「極道の生きスジ入り夜会巻き 刃傷辞さずの白牡丹着物」
「目出度や水引エクステポニー 俎板帯(まないたおび)に心を秘めた斑馬(ゼブラ)着物」
「ゆるやかS字クランクのサイド巻き ラフな姉御のセシル教習1発合格着物」


暗号? いえいえ、着物のキャッチコピーです!
男性誌にメンズナックルあれば、女性誌には小悪魔agehaがある。小悪魔agehaの着物ムック、「着物ageha」が発売されました。

そろそろ成人式や卒業式の準備の季節。書店には着物のムック本が並んでいます。その中で一冊だけ異彩を放っているのが「着物ageha」。
着物ムックのイメージといえば、黒髪のモデルさんが落ち着いた色合いの着物で微笑んでる…みたいなものがまず浮かんできます。でも「着物ageha」は違う。表紙のモデルさんは全員金髪か茶髪。着ている着物もポップなピンクや白や水色が目立ちます。なにより、ギャル雑誌特有のキラキラ系ロゴが目にまぶしい。思わず目をしぱしぱさせるくらいまぶしい。

着物のムックと聞いて思い浮かぶコンテンツって、ある程度限られてきます。
「これが着たい!2013年新作着物」とか、「レンタルと購入、どっちがオトク?」とか、「これで完璧!着物の着付けをおさらいします」とかね。
「着物ageha」にも、もちろん似たような特集があります。
でも、ちょっとずつエキセントリックな方向にズレてるんですなー。

「2013年版 絶対盛れる!! 着物ヘアランキング」
「なんてったってアイドル×ミニスカ着物」
「小悪魔的幻想仮装館」
「系統別メイク 着物の日の顔はこうして作られる講座」


「盛り」「ミニスカ」「仮装」「系統別」…一般的な着物ムックには絶対に並ばない文字列!
注目してほしいのが「系統」。そう、ageha的な着物には、さまざまなカテゴリがあるんです。「ミニスカ」「姫」「ウェディング」「花魁」「洋服MIX」エトセトラエトセトラ。コスプレだってあります(ラムちゃんにももクロに初音ミクまで!)。そういう多種多様な着物には、それに合わせた盛りやメイクが超重要になってきます。

その重要さは、紙面から伝わってきます。
なんといっても、着物よりも顔の方が面積が大きい!
冒頭に引用したコピーも、前半部分がヘアスタイルを表し、後半部分が着物の柄を意味してます。

「ハードボイルド式デコ全開ポンパ(ミニリーゼント風前髪+噴水っぽいポニーテール)今宵果たさん菊花の契り着物(黒地に桜と菊で夜っぽい)」
「欧米渡米の彩花たわわ盛り(大きい花のコサージュがむっちゃいっぱいついてる)灼熱の太陽も焦がす熱帯着物(中にビキニを着ることで熱帯感が)」


どのコピーも、ヘアスタイルの方が強調されてます。「この着物に合うカラコン&つけま」が必ずついているのも特徴的。
着物の着付けについても、いわゆる「普通」の着付けについては触れていません。その代わり、花魁着物・ミニスカ着物に関しては、ていねいな着付け説明ページがつくられてます。

この辺りは、購買層を意識してのことでしょう。母体である小悪魔agehaの主な読者層は、20代前半の女子。キャバ嬢に憧れている女の子も多いですが、もっともターゲットとされているのはやっぱり夜の仕事(キャバ嬢など)をしている女子。それだけでなく、キャバクラやキャバ用美容院も主な読者です。キャバクラの裏方には小悪魔agehaが欠かせないんだとか。
本来の読者であるキャバ嬢が、キャバクラの着物DAY(みんなが着物を着て接客する日)に合わせ、美容院で花魁着付け&自分でメイクする。そういうことが可能なように、「着物ageha」は作られているんです。

「着物ageha」に掲載されているのは、ほぼ全てが「Sweet Angel」というブランドの着物。Sweet Angelは株式会社泰和(りんず)のグループ企業で、小悪魔ageha衣装提供ショップとして2007年に設立された新しいブランドです。
そもそも、りんずそのものが新規参入企業。ギャルやキャバ嬢に狙いを定めた着物を売るメーカーとして、2006年に生まれました。
りんずの売上高は、2010年には2億8,000万円。
2011年には4億2,000万円。そして2012年には4億7,900万円と、「急激な成長は望めない」というのが常識になっている着物業界の中で、順調に成長しているのがわかります。
ここで目立つのは、2010年から2011年にかけての数字。1.5倍の増収です。
そして「着物ageha」が初めて発売されたのが、2010年12月24日。
つまり、「着物ageha」に影響を受けた読者たちが、「着物agehaに載ってるような着物が着たい!」と考えてSweet Angelの着物を選んだことが、翌年の増収につながったと考えられます。りんずの店舗ブログでも、「着物agehaを読んでやってくるお客さんがとても多い」とありました。

はっきり言って、着物agehaに載っているファッションは超奇抜。私が着たいかと聞かれれば首を横に振るし、成人式で元同級生がageha的な着物を着ていたらめちゃくちゃびっくりします。
でも「こういうかっこをしたい!」と思っている女の子がいるのも事実。そしてその欲望と需要を、「着物ageha」だけが満たしてくれているんですね。
突飛なキャッチコピーに目を奪われてしまうけど、実は重要なのはそこじゃない(中條元編集長は、インタビューで「読者は、そのへんあんまり意識してないんじゃないですか? 女の子って、文字をあんまり読まないから
可愛かったりキラキラしてたり、そういうところのほうに惹かれてる」と発言してます)。
徹底的にピンポイントな姿勢こそが、「着物ageha」のいちばん攻めているところ。来年の成人式で奇抜な着物女子を見たら、眉をひそめる前に「着物ageha」パワーのスゴさに唸りましょう!
(青柳美帆子)
編集部おすすめ