前歯などの治療で、かぶせ物をしたとき。健康保険が適用になるプラスチックの歯にしても、セラミックの歯にしても、あまりの違和感のなさに驚くことがある。


同じ「歯」といっても、透明感や色みなどにはずいぶん個人差があるもの。
よくぞここまで違和感なくピッタリなものを……と感心させられるが、歯科医ではいったいどのようにかぶせ物を選ぶものなのか。
渋谷区幡ヶ谷の坪田歯科医院・坪田泰幸院長に聞いた。

「歯の構造は最表層に人体の中で最も硬い組織『エナメル質』で覆われ、その中に黄色がかった象牙質があり、さらにその中に歯髄があります。歯の色は、一見真っ白に見えますが、よく見ると均一な色ではなく、グラデーションとなっており、根元にいくほど濃い色となっているんです。そのため、歯のかぶせ物をつくる歯科技工士さんも、内側の色と表層の色を何度も分け、組み合わせて作っているんですよ」
歯の色は、内側の象牙質が最表層のエナメル質に透けて見えているもの。
そのため、象牙質の色の濃さにも影響されるし、エナメル質の厚みによっても違ってくるのだという。

ちなみに、セラミックの歯の場合、ノリタケなど、陶器でおなじみのメーカーからも出ているそうだが、「1つの歯の色を選べば終了」というわけではない。
「歯の色は均一ではないので『先端はA1(各メーカーの色番号)で真ん中はA2、根元はB3』などといった具合に、いくつもの色を組み合わせ、自然に見えるように作ります。顔に合わせ、もともとの歯の色に合わせて作るのですが、より自然に見えるように作るために、デジカメで撮影する先生もいますね。また、非常に気を遣う先生の場合、診察室の照明を太陽光に近い波長の光にして、“太陽光のもとで見える歯の色”を追求する場合もあるんですよ」

さらに、より自然な歯を作るために、細かいグラデーションを作ったり、細かいオーダーをする場合もある。
「よりリアルに見えるように、たとえば、タテに0.1ミリの黒い線を入れるとか、加齢によってヒビが入っていると、ヒビも自然に入れるといったこともありますね。
また、加齢によってエナメル質がすり減って薄くなり、象牙質の厚みが増すと、黄ばみが出てきます。それも考慮して、自然に見えるように作るのですが、『どうしても真っ白いものを入れて欲しい』という患者さんもいますね。整えすぎてキレイ過ぎる歯は、浮いてしまうこともあるんですけどね……」

以前、オーダーのかつらメーカーを取材した際(コネタ既出)、「年齢に応じて、毛髪の減り具合、白髪の混ざり具合などがリアルに見せるために重要」というお話を伺ったことがあったが、「歯」の世界もそれに近いものがあるよう。

歯科技工士さんが一つ一つ丁寧に、リアルに作ってくれる「歯」。それは非常に高度で、磨き抜かれた職人技なのでした。
(田幸和歌子)