売上ベスト3を人外マンガが席巻している。
一つは以前も紹介した、人外エロラブコメディ『モンスター娘のいる日常』。
そしてもう一つが、ケンタウロス(人馬)のヒロインが主人公の『セントールの悩み』です。
その書店が特別に人外マンガ好きが集まる場だったのか……?
今、ごくごく局地的ではありますが、人外キャラブームが来ています。
主に、コミックリュウ近辺で。
人外キャラと言っても色々あります。宇宙人、モンスター、ネコミミ娘、巨人、小人、ロボットなどなど。
人間ですが、単眼、複眼キャラも今ひそかに人気。コミティア(創作オンリーの同人誌即売会)では特にモンスター娘はちらほら見られるようになりました。
『セントールの悩み』は、設定を煮詰めることで、その最先端を行っているマンガ。
モンスター娘好きって、やっぱり「かわいい」から始まると思うんです。
しかし、この作品徹底して、それぞれの種族の生態を、極めて詳しく設定して描いています。
生活習慣、体の作り、服装、社会構造などなど。
逆にこちらが考える普通の人間は一切出て来ません。
だから「人外」というと誤りでしょうね。この世界においては、人馬だったり、翼人だったり、人魚だったりのほうが、人類。
実は少女たちの日常の皮をかぶった、異なった進化形態を描いたSF作品なんです。
描かれるのは、ごくごく普通の少女の生活。君原姫乃という女子高生の人馬です。
体が馬なので、着替えはちょっと大変。ですがこの世界には人馬はたくさんいるので、衣装はちゃんと用意されています。おしりは見せません。
蹄鉄はつけず、ゴム蹄鉄をつけて歩きます。おしゃれ用にブーツ状のものも。この人馬ファッションを見ているだけでも、かわいいし、機能的だしでよくできています。
姫乃や友人達が悩むのは、自分の身体的コンプレックスだったり、髪の毛の長さだったり、運動神経だったり、ダイエットだったり。
最初は「人馬がヒロイン」というキャッチーさに惹かれますが、読み進むと、それよりも彼女の日々の生活描写の方がよっぽど面白いことに気付かされます。
思春期になると、自分は「人と何か違うんじゃないか」と不安になることがあります。
それがコンプレックスなどの悩みになっていくもの。自分と他者の違いが見えてくるから、怖いし、ハラハラする。
この「違う」という感覚を、文字通り進化の人種の違いに置き換えて描写しているのです。
確かに人間は千差万別。この作品の人類も千差万別。身体的特徴も含めてバラバラ。
でもその違いを、『セントールの悩み』では、ごく自然なこととして描きます。
大人から見たら、中高生の感じる「自分は何かおかしいんじゃないか」コンプレックスなんて大したことがなかったりするように、この作品の種族の差も、なんてことないものとして描かれるのです。
同時に、最近は「人種差別問題」にも焦点を当てて来ました。
人間がいつの時代も抱え続けている人種差別。非常に厄介で難しい問題です。
このマンガの世界では、人種差別に対しては極めて敏感で、繊細。
形態差別をすると、思想矯正所行きになるとのこと。実質死刑とまで言われています。どんな場所なんだ、ちょっと怖いぞ。
ファッション誌では、どの形態の人種でも必ずその形態のファッションを同列に扱うことになっています。たとえ読者の中にその人種が14人しかいなくても。
交流授業として、水人(人魚)の学校に行くシーンもあります。半分水に浸かった学校の構造は見もの。やっぱり生態は全然違うけど、分かり合おうという教育方針。
色々な人種がいるのはわかっているので、「平等」を徹底している世界なのです。
それでも実態がわかっていない人種が途中からまじります。南極人の蛇人です。顔と尻尾が完全に蛇で、この社会では極めて珍しい。
けれど「蛇人」という言葉自体が差別用語。中には「蛇人は人を食べる」という間違ったイメージで作られた古い映画が出てきたりもします。
触れ合うことで、南極人と姫乃達も理解を深めていきますが、最初はやっぱり怖いんです。不安になるんです。お互いに。
人種間問題はやっぱり「ちょっと怖い」スタートし、たくさんの苦労と交流の時間をかけて、乗り越えていくもの。
これを学生規模の「悩み」で、リアルに描いていきます。
なかなか社会風刺として鋭いものもあり、ドキリとさせられます。
小さな思春期の悩みから、巨大な人種差別問題まで扱っている本作、単なる「モンスター娘萌え」マンガではありません。
ただそれでも、人馬の姫乃がかわいい! 翼のある委員長かわいい!
読み始める前は「モンスター娘かわいい」だったのが、気づけば「この子がかわいい」に変わっていきます。
蛇人の少女は言います。「他者を知ることは、己自身を知る事」。
元々人外キャラ好きな人なら、なぜその子達を好きになるのか、再認識させられる作品です。
そうじゃない人なら、最初はなんか変なマンガだなあ、から入ってもいいと思います。読んでいたら、自然とこの子たちのこと、好きになっちゃいますから。
ところで、この世界に行ったら、ぼくは「猿人」なんだなー。なんか不思議。
(たまごまご)
村山慶 『セントールの悩み 1』
『セントールの悩み 2』
『セントールの悩み 3』
『セントールの悩み 4』