森博嗣の新作『ヴォイド・シェイパ』がついに刊行された。ひところは〈月刊・森博嗣〉といっても差し支えないような量産体制をこなしていた森だが、最近は無理をしない執筆形式に切り替えたようで、何ヶ月も新刊が出ないことが当たり前になっている。淋しい思いをしていたファンは、この新刊に飛びついたはずだ。
版元は『スカイ・クロラ』シリーズと同じ中央公論新社。同シリーズの単行本は、一色の表紙に透明ビニールのカバーがかけられた秀逸なデザインで統一されていたが、『ヴォイド・シェイパ』の装丁も、同じ鈴木成一デザイン室。今回の表紙は一見水墨画のようだが、実は写真に加工を施したものだ(ビニールカバーの効果で、山々に霧がかかっているかのように見える)。『スカイ・クロラ』の先端的なイメージから、180°の展開を果たしたという印象だ。今までになかった森小説。実はこの作品、剣術修業の旅を続ける、若い侍が主人公、という設定なのだ。え、森博嗣の主人公がサムライ!?

主人公ゼンは、年齢不詳、名字も不明という人物だ。なぜかといえば、幼いころに山の中に住む剣法家・カシュウに預けられ、彼と2人きりで生活をしてきたからである。そのカシュウが亡くなり、遺言に従ってゼンは山を下りる。生前のカシュウに縁があったサナダを訪ね、葬儀のことなど後を託してゼンは旅に出る。目的はない。ただ、できることをして生きていこうと考えるだけだ。カシュウの下で剣一筋に生きてきたゼンに、他の選択肢はない。剣の腕を磨き、生きる。旅をする。それだけである。