少し物騒な質問をします。想像力を働かせてみてください。

人間を大量に殺戮することができるのはどんな生き物でしょうか。
突進する四足歩行型、どこでも登れるクモ型、侵入と防御が得意なヘビ型などなど……。
結論の一つとして上がるのが、人間型だと思います。
二足で走ることができる。手で道具を使うことができる。そして、知能がなにより発達している。
あえて欠点をあげるなら、人間型は体の一部で破損すると、戦えなくなることです。
ならば、体がいくら壊れても死なないようにすれば、無敵の殺戮マシーンが誕生するのではないでしょうか。
 
この発想を生かした仮想戦記が、最終巻がでて完結した『妄想戦記 ロボット残党兵』という作品です。
1943年、日本は敗戦の色濃厚で背水の陣状態。ところが機械化された人間、通称「日の丸人」がゲリラ的に投入されたことによって戦局は一転、ひっくり返ってしまいます。
形は人間なんですよ。
極めて原始的なデザインの。鉄人28号の人間サイズ、というと分かりやすいかもしれません。
でもこれがもうめちゃくちゃ強いんだ! 
鋼鉄でできていますから、当然銃弾なんて痛くも痒くもありません。二足歩行なので、戦車では行けない場所へもひょいひょい行けます。銃器を自由に扱い、相手の装甲をひっぺがし、振り回す腕の一撃で人間の一人や二人簡単に殺せます。

こんなの見たら他の国だって「我も我も」と当然のごとく他国も機械化人を投入し始めないわけがありません。次第に機械化人の形状は殺戮に特化し、兵器そのものと化していきます。
体中に刃物をつけ、重火器を背負い、殺人ガスを背負って。
少しでも強くあれ、少しでも殺せ、と侵略をはじめる各国の機械化人達。つったってあらゆる国の兵士が次から次へ機械化していったらだんだん決着つかなくなってきます。だっていくら刻んだって死なないんだもの。
弊害も出てきます。
大きいほうが当然ちいさいより強い。けれど大きくなると恐竜のように神経伝達が遅くなるので、動きがとろくなってしまいます。これでは機械化した意味が無い。

当時の人間が唯一つくることが出来なかった物、それは「脳」でした。ここが一つの限界なんです。
機械化人の唯一残された人間的なパーツは脳のみ。病気で死にかけた人や、戦闘で体を失った兵士は脳だけ取り出されて機械化人として戦場に送り込まれます。
インフレ化する人間の機械化。昭和な街並みに散らばるのは、肉片と血と機械油ばかりです。
真っ黒にゴリゴリ描かれた漫画をじっくり見てください。匂ってくるよ。
非人道的兵器此処ニ極マレリ。


物語は、日の丸人戦場投入の一年前に自らを機械化した研究員、三船を中心に描かれます。限界まで突き詰められた機械兵器の中で、さらに強くなるにはどうすればいいのかを彼は編み出してしまうんです。
三船はそもそも人殺しをしたくて研究していたわけじゃないです。大切な家族を守りたいから、だったのです。しかしエスカレートし続ける戦争は狂気の連鎖を産み、1944年にはすっかり機械化人量産体制になるのですよ。
さらっと書きましたが、これどういうことか考えてみてください。人間の脳だけを載せた機械が大量生産されるという異常な状態です。
確かに機械化人は強い。強いけれどもロボットであることにはかわりないじゃないか。そこに人格はあるのか? 壊れたらスクラップじゃないか。
三船は苦悩しながらも、たたひたすらに戦い続けます。
俺の守ろうとしているものは何なのか?
 
ロボット物語といっても、スタイリッシュでかっこいいアニメ調のものとは全然違います。
もっと無骨で、愛嬌とかを捨て去った「人型機械」です。
兵器として開発された彼らがなぜ「残党兵」とタイトルで呼ばれているのか? それは読めばわかります。

まずは、どこまで人間の想像力がエスカレートするのかを純粋に楽しんでみてください。人間を捨てて、限界を突破し、「最強」を突き詰めた結果を、この作品で見ることができます。
戦争がなんだとか、人道的にはどうだとかは後回しで構いません。
三船の生き様を見れば、十二分に伝わってくるから、それでいい。
(たまごまご)
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