先日、『孤独のグルメ Season3』で懐かしい食べ物を見て、無性に食べたくなった。
それは、「チューリップから揚げ」。


手羽に切れ目を入れて骨を1本抜き、肉をひっくり返してチューリップの花のような形状にまとめ、唐揚げにしたものだ。昔はお弁当などによく入っていたし、誕生日会やパーティーメニューでも定番だった。みんな大好きだったはずなのに、いまはこのチューリップ唐揚げを、お店でも、お弁当などでもあまり見かけない。それどころか、若い世代にはチューリップ唐揚げという存在を知らない人も多いようだ。

なぜチューリップ唐揚げがマイナーになってしまったのだろうか。『孤独のグルメ』でゴローが訪れていた「鳥椿」店主の北野達巳さんに聞いたところ、「昔を知らないので、あくまで推測ですが」として、以下の回答をくれた。


「昔はおそらく鶏の部位で手羽がいちばん安かったのではないでしょうか。それが、ブラジル産などの安いもも肉、胸肉が輸入されるようになったことで、もも肉や胸肉が主流になったんだと思います」
チューリップは、骨を1本抜く手間のかかる作業があるため、あまりやらなくなったのではないか、ということだった。

ちなみに、同店では三年ほど前の唐揚げブームから、他店との差別化を図るため、「チューリップから揚げ」を売りにしているそうだ。
「うちでは輸入肉でなく、宮崎産の手羽を工場でチューリップに加工してもらって仕入れています。『懐かしい』と言う声が多く、好評です」

また、一般社団法人日本食鳥協会に同様の質問をしたところ、こんな回答があった。
「牛、豚、鶏のなかでは、鶏肉自体は『高タンパク』『低カロリー』『低価格』であることから、伸びています。
ただ、鶏肉のなかで増えているのは、もも肉や胸肉ですね」

チューリップは手羽で作るが、今は甘辛い手羽先が好評で、主流になっている。また、手羽先や手羽中はそのまましゃぶって食べやすく、扱いやすいのに対し、手羽元は骨がゴツゴツしていて食べにくく、かといって手間をかけてチューリップにしようという人も少なく、需要が少なくなっているそうだ。
「食べるときも、チューリップ唐揚げは持ち手の骨の部分にホイルを巻くなど、手がかかりますよね。普通のからあげのほうが食べやすいことはあるでしょうね」

ちなみに、専門店によると、手羽の中でコラーゲンがいちばん多いのも、手羽先だそうだ。
「チューリップ唐揚げが衰退したというよりは、手頃で手軽で栄養価の高い手羽先や、食べやすい普通の唐揚げの人気が伸びたということではないでしょうか」
加えて、冷凍食品の普及も影響しているのではないかと、都内の30代主婦は言う。
「昔はお弁当用にチューリップ唐揚げをよく作ったけど、冷凍食品のチキンナゲットが流行ったり、冷凍の唐揚げが美味しくなったりしたことで、わざわざチューリップを作ることはなくなりましたね」

手間がかかるため、家庭でも、お店でも作る機会が少なくなったチューリップ唐揚げ。

でも、根強い人気はあり、先の「鳥椿」のようにチューリップ唐揚げが食べられるお店はファンの間で愛され続けているようです。
(田幸和歌子)