伝説の大泥棒「天切り松」(『天切り松 闇語り』シリーズ)から鉄道員一筋の駅長(『鉄道員(ぽっぽや)』)、江戸城に無言で居座る謎の旗本(『黒書院の六兵衛』)に至るまで、多種多様なキャラクターが登場しながらも、「悪役がいない」と評される浅田作品。
作家はどのようにキャラクターを生み、育てるのか。その内幕に迫ったのが、3月2日に開催された浅田次郎と林真理子によるトークイベント(芥川賞&直木賞フェスティバル)である。
電車で美人と向かい合わせに座ると、「この人を表現するにはどうしたらいいんだろう……」と考えずにはいられないという林。交友関係が広く、フットワークも軽い。「政治家とつきあうなんて」「金持ちに媚びを売っている」などと批判されることもある。しかし、本人は「立ち話するぐらいいいじゃん」と笑い飛ばす。「この間、官僚との飲み会があったんだけど、彼らはマガジンハウスの編集者みたいな格好してるわけ。こうしたイメージのずれをひとつひとつ確かめていくようなところがあります」(林)。
偶然見かけたシーンが、小説になることもある。あるとき、浅田は講談社の保養所に”カンヅメ”にされていた。『蒼穹の昴』を書き上げるためだったのだが、原稿用紙1800枚もの長編がそうそう終わるわけもない。
「よその原稿を書かせず、自社の原稿に専念してもらう」というカンヅメの目的からすると、出版社側は苦笑いするしかない。だが、これは”作家あるある”らしい。カンヅメにまつわる武勇伝が次々飛び出す。「いつも食事代の請求が二人分になっている」「和服美女が『先生に頼まれまして……』とお重を持ってやってきた」など、文壇らしい艶やかなエピソードに会場が沸く。
浅田も「何度も書き直しをさせられ、最後は原稿だけ置いて逃げ出した」ことがあり、林は「感じの悪いスタッフに腹を立て、荷物をまとめてホテルに行ってしまった」という経験を持つ。「何ヶ月もホテル住まいを続け、季節が変わってしまうなんてことがよくありました。ホテル代は途中から自腹ですけどね(笑)」(林)。
さらに、林がモノマネを披露するという一場面も。
「性格的に人間好き」だという林。対する浅田は「どちらかというと人間嫌いで、人付き合いもうまいほうではない」と告白する。如才なく場を盛り上げ、おどけて見せる姿からはにわかに信じがたいが、「世界が俺ひとりを残して破滅しないかなと思うぐらい、一人が好き」だというのだ。
人間が好きでも嫌いでも、人付き合いが得意でも苦手でも、観察はできる。会うたびに少々イラっとする相手も面白がってしまえば、こっちのもの。まずはこっそりモノマネでも始めてみようか。
(島影真奈美)
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