2024年11月16、17日にメキシコにて行われた、世界最大級のオフロードレース「SCORE World Desert Championship 57th SCORE BAJA 1000(以下BAJA 1000)」の量産市販車クラス「Stock Full」にて、ついに優勝の栄冠を手中にした「TEAM JAOS(以下チームジャオス)」。その優勝報告会が、2月18日、群馬県太田市の「レクサス太田」にて行われた。
BAJA 1000には、2022年度から3年連続で出場していきた同チームだが、初戦ではスタート直後にマシントラブルに見舞われ懸命な修復作業を施すもリタイヤという結果に。その戦いで得た経験を生かし、マシンの各部をブラッシュアップして挑んだ2023年度は、コースの全行程を走破しゴールするも制限時間を約40分オーバー。完走という結果を得ることができなかった。そうした悔しさを得た中での今回の勝利は、日本の自動車ファンにもうれしいニュースとなったのは言うまでもない。
なお、今回の報告会ではチーム監督を務めるジャオス代表の赤星氏を筆頭に、ドライバーの能戸選手と同社エンジニアの宮崎氏。さらにマシンのメンテナンスやピット作業を担当した群馬トヨタグループのエンジニア陣も登場。ちなみにこのメンバーは同グループの各店舗から抜粋された精鋭たち。つまりチームジャオスはまさにプロフェッショナル集団で構成されているのである。
なお今回は各メンバーによるトークセクションも行われ、壮大な挑戦の背景や戦い抜くなかで生まれたストーリーを伝えてくれた。
世界一過酷と言われるBAJA 1000とは
2024年度で57回目を迎え、世界中でも指折りの長い歴史を持つオフロードレースとして多くの自動車ファンにも知られるBAJA 1000。コースはメキシコのバハ・カリフォルニア半島の砂漠や山岳地帯の未舗装路が中心となり、ドライバーにも強い忍耐力と高い集中力、それと同時にマシン側にもタフネスかつ高い走破力、そして高速度域を実現するポテンシャルが要求される。
毎年エントリー台数は300台近くを数えるというが、その約半数はリタイヤに見舞われるという世界で最も過酷とも言われているこのレース。
マシンに愛称を与え、我が子同様に育ててゆく
2024年度のレースにて優勝を果たしたマシンは、レクサスLX600がベース。エントリーネームこそ「LEXUS LX600 "OFFROAD" TEAM JAOS 2024 ver.」だが、チームジャオスでは車名の“LX600”の頭文字に沿い“レイラ”と名付け、戦友として3年間を共にしてきた。マシンは基本的にドライバーの能戸選手の意見をフィードバックしながらモディファイを遂行。BAJA 1000へのチャレンジ1年目で目の当たりにしたマシントラブルの解決を筆頭に、微細なサスセットや各部のセット変更はもちろん、巨大な37インチタイヤでは、まず素人の我々では感じられないタイヤ空気圧のコンマ単位でのセット変更など走りに直結するすべてのセッティングを徹底的にテストしながらマシンを育て上げてきた。そうした中で得た膨大なノウハウは、状況に応じたジャストセッティングを見出し、今回のクラス優勝に大きなアドバンテージをもたらしたといえる。
なお報告会では、2025年度のレース活動に向けた「新3ヵ年計画」としてこれまでのレイラの後任としてハイブリッドモデルのレクサスGX550hをベースとしたマシンを投入することが発表された。ハイブリッド車をベースにしたレースカーでの参戦は、BAJA 1000史上初という点もトピックといえる。
しかし課題もある。スロットルの全開率が高くメカニカルセクションが超高温域に達するであろう懸念や、大きな凹凸の走破や派手なジャンプを繰り返すことによる衝撃など、一般道での走行では考えられない負荷や負担がマシンを襲うのがオフロードレースである。これまでの内燃機関のみのパワーユニットでは想像できなかったトラブルも発生するかもしれない。
新たな戦友には、GX550hの頭文字を取り“ジーナ”の愛称が与えられ、着々とセットアップが進んでいるという。すでにチームジャオスの2025年度、BAJA 1000レースはスタートしているのだ!

