「RZ34」の「R」は、リファインを意味する。

ここで田村氏。「タイム(速さ)は大事だと思うけど、あまりタイムにこだわらないのと一緒の思想です。型式を変えたからといって、儲かるわけじゃないしという発想。お客さまのなかには、(Z35のほうが)喜ぶ人もいるかもしれませんが。型式よりも、やっぱりカッコよくないと買ってもらえないと思うんです。型式を変えたからカッコよくなるわけでもない」

■「叱る神あれば、拾う神あり」

そう、今回のZのコンセプトは明快だ。
ハヤくて、カッコよくて、イイ音!である。405馬力/475Nmを発揮する3L・V6ツインターボエンジンをフロントに積み、アクティブサウンドコントロールなど最新の技術も用いながらイイ音と車外騒音規制を両立。そして、フェアレディZファンが熱望する「初代S30」を彷彿させるプロポーション。

「スポーツカーって、いろいろ新規のお客さまを捕まえに行きがちですが、今回のZはそれだけじゃないんです。これまでZを愛してくれた、Zファンたちに喜んでもらえるZを作りたかったんです。ファンの人たちに、『どんなZがいい?』と聞くと、みんな『S30』って言うんですよね(笑)」(田村氏)

日産は、電動化を推進する自動車メーカーだ。フェアレディZは一見、その対極に位置する古典的スポーツカーにも見える。経営判断からすれば、「新しいZを作ります。膨大にお金がかかります」と言われてすぐに「イエス!」と判断が下るわけがない。

だが、田村氏はじめ、フェアレディZ開発チームは会社を何度も説得し、壁を取り除きながら開発を推し進めた。しかし最終判断は、もちろん会社のトップに委ねられる。

最後の最後の判断で、日の目を見ないクルマなんて世の中に星の数ほどある。
今回のZも、その憂き目にあうであろう要素がてんこ盛りのクルマだったはずだ。

それでもこうやって世の中に産み落とされたのは、やはり日産のトップ、内田 誠CEOの存在が大きい。内田CEOは、じつはZ好き。自身、初めて自分で購入したクルマがZ32だったのは知る人ぞ知る逸話。新しいZを作る、という声にフタをするような経営者ではなかったのだ。

そんな人物であることを知っていたからこそ、「Z34を継承する」というスタートラインから新しいZの開発を始めた。最終的に“ハンコを押してくれる”という自信があったからだろう。

「日産にZは必要なんです。それがDNAだから」と開発陣は語る。DNAと言われたら社内でも反対の声は出ないだろうと思いきや、そう簡単なものではない。

「開発費が膨らむにつれて、役員室で何度も叱られましたよ。それは当然ですよね、経営者としたら。
最初と話がまったく違うんですから」(田村氏)

作り話に聞こえるかもしれない。今となっては美談かもしれない。だが、結局はどんなクルマも人が判断する。「出したい」と思う人、「それ欲しいよ」という人、「ぜひ出そうよ」と判断する人、その三者がシンプルに手をつないだことで、Zの歴史は紡がれたのだ。

〈文=ドライバーWeb編集部〉
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