優勝を掴んだものだけが手中にできるメダル。3年間の努力が実った証である。


改造範囲の少ない量産車ベースの「Stock Full」クラスに2022年から参戦してきた「LEXUS LX600 "OFFROAD" TEAM JAOS 2024 ver.」。低μ路でもドライバーに確実なインフォメーションを伝える足まわりは、ジャオスBATTLEZシリーズのスプリング、KYB製をベースにジャオスの味付けを施したダンパーを備えた(共に競技用)。レースで得たノウハウは市販パーツ開発へと確実にフィードバックされる。


2025年度のBAJA 1000を戦うレクサスGX550hベースのNEWマシン。これまでのLX600ベース車では前後重量配分が60対40だったが、ハイブリッド用バッテリーの搭載位置などが功を奏し、理想的な運動性能を発揮する50対50を実現! ドライバーの能戸選手もテスト走行にてそのポテンシャルに確かな手応えを感じたという。

報告会にはジャオスの会長、赤星嘉昭氏も登場。ドライバーの能戸選手を少年時代から知る氏だけに、今回の優勝に喜びもひとしお!
海を越え過酷なレースに挑んだサムライたち
■株式会社ジャオス

監督:赤星大二郎氏
[株式会社ジャオス 代表]
2015年にジャオスの創立30周年を迎えさらに活動の場を広げるべくスタートしたモータースポーツチームが“チームジャオス”。その監督を務めるのが赤星氏だ。

ドライバー:能戸知徳氏
[株式会社ジャオス 開発部]
レースでは複数のドライバーで交代しながら走るのがセオリーとされているが、能戸選手は約29時間を1人で走破。「自分にもマシンにも7割程度の力で走るイメージを心掛けたのが勝因だと思う」という。そのタフさから地元のエントラントからは“アイアンマン(鉄人)”とも呼ばれている。

エンジニア:宮崎 毅氏
[株式会社ジャオス 管理部]
ジャオスがアジアクロスカントリーラリーに参戦した時のマシン制作から、チームに携わってきた宮崎氏。BAJA 1000には3度目の参加となる。「自分たちが作ったマシンが広大なフィールドを走っている姿は何度見ても感激しました。1台のマシンを皆でゴールに導く。これがレースの醍醐味ですね」
■群馬トヨタグループ

アドバイザー:横田 衛氏
[群馬トヨタグループ代表]
2019年に参戦したアジアクロスカントリーラリーからジャオスとの協働関係を築いてきた横田氏。より強いチームを構築すべく優れたエンジニアを派遣するのが氏の役割だ。BAJA 1000に挑戦し3年目で得た優勝には「頑張れば、なんでも達成できるんだと感じました」と、話してくれた。

チーフエンジニア:二宮 亮氏
[群馬トヨタ自動車株式会社 特車部]
エンジニアたちのリーダーを務めるのが二宮氏。チームには2023年度のレースから参加し、車両制作を担ってきた。「マシン作りに充てられる時間が十分に確保でき、自信を持ってレースに挑めた」という。これがそのまま2024年度の優勝に結果に直結したといえる!

エンジニア:深澤 拓氏
[ネッツトヨタGTGぐんま株式会社 サービス部]
2022年の初チャレンジからエンジニアとして活躍してきた深澤氏。グループ内のエンジニアからは“先生”と慕われ、さらにレースでは海外のエントラントから“トップクルー”とも呼ばれているベテラン。限られた時間内でのピットワークは、まさに神の手の持ち主である。

エンジニア:中村龍也氏
[群馬トヨタ株式会社 レクサス高崎]
2024年度からチームに携わった中村氏。「レーシングカーのメンテナンス自体初めての経験です。ワクワク感と私で大丈夫かな?という不安で挑みましたがとても良い経験ができました。マシンが無事にゴールを通過したときには涙が出ました!」と、熱いメンバーの1人である。

エンジニア:桑原和也氏
[群馬トヨタ自動車株式会社 伊勢崎つなとり店]
「万が一のトラブルの修復など現場では即座に判断を求められることもあり、普段、店舗でお客様の車両を整備する環境とは全く違った新しい世界を感じました。この経験を今後の仕事に生かし、さらなる安心をお客様に提供したい」。

エンジニア:小畑士朗氏
[群馬トヨタ自動車株式会社 サービス部]
「レースでは短時間でミスなく確実にマシンをメンテしコースへと送り出すことが鉄則。当初は想像以上のプレッシャーでしたがレースで得たことが、これからの仕事にも生かせます。チームメンバーとして貴重な経験をさせていただきました」。

エンジニア:笹本雅斗氏
[群馬トヨタ自動車株式会社 レクサス太田]
「チームのメンバーとして選ばれたときは、とても光栄でした。レースでは限られた工具とスペアパーツ、そして地盤の悪い環境での作業が要求される。非常に過酷な状況でしたが精一杯頑張りました」という。
〈文と写真=鈴木克也〉